権利能力なき社団とは

今回のテーマは権利能力なき社団についてです。

本記事では、まず、権利能力なき社団の定義や成立要件、組織、財産・債務の帰属関係などを確認します。

また、その後で、同社団が契約する際の名義人の記載がどうなるのかという点や、銀行預金口座の取り扱い等を見ていきます。

以下、長文となりますが、お付き合いいただければ幸いです。

権利能力なき社団とは

権利能力なき社団とは、社団としての実体を備えているものの、法人格を有ないために、法形式上、権利義務の帰属主体となることができない団体をいいます。

法人格はないものの、実社会の多くの場面で、法人と同一の取り扱いを受けます。

社団とは

社団というのは、人の集合体たる団体であって、独立かつ単一に存在・活動するものです。

身近な例としては、マンションの管理組合や自治会等があげられます。

権利能力なき社団は、こうした社団であるも法律上の所定の要件を満たさないため、法人格を有さない団体と定義されます。

大ざっぱに言えば、組織として法人レベルのまとまりを有するが、法人格を取得していない団体です。

同社団の地位

上記の様な法人と同レベルのまとまりを有する一定の団体については、実社会生活において、可能な限り法人と同一に扱うのが便宜です。

実際、一定のまとまりをもった多人数を取引相手とする場合、個人ではなくその団体を取引主体とするケースが少なくありません。

そこで、判例上、権利能力なき社団という概念が認められており、同社団は、現在では、取引の主体たる実質的な地位が広く認められています。

後述しますが、権利能力なき社団は、契約はもちろん、訴訟においても当事者たる地位をも有します。

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あれ?そもそも権利能力ってなんだ?という方は次の記事をご参照ください。

平たく言えば、「ステージに立つ能力」のことです。

権利能力とは?

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権利能力なき社団は法人格なき社団と言われたりもします。

なぜこのように言い換えができるのでしょう?法人格の定義があいまいだと答えられないかもしれません。

法人格の定義、本当にしっかり言えますか?次の記事では、法人格の定義や法人格取得のメリット等について解説しています

法人格とは

最高裁が示す成立要件

どんな団体であれば利能力なき社団といえるのか、との点につき、最高裁は次の4つ(①~④)の要件を示しています。

①団体としての組織を備えていること
②多数決の原則が行われていること
③構成員の変更にも関わらず団体そのものが存続すること
④代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること

<最高裁昭和39年10月15日判決>
権利能力なき社団といいうるためには「①団体としての組織をそなえ、②そこには多数決の原則が行なわれ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、④しかしてその組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定している」ことが必要である

<4つの成立要件(イメージ図)>

以下4つの要件をそれぞれ見ていきます。適宜、上記図をご参照いただけると幸いです。

① 団体としての組織を備えていること

権利能力なき社団と言えるためには、まず団体としての組織を備えている(組織化されている)ことが必要です。

団体としての組織を備えているとは、複数の人間が独立かつ単一のまとまりとして存在していることを意味します。

併せて、個人と峻別された団体といえるためには、財産的独立性が保たれていることも、要素となります。

② 多数決の原則が行われていること

また、会社における株主総会などと同様、多数決で意思決定がなされていることが必要です。

判例が言う「多数決の原則が行われていること」というのは、複数の人間の集合体(組織)の意思決定が、多数決で行われていることが原則として必要であるということを意味します。

日常業務についてまで多数決で行うことは要しませんが、団体としての重要な意思決定は、多数決によることが要求されます。

なお、権利能力なき社団の多数決の方法は、基本的には普通決議ですが、重要事項については、規約などにより、議決権を有する構成員の過半数以上の議決を要する特別決議を要するとされている場合もあります。

③ 構成員の変更にも関わらず団体そのものが存続すること

権利能力なき社団と言えるためには、さらに、メンバーの入れ替わりがあっても団体として存続できることが必要です。

構成員の入れ替わりによって団体が存続しないようでは、それは構成員の個性が色濃く残る個人の集合体にすぎません。団体としての独立性を欠くことになります。

そのため、構成員の入脱退があったとしても、団体として独立に存続・継続しうる組織であることが求められます。

④ 代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること

その他、団体として大事なことが決まっていることが必要です。

団体には通常、代表者がいます。ルールもあります。また、財産も有ります。

代表者をどのように決するか、または総会をどのように運営するか、団体の財産をどのように管理するかは、社団が単一の団体として動くために最低限決めておかなければならない事項です。

