法人格とは

ビジネスにおける契約場面や登記の場面、あるいは民法の教科書などにおいて、「法人格」という言葉がでてきます。

あまり、正面切って勉強することは少ないかもしれませんが、基本的な概念を押さえておきましょう。

以下、法人格の定義や意味、法人格を取得することのメリット、法人格なき社団の概念などを見ていきます。

法人格とは

法人格とは、法が権利義務の主体となり得ることを認めた人格のことを指します。

広義では「自然人」と「法人」の両者が有する法的地位を指します。狭義では自然人を除いた「法人」の有する法的地位を指します。
<広義の法人格>
・自然人
・法人

法人格という言葉は、日常的には、狭義の意味で用いられることが多いです。

だ、英語では「Legal personality」と記載します。会社や社団法人など狭義の意味合いに限定されるものではありません。

Personalityという単語が入っており、広義の意味において、自然人が含まれる点を理解しやすいです。

自然人について

法人格を有するとされるものの一つが「自然人」です。

自然人というのは、法律用語であり、「生きている人間」を指します。

老若男女、主婦、ビジネスマン問わず、自然人です。

これを読んでいるあなたも自然人です。

広義の意味においては、自然人は皆、法人格を有します。

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自然人は、民法上、どういった地位を有するのでしょうか。また、自然人の権利の享有について民法はどのように規定しているのでしょうか。

この点について解説した記事が次の記事です。

・自然人とは?

法人とは?

法人格を有するとされるもののもう一つが「法人」です。法人とは、法人格を有する人や財産の団体を指します。

法人は権利義務の主体となる地位を有します。

大雑把に言えば、権利や義務については、生きている人間と同じように扱うことを法律が認めた団体です。

法人は、たとえば、不動産に関する権利などを公示する不動産登記等の名義人となり得ます。

また、法人は、預貯金の口座名義人にもなり得ます。

自己の名において権利義務の主体となる地位を有することが認められているからです。

権利能力との関係

「法人格がある」という言葉は、「権利能力がある」という言葉とほとんど同義です。

権利能力というのは、私法上の権利義務の主体となり得る地位を指します。

「権利能力がある」と「法人格がある」という言葉の意味合いはほとんど同じです。

あえて違いを述べるとすれば、「権利能力がある」という言葉は、「私法上の権利義務関係の帰属主体である」という意味合いで使うことが多いです(絶対ではありませんが・・・)。

これに対して、「法人格が有る」という場合、会社がすでに設立されているのかなど、自然人以外の者に「法人性」が付与されているのか、という文脈で用いられることが多いです。

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権利能力は、大雑把に言えば社会のステージに立つ能力です。民法には、「行為能力」といた類似の用語がありますが全く違う概念です。

権利能力については次の記事をご参照ください。

権利能力とは?

法人と個人事業主

法人格の意義を理解するために、法人と個人事業主を比較してみましょう。

大雑把に言えば、契約などを行った際「法人」にその効果が帰属するのか「個人」にその効果が帰属するのか、が異なります。

登記などに際しても、法人が名義人となるのか個人が名義人となるのかに差が生じます。

売買契約における違い

以下、上記の違いにつき、売買を例に見ていきます。

法人の売買契約

たとえば、Aさんが法人である株式会社に不動産を売却する売買契約した場合、当該契約の権利義務の主体となるのは、あくまでその株式会社です。

株式会社に効果が帰属します。

Aさんは、基本的には、株式会社の代表取締役という「個人」に対しては、当該契約を守れということはできず、あくまでその会社に対して、契約上の義務の履行を求めていくことになります(売買代金を請求していくことになる)。

個人事業主の売買契約

これに対して、たとえば、Aさんが、Bさんが個人事業主として運営する商店に対して、不動産を売却する契約をしたとします。

この場合、当該商店には法人格はありません。

あくまでAさんはBさん個人と契約をしたことになりますので、Aさんは、Bさん個人に契約上の義務を守れ(売却代金を支払え)、と主張していくことになります。

売買契約書上、慣行により、買主名義人は「当該商店」の名前が記載されているかもしれませんが、それはあくまで、Bさん個人を意味することになります。

不動産登記における比較

また、不動産登記について、上記売買の例では、不動産を購入した株式会社は、自社の名義で不動産登記をすることが可能です。

これに対して、個人事業主であるBさんは、自己の「商店」の名前(商号名)では登記はできず、あくまでB個人の名前で登記をすることになります。

このように、法人格の有無は、登記上の名義人となり得るか、等の点においても差が生じます。

法人格を取得するメリット

法人格を取得するメリットは、一般に次のように説明されます。
<法人化のメリット>
・団体が権利義務の主体となれる
・責任関係の明確化が図れる
・社会的・経済的信用が高い
・税制・補助金制度上の優遇措置

