民法と刑法

今回のテーマは、民法と刑法について。いずれも、法律の中では最も有名な部類に属するものだとおもいます。両方とも「六法」と呼ばれる法律のなかに含まれています。

[六法]
①民法、②刑法、③商法、④民事訴訟法、⑤刑事訴訟法、⑥憲法

民法と刑法は、法律の内容等、全然違うのですが、全く法律を学んだことがない、という場合、両者の関係とか違いとかって、意外と想像がつかないですよね。

そこで、今回は、両者のの基本と違いを解説します。

民法について

まずは民法についてさっくり見ていきましょう。

私人と私人との関係を規律する法律

民法は、契約やらビジネスやら、家族関係やら、私人と私人の間の関係を規律する法律です。

契約、ビジネスについていうと、たとえば、売買契約をしたときに関し、民法は、「売主は商品を買主に渡さなければならない」とか「買主は代金を売主に支払わなければならない」などと定めています。

また、結婚した夫婦間の権利・義務関係や離婚、養子縁組、相続などについて定めているのも民法です。これらは、家族間・親族間における法律関係を規定するものです。

その他、不法行為に関する規定もあります。これは、不法な行為によって他人の財産や身体に損害を与えた場合に、加害者はそれを被害者に賠償しなければならない、というものです。また、これ以外に、名誉棄損などについても、民法は規定しています。

理解するためのポイント

民法を理解する上でのポイントは、繰り返しになりますが、私人と私人との関係を規律している、という点。

これは裏返していえば、民法は私人と国との関係を規定する法律ではない、ということになります。

まさにここが、刑法との違いを理解する上で重要な点です。

刑法について

次に刑法についてです。

刑法は犯罪と刑罰について定めた法律

刑法は、何が犯罪なのか、罪を犯したら、どういった刑罰を受けるのか、といった点を定めた法律です。

たとえば、刑法が定める犯罪の一つに、器物損壊罪っていうのがあります。これは、他人のものを故意に壊す等する行為を罰するものです。

器物損壊罪などの犯罪が行われた場合、国は、その行為を行った者について刑罰権を取得します。

刑罰権というのは、罪を犯した者につき、罰金を科したリ、懲役にしたりする権限です。国に個人の身体や移動、居住の自由を制限する等の権限が与えられるわけですね。

刑法を理解するためのポイント

民法との対比・比較において、刑法を理解する上でのポイントは、民法が私人と私人との関係を規律するのに対して、刑法は、個人と国家の関係を規律する法律だという点です。

刑法が定めるのはあくまで、国家がどういった場合に刑罰権を有するのか、どういった刑罰を科せるのかという点です。

私人に対する国家の権限発動の条件等を定めているともいえます。

具体例でみる民法と刑法の違い

上記の通り、民法は私人と私人との間の権利義務関係を規律する法律です。他方で、刑法は、国家の刑罰権等について定めた法律です。

規律する内容というか、対象が全く異なります(次の図参照)。

人に対する国家の刑罰権について定めるのが刑法、私人間の権利義務関係を定めるのが民法である。

この点を確認するため、もう少し具体例を交えて見ていきます。

物が壊されたという場合

たとえば、ある人と紛争になって、物が壊された、ここでは自転車が壊されてしまった、としましょう。

先ほど見たとおり、刑法は、器物損壊罪という犯罪類型を設けており、わざと他人の自転車を壊した場合、その行為者に対して、国が刑罰を科すことができることを定めています。

これに対して、民法ではどうなるか。

民法は、不法行為に関して、加害者が被害者に対して、損害を賠償しなければならない、と定めています。

自転車を壊す行為も不法行為であり、加害者は被害者に対して、修理費等の損害を賠償しなければなりません。

上記の例では、加害者が被害者に対して損害賠償金を支払わなければならない、ということになるわけです。

刑法を適用⇒国の加害者に対する刑罰権
民法を適用⇒被害者の加害者に対する損害賠償請求権

名誉棄損について

もう少し、民法と刑法の適用例について見ていきます。

たとえば、刑法は、他人の名誉を棄損する行為を犯罪と定めています。もうお分かりかもしれませんが、刑法上、名誉棄損を行った者に対しては国家が刑罰権を有します。

これに対し、民法典にも、名誉棄損に関する規定が存在します。そこでは、名誉を棄損した者は、被害者に対して、損害を賠償したり、場合により、名誉を回復するのに適当な措置をとったりしなければならない旨、規定されています。

これは、被害者が加害者に対し損害賠償請求権や名誉回復措置にかかる請求権を有している、ということを意味します。

ここでは、被害者が加害者に対して請求権を有するというのがポイントです。あくまで私人と私人との間の権利義務関係について民法は規定しているわけです。

詐欺について

くどいかもしれませんが。詐欺についても見ておきますね。

詐欺についても、刑法、民法両方ともに規定が有ります。他人を騙して物やお金を採った場合にどうなるか、という点です。

刑法では、上記と同じく、国が加害者に刑罰権を有します。

民法では、被害者に詐欺の対象となった自身の行為を取り消す、という権利が付与されています。もっと平たく言えば、民法は、詐取されたお金や物を取り返すための権利について定めている、といえます。

なお、刑法をいくら見ても、詐欺された者をちゃんと被害者に返しなさいね、という規定はありません。刑法は私人と私人との関係を規律する者ではなく、あくまで国家の刑罰権等について定めたものだからです。

刑法と民法どっちが優先?

さて、最後に、刑法と民法、どっちが優先されるのか?という、たまにある質問に答えておきます。

ここまで読まれた方は、もうお分かりかもしれませんが、刑法と民法に優先関係はありません。

たとえば、上記器物損壊罪についてみれば、国は刑法に基づいて加害者に対して刑罰権を取得し、また、被害者は民法に基づいて、修理費を払えなどの損害賠償請求権を取得します。

どちらに優先などはありません。国が刑罰権を行使したら、加害者は修理費用を払わなくてよくなる、ということはありませんし、反対に、加害者が修理費用を支払ったら、国の刑罰権が消滅するということもありません。

両者は、次元軸が異なる訳です。けが人が出た交通事故なんかをみてください。国による刑罰権も発生しますし、被害者に対する賠償金支払義務も併せて発生しています。