最高裁は、権利能力なき社団といいうるためには、このような団体としての主要な点が確定しなければならないことを要求しています。

<補足 最高裁の評価にかかる見解>
なお、最高裁が示した上記4つの点については、これは4つの「要件」を示したものではなく4つの「要素」を示したものにすぎない、という見解もあります。

これは、上記4つの要件が必ずしもそろっていることは要さず、4つの要素を総合的に考慮して、団体としての実体があれば、権利能力なき社団と認める、との見解です(判例に反する見解ではなく、判例をそのように解釈するという見解に位置付けられます。)。

ただ、以下では、議論の錯そうを避けるため、「成立要件」として説明を続けます。

権利能力なき社団の性質、組織・目的

権利能力なき社団は総会や理事会などの機関を備えています。

その目的に制限はなく、営利目的の団体もあれば、非営利の団体もあります。

また、会社と同様、権利能力なき社団の財産は、社団解散時に、清算の対象にもなりえます。

組織について

権利能力なき社団は、上記4要件を満たす団体です。総会や執行機関などを有します。

このように述べてもわかりにくいかもしれませんので、比較として株式会社を考えてみましょう。

株式会社の組織

よくある株式会社の組織は、株主総会、取締役、監査役という機関で成り立っています(ほかにも類型は多々ありますが・・・。)。

株主総会は、出資者全員からなる機関です。

取締役は業務を執行し、監査役は執行を監督する役割を負います。

権利能力なき社団の組織

そして、権利能力なき社団も会社に類似の組織を備えています。

構成員全員からなる総会、総会の意思決定に基づいて業務を執行する執行機関(理事など)、その業務執行を監督する監査などです。

また、執行機関のうち団体を代表するものは代表者と呼ばれます。たとえば、マンションの管理組合などでは、理事長が団体を代表する代表者です。

なお、団体内部のルールや決まり事については、権利能力なき社団といいうるレベルの組織であれば、ほとんどすべてのケースで定款や〇〇会規約といった形で、成文化されているはずです。

目的(営利・非営利を問わない。)

権利能力なき社団には営利団体・非営利団体いずれもあります。

上記判例に示した成立要件に照らしてみても、権利能力なき社団の目的には制限がありません。

非営利を目的とすることはもちろん、収益事業を行うことも可能ですし(課税はされるが・・・)、収益を構成員に分配する目的(営利目的)で活動することも可能です。

解散と清算(残余財産の分配)

権利能力なき社団も、法人と同様、解散及び残余財産を清算することは可能です。

ただ、解散の要件(総構成員の同意を要するとの見解や特別決議で足りるとの見解がある)や清算の方法については議論があります(後述の類型化論の影響も受け得ます。)。

特に、各構成員に残余財産の分配ができるかが、議論の対象ですが、一般的には、構成員全員の合意により、「共有持分を確定させた」うえで解散し、分配することを要すると解されています。

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入会地となっている山林の管理団体が権利能力なき社団であったとします。

地域人口がどんどん減ってきて、ついに団体の構成員が一人となってしまいました。この場合、財産はいまだ総有でしょうか、それとも個人帰属するのでしょうか。

また構成員がゼロとなった場合はどうなるのでしょうか。関連記事にて検討しました。

消滅村落の入会権の帰趨(住民減少で村が消滅したら総有財産はどうなるのか)

具体例

以下、具体例として、該当例・非該当例の説明として挙げられることが多いものを見ていきます。

該当例として挙げられやすいのは、自治会、町内会、マンション管理組合です。

非該当例として挙げられやすいのは、部活、サークル、同窓会です。

ある団体が上記で説明してきた権利能力なき社団に該当するか否かは、最高裁が示した成立要件によって判断されます。

したがって、ある団体が、権利能力なき社団か否かは、その名称や目的、性質によって一概に決まるものではありません。

ただ、一般論として権利能力なき社団に該当していることが多い団体、そうでない団体を示すことは可能です。

<該当・非該当の典型例>

自治会、町内会、マンション管理組合

自治会、町内会、マンション管理組合⇒権能なき社団に該当することが多いです。

総会で代表者を選んだり、規約に基づいて財産管理を行ったり、などなど、団体としての組織が整っていることが多いためです。

ただ、これらの団体であるからといって、直ちに権利能力なき社団に該当するというわけではありません。

あくまで重要なのは、上記の4要件を満たすか否かです。

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一般生活に一番近しい権利能力なき社団は、私はマンション管理組合だと思います。