団体が権利義務の主体となれる

まずはこれです。人の団体や集合体が権利義務の主体となれる、というのが法人格取得の第一のメリットです。

法人に直接権利義務が帰属するため、法人の構成員が変動した場合でも、権利義務関係を維持することができます。

【構成員が変動したとしても法人格は維持される。】
法人格を有する団体は、その代表者などが亡くなったとしても、団体としては継続します。

また、代表者たる社長が高齢になってきたために社長を交替するなどした場合でも、法人の団体の権利義務関係は、法人に帰属したままです。

法人として、直接権利義務の主体となることで、その構成員(自然人)の変動がある場合でも、権利義務関係を安定的・継続的に維持することが可能です。

責任関係の明確化が図れる

法人各取得のメリットとしては、さらに、権利義務関係、責任の所在を明確化することが可能という点を挙げることができます。

先ほどの個人と株式会社との取引の例で見てみましょう。

株式会社が第三者と契約などを締結した場合、株式会社の代表者たる社長個人は、その契約などの責任を負いません。株主も同様です。

株式会社の場合、社長個人が連帯保証などをしていない限り、契約などの責任を負うのは、あくまで株式会社となります。

社長や株主が個人で契約責任を負う訳ではないので、社長は思い切った経営を図ることが可能です、また、株主も安心して投資をすることができます。

社会的・経済的信用が高い

実際上の社会的・経済的信用性が高いこともメリットの一つです。

一般論ですが、たとえば、個人事業主と株式会社とでは、株式会社の方が社会的・経済的信用性は高いと言われています。

その結果、法人化することで、融資や資金調達の容易化されるわけです。

クレジットカードなどにも、法人専用カードのようなものがありますよね。

また、企業によっては、個人事業主とは契約しない、契約の相手として選べるのは法人のみという会社もあります。

税制・補助金制度上の優遇措置

法人には税制上、補助金制度上の優遇措置がある点もメリットと言えます。

たとえば、個人に課せられる所得税よりも、法人に課せられる法人税のほうが、最高税率が低く設定されており、かつ、事業活動のための経費(損金)としうる範囲が広いなどの例が挙げられます。

そのため、節税対策の一つとして法人格が利用されることがあります。

また、制度によっては、補助金の対象となしうるのが、法人のみ、という場合もあります。

地方公共団体が、NPO法人に限って、一定の補助金の支給対象とするなどがその例です。

法人の種類

法人の種類は多々あります。
・会社
・社団法人・財産法人
・NPO法人
などなどです。

会社(株式会社など)

法人の代表格は会社です。

株式会社、合資会社、合名会社、合同会社が該当します。

たとえば株式会社は、株主が資本を出資して、取締役らに経営をゆだねる法人です。

株主は、会社の債権者などに対して直接責任を負わず、間接的に、かつ、出資の範囲内でのみ、責任を負う団体です。

法人の代表例の一つと言えます。

社団法人・財団法人

社団・財産法人もあります。

テレビなどで一般社団法人といった言葉をよく耳にします。

この法人は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」という法律に規定される法人です。

一般財団法人も、同法律に規定されています。いずれも非営利の法人です。

NPO法人(特定非営利活動法人)その他

また、特定非営利活動法人たるNPO法人もその例です。その他、法人の種類はもろもろです。

その他の法人としては、例えば学校法人や医療法人、宗教法人(お寺など)、税理士法人、弁護士法人、独立行政法人等が挙げられます。

なお、国や地方公共団体も法人格を有します。

たとえば、地方公共団体と公共工事等の契約をする場合、地方公共団体が契約の主体となります。市長が契約の主体となるわけではありません。

法人格の取得

法人格の取得の方法ももろもろです。法人の種類によって、法人格の取得方法は異なります。

取得の方法としては、次のようなものがあります。
  • ・特許主義
  • ・強制主義
  • ・許可主義・認可主義
  • ・認証主義
  • ・準則主義
  • ・当然主義

