権利外観法理とは?

今回のテーマは権利外観法理。権利外観理論とも言います。

民法や商法などで頻出の法理です。

公信の原則との関係と併せて、さっくり理解しておきましょう。

権利外観法理とは?その意味について

権利外観法理というのは、①真実と異なる権利の外観が存在し、②その外観を作出した者に帰責性が有る場合に、③当該外観を信じて取引等を通じて利害関係に入った者を保護しようとする法理論を言います。

要は、次の3つの条件が満たされることを前提に、外観を信じた者を保護しようとする法理論です。

<3つの要件>
①真実とは異なる外観の存在
②外観作出についての権利者の帰責性
③第三者の外観に対する信頼

ここでいう権利の外観というのは、平たく言えば、「権利の見た目」です。たとえば、ある権利が真実ないのに、第三者から見て、その権利があたかもあるかのように見える場合に、権利の外観があるという評価をします。

一例を挙げれば、不動産の仮装登記がそれです。

夫婦間で、真実は、夫が不動産の所有者なのに、強制執行を免れるため、妻名義に所有権名義を移転しておく、という場合などが考えられます。

権利外観法理の理論的根拠

権利外観法理の理論的根拠は種々ありますが、重要となるのは、本人の権利保護と取引の安全との調和です。

外観作出の帰責性と第三者保護要件との間のバランスが重要になります。

権利外観法理は、外観作出の帰責性のある者の権利性を否定して、第三者を保護する理論です。

そこでは、権利の外観の作出に帰責性ある者と、その外観を信じた者とで、どちらを保護するのが公平かという問題が生じます。

そのため、第三者保護の要件を定めるに際しては利益衡量が必要です。

大雑把に言えば、権利の外観を作出した者の帰責性が大きければ、第三者側の保護条件(要件)は緩やかになる傾向にあります。

<緩やかな第三者保護要件>
⇒第三者保護要件を単に「善意」だけとする。
⇒第三者の主観面の立証責任を外観作出者に課す(悪意や過失の立証責任を外観作出者に課す。)

他方で、権利の外観を作出した者の帰責性が小さければ、第三者側の保護要件は厳格に解される傾向にあります。

<厳格な第三者保護要件>
⇒第三者に善意の他、無過失や無重過失が求められる。
⇒あるいは、主観面の立証責任を第三者自身に課す(第三者自身に善意等の立証責任を課す)。

権利外観法理の具体例

民法や商法には、権利外観法理の表れともいえる規定が複数存在します。たとえば次のような規定。

  • 通謀虚偽表示における第三者保護(民法94条2項)
  • 表見代理(民法109条、110条、112条)
  • 名板貸責任(商法14条)
  • 表見支配人(商法24条)
  • 表見代表取締役(会社法354条)

なかでも、権利外観法理を理解するには、民法94条2項がうってつけです。

民法94条2項について

権利外観法理の典型例としては、民法94条2項があります。この規定は、通謀虚偽表示における第三者を保護する規定です。

<民法94条>
1.相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2.前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

この規定は、①真実とは異なる外観(意思表示)が、②通謀によって作出された場合に、③その外観を信じて、取引に入った第三者を保護しようものです。

それぞれ、権利外観法理の3つの要件を満たしていること、確認してください。
①真実とは異なる外観の存在
②外観作出についての権利者の帰責性
③第三者の外観に対する信頼

なお、94条2項を直接適用する例では、外観の作出が通謀によってなされている点で、真の権利者の帰責性は大きく、第三者保護要件としては、単に「善意」で足りるとされています

※類推適用の場面ではこの限りでなく、本人の帰責性が小さいと評価される場面もあり得ます。

ローテキスト

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通謀虚偽表示に関するルールは、民法が定める意思表示に関するルールのなかでも重要なものの一つです。

次の記事にて解説しています。是非ご参照ください。

通謀虚偽表示:民法94条

その他の例

その他の権利外観法理の表れといえる条文の例としては、次のようなものが挙げられます。

<権利外観法理の現れといえるもの>
・表見代理(民法109条、110条、112条)
・名板貸責任(商法14条)
・表見支配人(商法24条)
・表見代表取締役(会社法354条)

たとえば、表見代理の規定は、通じて言えば、①当該代理権があるかのような外観の存在、②これを作出した本人の帰責性、③その外観(代理権の外観)を信じることにつき第三者に正当な理由があることを要件の骨子とするもので、権利外観法理の一つと言えます。

ご関心があれば、第三者保護要件についての立証責任が本人に課されているのか、第三者側に課されているのか、109条、110条、112条をそれぞれご確認されてみてください。

本人側の帰責性の大小によって区別されているように評価できるはずです。

ローテキスト

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代理権という外観作出にかかる本人の帰責性と相手方保護の要件論を整理してみました。

本記事と合わせて読んでいただければ幸いです。

表見代理とは

公信の原則(善意取得・即時取得)との関係

ここで一つ、似て非なる概念に、公信の原則という理論があります。

民法においては「即時取得」という制度のバックグラウンドとなっています。

公信の原則も、外観を信頼して取引に入った者を保護する考え方です。しかし、権利外観法理と異なり、本人の帰責性は要求されません。

その違いを理解することで、権利外観法理の理解は一層深まります。

権利外観法理との違い

公信の原則というのは、権利があると信じて取引に入った者を保護しようとする理論です。

真実とは異なる外観を信じた者を保護しようとする点で、権利外観法理と同一の方向性を向いていますが、必ずしも外観作出者の帰責性を要求する者でない点に違いが有ります。

即時取得と権利外観法理

公信の原則の理論的象徴ともいえる民法192条を見てみましょう。

民法192条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

この仕組みは即時取得ないし善意取得と呼ばれる仕組みを定めた規定で、動産の占有に公信力を与え、動産を占有しているという外観を信じて取引に入った者を保護しようとするものです。

ここでは、真の権利者の帰責性は要求されません。

その動産が奪われた、盗まれた場合等、真の権利者に帰責性が無いと言える場合にも、即時取得(第三者による権利取得)が成立します(この点で権利外観法理と異なります。)。

他方で、取得者たる第三者側には、「平穏・公然」・「善意・無過失」「占有開始」という多段階の要件が課されています。

即時取得の制度は、真の権利者に帰責性が無い場面でも適用されますので(ある意味で、相当ラディカルな仕組みですので)、バランス論として、権利取得につき厳格な要件が課されることになります。

権利外観法理との大きな違いです。