次の記事では分譲マンションの管理組合って何?どんな団体?という点を解説しています。

是非ご一読ください。

マンション管理組合とは

部活、サークル、同窓会

他方で、部活やサークル、同窓会はこれらの団体は、多くの場合、単なる任意団体である、ということが少なくありません。

サークルで総会を開いたり、代表者の選任なんかを厳格に多数決で行ってたり、といったことはあまりないですよね?

ただ、たとえば、サークルであっても、規約によって団体としての主要な点が定まっている等、上記4要件を満たせば権利能力なき社団に該当し得ます。

繰り返しになりますが、団体の名前や性質、目的で権利能力なき社団か否かが定まるのではなく、上記判例の求める要件を満たしているか否かによって判断されることになります。

権利能力なき社団の財産・資産関係

ここからは、しばらく法律プロパーの話になります。

まず、権利能力なき社団の財産・資産等は団体や構成員にどのように帰属するのか、という点についてです。

この点につき、学説上は総有説・合有説が大きく対立しています。最高裁は総有説に立ちます。

総有説・合有説の違いは、構成員の持分を観念するか否か、その結果として脱退時に払戻請求ができるか、という点に現れます。

総有説VS合有説

学説上、権利能力なき社団の財産の帰属につき、合有であると解する見解と総有であるという見解とが対立します。

学説の対立のポイントは、合有説は、構成員の持分を観念するのに対し、総有説は、構成員の持ち分を観念しないという点に求められます。

<総有説VS合有説>

上記図の内、左図が総有説、右図が合有説。団体に属する個人にとっての両説の大きな違いは、団体を脱退する際の払戻請求の可否などに現れます。

持分を観念しないということ

総有説の特徴の一つは、構成員の持分を観念しない、という点です。

このことを理解するために、任意団体と権利能力なき社団を比較してみましょう。

任意団体の場合

仲間5人が集まって、旅行に行くために10万円ずつ、合計50万円を集めたとします。

ところが、このうちの一人が、やはり学業に専念したい、ということで、旅行をキャンセルした、というケース。ここではキャンセル料はかからなかったとします。

この場合、キャンセルした人は、支出した10万円分につき共有持分を有していますから、10万円を返してね、と当然にいうことができます。

権利能力なき社団の場合

これに対して、権利能力なき社団の場合はどうか。

権利能力なき社団の場合は、脱退時、自分が支出したお金を返してね、とは言えません。

出資をして社団に組み入れられた財産につき、構成員は、もはや持分を有さないからです。

一度組み入れられた以上、その財産は実質的に団体自身の財産と評価されるのであって、もはや各構成員の財産(持分)とは評価されない、というわけです。

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総有説と合有説の違いを理解するには合有と総有の違いを理解するのが近道です。

この点については次の記事で解説していますので是非ご参照ください。

共有とは?総有・合有との違い

最高裁の立場

権利能力なき社団の財産の帰属に関し、最高裁は総有説を採用しています。

最高裁昭和32年11月14日判決
「権利能力なき社団の財産は、構成員に総有的に帰属するものであり、構成員は、当然には共有持分権又は分割請求権を有するものではない」

総有説の実質面と形式面

最高裁が採用した総有説は、大雑把に言えば、団体の財産は、①実質的には団体に帰属するが、②形式的には、団体を構成する個々人に総有的に帰属する(持分を観念しない共有に属する)という考え方です。

