今回は、権利の客体としての物についてです。
人や法人が権利の主体であるとすれば、物は権利の客体です。
主として物権法との関連性が強いテーマですが、民法は、債権法まで含めた民法全分野に共通するテーマとして、物について民法総則で定めています。
以下、条文・判例を踏まえて説明します。
権利の客体と「物」の意義
「権利」とは社会において一定の利益を享受できる地位を指します。そして、その利益の対象を「権利の客体」と呼びます。
ちょっと難しい言い方ですが、所有権など権利の対象となる「物」を権利の客体と呼ぶ、と理解すれば分かりやすいかもしれません。
コンビニで買えるものは、すべて権利の客体です。
もっとも、権利の客体は物に限られません。人の行為・サービスも権利の客体となり得ます。たとえば、家庭教師に勉強を教えてもらう権利は、勉強を教えてもらうというサービスを権利の客体にしています。
物権法・債権法の区分に従えば、それぞれ主たる客体は次のとおりです。
物権: 「物」を支配する権利。
債権: 「人の行為」を要求する権利。
民法が「物」を総則に規定する理由
「物」は、主として物権の分野に強く関連するテーマですが、債権法においても重要な要素となるため、総則(民法第85条以下)に物に関する規定が置かれています。
「物」の定義・要件(民法85条):
ここで、物の定義あるいは要素について確認します。
有体物である必要がある
この法律において「物」とは、有体物をいう。
物とは、原則として「有体物」(形のあるもの)を指します。個体であるか否かを問わず、液体・気体も物に該当します。
少し問題となるのは、電気等のエネルギーです。あるいは「熱」もここに含めても構いません。
これらのエネルギーは概念上、有体物には当たらないと理解されますが、刑法上の判例は、管理可能性があることを理由に、電気を窃盗罪の対象(物)と認めています(大判明治36年5月21日参照)。
民法上でも、物に該当すると考えるのが自然なように思われます。
人の一部ではないこと
物であると言えるためには、有体物であると言えるほか、人体から切り離されていなければなりません。人体の一部は物ではないと考えられます。
他方で、例えば切り落とされた「髪の毛」や「爪」は、物に該当します。また、「死体」も物に該当すると考えられています(喪主に所有権が帰属すると考えられているようです)。
不動産と動産
1 土地及びその定着物は、不動産とする。
2 不動産以外の物は、すべて動産とする。
物(有体物)は、不動産と動産とに区別されます。
- 不動産
土地およびその定着物を指します。 - 動産
不動産以外の物。
不動産について
不動産とは、土地及び土地上の定着物(建物等)を指します。
定着物というのは石垣や庭に生えている桜の木を思い浮かべてください。土地と一体化した石垣や木は、定着物として土地の一部と扱われます。
これら土地の一部は、土地と一体となっているため、土地の処分に従います。
例えば、土地と石垣が一体となっている場合、土地の所有権が移転する際には、石垣も土地と一体の物として、相手方に権利が移転します。
土地と一体となっている物は、原則として土地の処分に従うのです。
もっとも、建物と立木については別異に考える必要があります。
建物について
日本の民法では、建物が土地に定着していた(固定化していた)としても、建物を土地とは別個の不動産として扱います。
したがって、単に土地を売るというだけでは建物所有権は移転しません。建物所有権を移転させるためには、別個の行為が必要となります。
立木について
田舎に行くと、杉林などの立木が隆々とした山が各所に散在しています。
この立木は、土地と一体になっていますので、不動産の一部です。土地と一体となっていますので、原則通りに考えれば、立木は独立した処分の対象になりません。
しかし、日本の材木の取引慣行上、立木のまま処分することが実務慣習となっていました。そのため、判例も立木を独立した取引(処分)の対象とすることを認めています。

動産について
動産は、不動産以外の物をいいます。
貨幣も動産の一種ですが、通常は、個々の物としての個性が問題にならない特殊な性質を有しています。