内縁配偶者と相続

今回の記事は内縁関係にある配偶者の相続権についてです。

たとえば、妻子のない者が死亡した場合、その者と内縁関係にあった女性には相続権はあるのでしょうか。また、かりに相続権がないとしても、財産分与が請求できないか、などの問題です。

以下では、次の4項目を見ていきます。
・妻子のない者が死亡した場合に内縁関係にあった女性には相続権があるか
・内縁配偶者は死別に際して財産分与を請求できるか
・内縁配偶者は共有持分権を主張して遺産を取得する余地があるか
・内縁配偶者は特別縁故者として遺産を取得する余地があるか

内縁配偶者の相続権

まず、内縁関係にある場合、内縁配偶者には相続権があるのでしょうか?

この点につき、一般的には「認められない」と解されています。

民法890条における「配偶者」は、同法739条に規定される婚姻届出を済ませている者、つまり法律婚の状態にある者を指すと解され、内縁の夫・内縁の妻はこれに該当しないためです。

内縁配偶者に相続権が認められないというのは、現在の通説・判例の立場になっています。

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内縁配偶者は死別に際して財産分与を請求できるか

次に、内縁配偶者は死亡した場合に財産分与を請求できるのでしょうか?

財産分与というのは、夫婦が形成してきた財産につき、離婚に際してこれを分け合うことをいいます。

そして、内縁の当事者の生存中に内縁関係が解消した場合(離婚類似のケース)では、離婚に伴う財産分与の規定が類推適用されるとされています。すなわち、財産分与が肯定され得ます。

しかし、内縁配偶者の一方が死亡した場合については見解が分かれています。

これを肯定する立場は、内縁関係が解消した場合、内縁関係が離別により解消した場合との均衡から、財産分与の規定を適用するべきだとの見解に立ちます。

他方で、否定説は、離婚と死亡では法的な性質が異なり、財産分与と相続を混同すべきではないとの立場を取ります。

この点に関し、最高裁は、「内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできないと解するのが相当である」と判示しており、否定説に立ちます。(最決平12・3・10判時1716・60)。

共有持分権を主張する余地

では、内縁配偶者は、パートナーとともに所有・使用していた財産について共有持分権を主張できないでしょうか。

たとえば、内縁の夫婦が共同で経営する家業の収益から不動産を購入し、その登記名義が夫になっていた場合です。

こうしたケースにおいては、事情により、当該財産がその内縁の夫婦の「共有」であった、との理由で、残された内縁配偶者は共有持分権を主張し得る場合があります。

特別縁故者としての遺産取得

最後に、内縁配偶者が特別縁故者として遺産を取得できる余地はあるのか、との点についてです。

特別縁故者というのは、被相続人と特別の関係のある者を指し、他に相続人がいない場合に一定の財産分与を得ることができます。

そして、結論を言えば、内縁配偶者も事情により特別縁故者に該当しえます。

ただし、この制度の下で財産分与を受けられるのは、相続人がいない場合に限られるため、活用できる場面は限定的です

ひびき法律事務所にご相談ください

内縁関係にある配偶者については、上記のとおり原則として相続権が認められません。したがって、内縁関係にある者に遺産を残すためには、遺言や生前贈与といった形をとるのが一般的です。

ひびき法律事務所(北九州)では、遺言や生前贈与に関するご相談も承っております。遺言や生前贈与をお考えの場合、弊所にぜひご相談ください。