判例を理解するためには、①実質面と②形式面とを区別して理解しておくことが重要です。

私は、法律を学び始めたころ、総有という言葉、用語に引っ張られすぎて、「構成員に総有的に帰属する」という表現の理解にかなり苦しんだ覚えがあります。

この総有という概念の理解のポイントは、①実質的な権利主体と、②形式的な権利主体との食い違いを認識することです。

判例などを勉強される際には、ぜひ、場面ごとに実質面に光が当たられているのか、形式面に光が当てられているのか意識してみてください。
<財産の帰属>

総有説の実質面

第一に抑えるべきポイントは、団体が実質的な財産の帰属主体であるという点です。

そもそも総有説は、権利能力なき社団を法人と可能な限り同一レベルに扱うという命題を実現するための考え方です。

誤解を恐れずに言えば、法人格がない団体を財産の帰属主体と扱うべく採用された見解です。

そのため、総有説の下では、実質的な財産帰属主体になれるし、契約主体にもなれます。

また、たとえば、強制執行の場面なんかでは、権利能力なき社団の財産を観念し、これに執行をかけていくことも可能です。

【実質面理解のポイント】
総有説においては、権利能力なき社団の財産につき「総有的に帰属する」という言い方をするため、各構成員に何らかの持分があるかのように思われがちです。

しかし、総有説の下で重要なことは、各構成員には持分はなく、団体が実質的な財産の帰属主体として扱わるという点です。

総有説の理解としては、「総有って各人にどのように帰属するんだ」、と形式面を先に考えるより、まずは、「各人に財産は帰属せず、団体に財産が帰属するんだ」、と実質面を先に考えるほうがよほど理解は進みます(上記図の通り、団体への財産帰属を観念して理解する。)。

総有説の形式面

総有説のポイントのもう一つは、形式面では、各構成員が権利の帰属主体であるという事です。

社団を可能な限り法人と同様に扱おうと志向する総有説においても、形式的な帰属主体も社団である、とまでは言えませんでした。

形式面は克服できなかったわけです。

実質は、団体に権利が帰属するとしても、形式上の帰属主体はあくまで構成員全員となります。みんなが権利者ですよ、ということです。

たとえば、マンションの管理組合の財産の法形式上の帰属主体は、各区分所有者全員となります。

この形式面でのネックは、後々の「登記名義人」に関する判例の考え方に影響を及ぼします。

【判例の文脈に注意しよう】
上記の通り、総有においては、実質的な権利帰属主体と形式面における権利帰属主体とに食い違いが生じます。

そこで、判例が具体的な事案において「総有」という表現を用いている場合、実質的な帰属主体を指す意味合いでその表現を用いているのか、それとも形式的な帰属主体に光をあてようとしているのか、という点をぜひ、意識されてみてください。

判例の理解が格段に進むはずです。

構成員の債務と構成員の責任

判例は、団体の負の財産についても総有と述べています。

構成員の責任は有限責任です。

ただ、類型化説も有力です。

判例は総有説

社団の債務に関し、判例は、次のように述べ、債務も総有的に帰属することを明らかにしています。

最高裁昭和48年10月9日判決
権利能力のない社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、社団の構成員全員に一個の義務として総有的に帰属し、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し個人的債務ないし責任を負わない。

上記の判例は、権利能力なき社団の債務につき、社団の財産と同様、構成員に総有的に帰属するにすぎないとするものです。

実質面において、団体のみを義務者と扱う解釈です。

また、社団の総有財産だけが責任財産となると述べており、構成員の責任が有限責任であることを示しています。

権利能力なき社団の団体としての独立性を重視した考え方で、団体と個人とを責任レベルでも分離します。

この判例の考え方の下では、構成員は、社団の債務につき、個人的債務ないし責任を負わないということになります。

<総有説と構成員の責任に関するイメージ図>

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このように、団体に直接債務を帰属させ、構成員個人への債務の帰属を否定するのが権利能力なき社団に関する法理です。

これに対して、ケースによっては、団体名義(法人名義)の債務を構成員個人に帰属させる必要がある場合も生じます。

そのような場合にクローズアップされるのが法人格否認の法理です。

法人格否認の法理とは

類型化説もある。

上記の判例の考え方に対しては、社団の性質によって、無限責任か有限責任かを類型化して考えるべきとする見解(類型化説)も有力です。

<類型化説についての私見的な補足>
権利能力なき社団が営利目的を有する場合に、構成員の責任が本当に有限責任でいいのか、という点については、慎重に考える必要があり、類型化説も説得的といえる部分があるように思います。