以下、それぞれ概略を見ていきます。

特許主義

特許主義はある法人の設立のために特別の法律制度を必要とするものです。

特許主義に基づく法人には、日本銀行などがあります。

強制主義

強制主義は、国が設立を強制するものです。

この主義に基づく法人としてはたとえば弁護士会等があります。

許可主義・認可主義

許可主義は、法人の設立に主務官庁の許可を要するものです。許可の可否は自由裁量とされます。

許可主義に基づく法人としては、旧民法下における公益社団法人等があります。

認可主義も、主務官庁の許可をうけることで設立される法人です。

ただし、許可主義と異なり、社団・財団が一定の要件を備えている場合、主務官庁は許可しなければならないとされています。

認可主義に基づく法人としては、たとえば、医療法人等があります。

認証主義

認証主義は、法律上の要件を満たしていることを主務官庁が確認することによって認められる法人です。

認証主義に基づくものとしては宗教法人などが有ります。

準則主義

準則主義は、一定の要件を備えることによって認められる法人です。

商業登記の具備を要件とすることが多いです。

具体例としては、株式会社を挙げることができます。

当然主義

当然主義は、法律上、当然に法人とされるものです。

「当然に」というのは、ここでは、「何らの手続無しに」という意味合いです

当然主義に基づくものとしては、地方公共団体や相続財産法人がその例として挙げられます。

法人格の消滅

法人格の消滅原因やその手続は異なりますが、基本的には法人の清算を終えることが要件となります。

たとえば、株式会社の法人格を消滅させる手続は会社法に書いてあります。

会社法によれば株式会社は解散によって、残余財産の清算手続に移行します。

その後の清算手続における清算結了をもって、株式会社の法人格は消滅します。

法人格の有無の確認方法

新規取引などに際して、法人を名乗る相手の法人格の有無をチェックすることが必要となることがあります。

通常は法務局で登記を確認すれば足ります。登記がない法人については、主務官庁などにて確認することになります

通常は法務局で登記を確認

まず、株式会社など、一般的な法人が現に存在するか否かは法人登記をチェックすることで調べることが可能です。

会社のほかにも、社団・財団法人,宗教法人,医療法人などは登記が備わっているはずです。

これらの法人の法人格は、法務局で商業・法人の登記事項証明書を申請するなどして、確認することになります。

数百円の手数料はかかりますが、登記事項証明書はだれでも確認することが可能です。

登記がない場合もある

他方で、法人登記されていない法人というのも存在します。

この場合は、主務官庁等に法人格の有無を確認する方法を問い合わせるのが確実です。

登記のない法人としては、認可地縁団体がその例として挙げられます。

たとえば、認可を受けた町内会などの認可地縁団体については、市役所などの自治体にて、証明書を発行してもらうなどの方法で、法人格の有無をチェックすることになります。

法人格に関連する代表的な論点(概念)

最後に、法人格に関連する次の二つの代表的な概念について紹介します。

⑴法人格なき社団 
⇒法人格は無いが法人と同一レベルの組織を備えた団体の権利の帰属が議論されます。

⑵法人格否認の法理
⇒法人格はあるものの、一定の場合には、これを否定すべきではないかが議論されます。

①法人格なき社団/法人格を持たない団体

法人格なき社団とは、法人と同様の組織を備えた団体であるが、法人格を備えていない団体を指します。

別名、「権利能力なき社団」とも言います。

法人格がないため、同社団は、たとえば不動産登記の名義人になれません。

もっとも、団体の中には、法人と同レベルの組織を備えているため、法律上、法人と同等に扱うのが望ましい場面も多々あります。

そこで、法人でない団体をどのように法人と同等に扱うか、どのような場合に法人と同等に扱うか等について判例法理が発展しています。

たとえば、法人でない団体の財産を総有的(潜在的持分のない共有)に帰属する、などと解するのがその例です。

なお、法人格なき社団ないし法人格をもたない団体の具体例としては、マンションの管理組合等が挙げられます。

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権利能力なき社団については後記の関連記事をご参照ください。

代表的な論点の他、実社会において、どんな団体が権利能力なき社団として認められているのか、実生活における権利能力なき社団の契約名義の書き方等について解説しています。

権利能力なき社団とは?

②法人格否認の法理

法人格に関連するもう一つの有名な概念(論点)が法人格否認の法理と呼ばれる考え方です。

これは、上記法人格なき社団とは対比的な問題であり、法人としての組織をまるで備えていない法人等について、法人格を認めてよいのか、という議論と位置付けられます。

特に、法人格が形骸化している場合や、濫用されているにすぎない場合に、当該事案において、法人格否定して、その代表者個人などに責任を追及しよう、という場面などで議論されます。

この法理は、一般法理としては既に承認されており、たとえば、ある法人が余りに形骸化しすぎているような場合(たとえば、単なる個人事業主と見るべき様な場合)等に、当該法理が適用され得ます。

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上記の法人格否認の法理については、後記の記事にて説明しています。

初学者間では知識の有無に差がつきやすい論点です。ぜひご参照ください。

法人格否認の法理とは