法人と同一レベルに考える=有限責任ではない
そもそも権利能力なき社団につき、法人と同様に考えるべきことと、団体の構成員の責任を有限責任と解することは、必ずしも論理的必然を有するものではありません。

法人格を有する会社の種類によっては、債務を負うのは団体だが、その構成員が無限責任を負うとされる種類の会社もあります。

類型化する方が実際の法人に近づくのでは?
権利能力なき社団を法人と同等の存在と取り扱うべきと考える権利能力なき社団の考え方を貫徹すれば、実際の法人と同様、構成員の責任を有限責任とするもの、無限責任とするも、それぞれあっていいはずです。

そうだとすれば、構成員の責任を有限責任と解すべきか、無限責任と解すべきか等の点については、社団の目的や性質ごとに類似の法人・会社と同一の取り扱いをすべく、類型的に決するべきという理解も十分あり得ると思います。

個人的には、むしろこちらの方が自然ではないか、と考えているところです。

実社会における権利能力なき社団

権利能力なき社団の概念に関する基礎知識は上記の通りですが、現実の社会で、権利能力なき社団はどのように取り扱われるのでしょうか。

以下、契約、銀行預金、裁判、登記の4つの場面を見ていきます。

契約名義について

権利能力なき社団は、契約の主体になれます。契約書の名義人にもなれます。

その場合、「団体名+代表者名+印」で当事者名を表記するのが通例です。

権利能力なき社団が契約をしようとするとき、あるいは同社団を相手方として契約をしようとする場合に、疑問点として挙がることが多いのが、契約名義がどうなるかです。

具体歴には、社団が賃貸借契約を締結するときや不動産売買契約を締結するときに問題となりえます。

契約書や領収証の名義の一般的な記載方法

たとえば次の例をご参照ください。

契約書や領収証に権利能力なき社団を表記したいときは「社団名+代表者の肩書+代表者氏名」という方法で記載します。
<契約書の例>

法人と同一に考える

権利能力なき社団の契約名義や領収証の名義の書き方は、法人の一般的な記載方法と同一に考えることができます。

ここでも法人と同一に扱うのが判例の解釈や総有説の趣旨に沿うともいえますね。

そして、法人であれば、たとえば契約の名義は、「法人名+代表者の肩書+代表者の氏名」のように記載されるのが一般です。

株式会社であれば、「株式会社A 代表取締役社長、山田花子」などと記載されます。

他方、権利能力なき社団についても、これと同様に考えて構いません。「社団名+代表者の肩書+代表者氏名」という記載方法で足ります。

たとえば、権利能力なき社団たるマンション管理組合が契約を使用とする場合、「A管理組合 理事長 山田花子」などと記載されます(上記例参照)。

表記方法の意味付け

なお、上記に反して、単に代表者名だけの記載の場合、その記載が団体を指す、と解釈するのはかなり困難です。

通常は、「団体名+代表者の肩書+氏名」の記載をもって、団体としての契約であることを表現します。

そのため、権利能力なき社団を契約主体とする場合、「団体名+代表者の肩書+氏名」との記載をもって、契約当事者が誰かをを示すことになります。

なお、もしそれでも、社団と契約できているのか心配であれば、団体としての契約である旨、その契約書等に明記しておくのも有りです。

印鑑・捺印

印鑑、捺印についても、基本的には法人と同様に考えます。

代表者の氏名の後ろにつける印鑑は、代表印がある場合には代表印を用います。

もっとも権利能力なき社団においては印鑑登録ができない(印鑑証明もない)こともあってか、代表印がないことも多々あります。

この場合、代表者個人の印鑑で代用することもあります。

不動産の売買について

不動産についても契約名義は、上記と同様です。

なお、後述の登記との関係で、不動産売買など登記を要する事項につき、「法人名+代表者の肩書+代表者氏名」で契約書を作成するのは問題があるのではないか、と思われる方もいるかもしれません。

しかし、契約名義についての理屈は上記と同様です。

この点につき、司法書士の先生にも確認してみましたが、やはり「法人名+代表者の肩書+代表者氏名」で構わないとの回答を受けました。

銀行口座について

次に、権利能力なき社団の銀行口座について、簡単に確認しておきます。

権利能力なき社団は銀行口座を開設可能です。

その預貯金額は、ペイオフに際して、構成員個人の払戻金額に影響を与えません。

総有説の下では、単なる任意団体が預金している場合と権利能力なき社団が預金している場合とで、ペイオフの取り扱いが違うことになります。

口座開設の可否

権利能力なき社団には、法人格はありませんが、銀行口座を作成することが可能です。

というより、銀行は、権利能力なき社団に限らず、より広い団体にまで口座の開設を認めています。

【参照外部リンク】
・ゆうちょ銀行 団体名義で口座開設することはできますか

・みずほ銀行 親睦会・サークル・同窓会など、任意団体の口座を開設したい

なお、ゆうちょ銀行の場合、「団体名」を口座名義人とすることが可能なようです。その他の銀行の場合、「団体名+代表者の肩書+代表者名」が名義人となるのが一般的なようです。

ペイオフの場面(権利能力なき社団と単なる任意団体との取り扱いの違い)

次に、金融機関に破綻等が生じた場合、ペイオフ(預金保険機構による払い戻し)によって保護される限度額の算定方法について見ていきます。

預金者が権利能力なき社団なのか、そうではなく、単なる任意の団体にすぎないのか、によってこの算定方法は異なり得ます。

権利能力なき社団の財産の帰属に関し、総有説(団体への帰属)を理解する上での格好の素材です。

預金者が単なる任意団体に過ぎない場合

まず、預金者が単なる任意団体に過ぎない場合についてです。

この場合、ペイオフの場面では、預金額の内、持分相当額が構成員個人の預金と扱われます。

任意団体では個人の持分が観念されるためです。

その結果、ペイオフに際して、団体の預金は各構成員の預金等として、持分に応じて分割された上で、各構成員の他の預金等と合算されます。

この場合、各構成員の預金額は、「個人名義の預金」+「団体預金額×持分」にて算定されます。

預金者が権利能力なき社団の場合

他方で、預金者が権能なき社団である場合、その預金は個人のペイオフ算定に影響しません。

団体の預金については、各構成員が持分を有さず、あくまで権利能力なき社団の預金して扱われます。

そのため、権利能力なき社団の預金額は、ペイオフにおける構成員個人の預金額の算定に影響を及ぼしません。

その結果、構成員個人のペイオフにかかる算定は、個人預金のみで算定されます、そこに社団の財産が加わるという事はありません。

【外部参照リンク】
以上の点については、預金保険機構の次のページが参考になります。

預金保険機構 名寄せに際しての預金者の扱い

訴訟・裁判について

次に権利能力なき社団の訴訟・裁判にかかわる事項を見ていきます。

権利能力なき社団は裁判の当事者となることが可能です。

原告・被告ともになりえます。

【権利能力なき社団の当事者能力・当事者適格】

当事者能力について

権利能力なき社団が民事裁判の当事者となれることについては民事訴訟法が条文を整備しています。

権利の能力なき社団は、法人と同レベルのまとまりを有する団体です。そのため、実体法上、法人と同様に取り扱うべきことが志向されます。

ただ、実体的に同様に取り扱われても、実体上の権利・義務を実現するための訴訟・裁判において、当事者たる能力が認められないのでは、画竜点睛を欠くといわざるをえません。

そこで、民事訴訟法は、権利能力なき社団が、訴訟の当事者となることができるよう条文を整備しています。民訴法29条です。

この規定により、権利能力なき社団は、裁判・訴訟あるいは差し押さえなど、強制執行手続において当事者能力(手続の当事者足り得る能力)を備えていることが明らかにされています。

民事訴訟法29条
法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。

※ちなみに民法には権利能力なき社団について規定した条文はありません。

当事者適格

また、権利能力なき社団は、事件ごとに、原告となったり、被告となったりします。

たとえば、管理組合が管理費を組合員に請求する場面では、原告としての原告適格(請求主体としての適格性)を有します。

また、反対に払いすぎた管理費を返せ、という訴訟では、被告適格(被請求主体としての適格性)を有します。同社団が原告となる場合、訴訟当事者の記載は、やはり「団体名」となります。

これに付加して、代表者(要:資格証明)の「肩書+代表者名」が訴状の当事者の表記の部分に記載されます。

一例として、管理組合による管理費請求訴訟を挙げると、訴状には、「原告 〇〇管理組合」「同代表者理事長 山田花子」などと記載することになります。

<ステップアップ>代表者名義への登記請求訴訟と原告適格
ちなみに、次に述べる登記との兼ね合いで、従前、代表者名義への登記請求訴訟における原告適格が問題となっていました。

権利能力なき社団に帰属すべき不動産の登記名義を、同社団の代表者の名義に移転させよう、とする訴訟において、原告適格を有するのは代表者だけなのか、権利能力なき社団も原告適格を有しうるのか、という点です。

この点につき、最高裁平成26年2月27日判決は、権利能力なき社団が原告となって、登記名義人に対し、登記を団体の代表者名義に移せという内容の訴訟を行うことを容認しています。原告適格を認める旨の判断です。

※但し、この判断は団体の代表者が個人名で登記移転請求訴訟を起こしうることを否定するものではありません。

登記について

権利能力なき社団は不動産の登記名義人にはなれません。

その理由の一つとしては、総有説において、団体の財産が形式的には各構成員に帰属する(形式面)ことがあげられます。

最後に、権利能力なき社団に関する論点として最も有名なもののひとつ、同社団が登記の名義人になれるか、という点について説明します。

上記の契約や銀行預金、裁判の各場面と異なり、登記の場面では、総有説の形式面に光が当てられます。

最高裁昭和47年6月2日判決

上記の論点に関する有名な基本判例が最高裁昭和47年6月2日判決です。

<判旨(一部略)>
「権利能力なき社団の資産はその社団の構成員全員に総有的に帰属しているのであつて、社団自身が私法上の権利義務の主体となることはないから、社団の資産たる不動産についても、社団はその権利主体となり得るものではなく、したがつて、登記請求権を有するものではないと解すべきである。」

「不動産登記法が、権利能力なき社団に対してその名において登記申請をする資格を認める規定を設けていないことも、この趣旨において理解できるのである。」

「したがつて、権利能力なき社団が不動産登記の申請人となることは許されず、また、かかる社団について前記法条の規定を準用することもできないものといわなければならない。」

「本来、社団構成員の総有に属する不動産は、右構成員全員のために信託的に社団代表者個人の所有とされるものであるから、代表者は、右の趣旨における受託者たるの地位において右不動産につき自己の名義をもつて登記をすることができるものと解すべき」である。

若干のコメント

この判決は、「総有」という表現を用いて、団体は登記名義人にはならない、との結論を導いています。

社団自身が私法上の権利義務の主体となることもないと表現しています。これは、総有説の形式面(形式的には団体財産は構成員それぞれに帰属する)に光を当てた判例です。

共有説でも合有説でも登記はできない

でも、ちょっと考えてみてください。そもそも、総有説と対置され得る「合有説」であっても団体名義の登記はできません。

当然のことですが、共有説でも同様です。

それにも拘わらず、この判決が「総有」という表現を用いているのはなぜでしょうか?

総有説の意味づけ

そもそも総有説は、団体を法人と同様に扱おうという点に主眼とする法技術的な解釈論です。

そして、社団と法人とを同様に扱おうとする場合、本来であれば、団体名義での登記を認めるのが自然です。

それにもかかわらず、この判例が、「総有」を登記名義人となることを否定する根拠としているのは、総有説が有する「法形式上の権利主体は各構成員である」という解釈の方に光を当てているからです。

もっと言えば、登記の場面では、社団と法人とを同様に扱うことを志向した総有説でも克服できなかった形式面、つまり「法形式主体はあくまでも各構成員なんだ」との点がクローズアップされている、ということになります。

【登記は、法人と同一に扱わない】
ここでは、団体を法人と同様に扱おうという総有説の主眼に力点が置かれているわけではありません。

実質的権利者は団体である(法人と同一に扱う)としても、登記はだめよ、そういう判例です。

判例は、社団自身が私法上の権利義務の主体となることは無いとしていますが、これも法形式に着目したものであって、財産の実質的な帰属主体が社団であることを否定するものではありません。

この判決にいう「総有」という用語の意味合いを実質的な権利者であることを認める意味合いで理解しようとすると、混乱が生じ得ますのでご注意ください。