所有権の帰属に関する特殊な形態に、「共有」という概念があります。単独所有と対になる概念です。
この「共有」(広義)には、「狭義の共有」「合有」「総有」という三つの概念が含まれます。
そして、民法は、上記の内、「狭義の共有」に関して種々の諸規定を置いています。そこで、本記事では、狭義の共有に関する民法の諸規定につき解説します。
また、解説のため、一つのケースとして、以下Aさん、Bさん、Cさんが、それぞれある自動車の持分を3分の1ずつ有していることを想定例として仮定します。
持分の使用及び割合の推定~民法249条・250条
・共有者は、共有物の全部を使うことができます(第249条)。
・各自の持分が分からない場合、共有持分の割合はみんな同じと推定されます(第250条)。
以下、民法249条と民法250条の内容を見ていきます。
使用の方法
民法249条は、共有者が共有物の「全部」を「持分に応じて」使用することができる旨定めています。
共有者は、ある財産について一定の持分しか有していなくても、それを使用する際には、その「全部」を使うことが可能です。
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
冒頭にあげた想定例(AからCが車を共有)においては、Aさん、Bさん、Cさんは、自動車の使用に際して、その全部を使うことができます。
ただ、「持分に応じ」ということになりますので、その使用の回数や時間は、3分の1ずつという比率に応じることになります(注釈民法初版249頁参照)。
割合の推定
共有者間において各自の持分が不明な場合、共有持分はみんな同じと推定されます。
民法250条を見てみましょう。
各共有者の持分は、相等しいものと推定する。
ある財産に関し、だれがどの程度の持分を有しているのかは、その利用の頻度・管理費用の負担や分割時などに重要な意味を持ちます。
ただ、必ずしも、その持分割合が明示的に合意されていないことも多く、持分の帰属の割合が分からない、ということが多々あります。
こうした場合、民法250条により、各共有者の持分は文字通り、それぞれ等しいものと推定されることになります。
その結果、ある財案につき持分割合が分からない場合、各自の持分は、頭数で割って算出されます。
なお、これはあくまで推定ですので、覆えることもあります。
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勉強に際しては、民法の諸規定に関するさらに細かな知識を押さえるよりも、「狭義の共有」、「合有」「総有」という3つの概念の違いを先におさえることが重要です。
この点に関しましては次の記事で解説していますので、ぜひ一度ご参照ください。
保存・管理・変更~民法251条・252条
次に、共有物の保存・管理・変更について見ていきます。
- 変更行為⇒ほかの共有者全員の同意が必要
- 管理行為⇒持分の過半数の同意が必要
- 保存行為⇒単独で可能
変更行為
共有物に変更を加えるには、ほかの共有者全員の同意が必要です。
民法251条を見てみましょう。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
民法251条が定める通り、各共有者が共有物に変更を加えるには、他の共有者全員の同意が必要です。
たとえば想定例(AからCが車を共有)においては、自動車のエンジンを全く違うものに積み替える、自動車を担保に供するなどが「変更」に該当します。
なお、ここでいう「変更」には、目的物の「物理的な変更」のみならず「法律的な変更(処分)」も含みます(多数説)
※上記の通り、法律的な変更(処分)を含むと解するのが多数説ですが、法律的な処分に共有者全員の同意が必要なのは当然のことなのだから、あえて「変更」に該当する、と解する必要はないとの考え方もあります。)。
管理・保存行為
次に管理、保存行為についてです。
管理行為(利用・改良)には持分の過半数の同意が必要です。保存行為は単独でできます。
民法252条を見てみましょう。
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
252条本文が定める共有物の「管理」というのは、共有物の利用・改良行為を意味します。
たとえば、目的物を賃貸に供したり、目的物の性質を変更しない限度において交換価値を増加させたりする行為がこれに該当します。
また、同条但書きにあるとおり、目的物を保存する行為は、各共有者が単独で行うことができます。
たとえば、自動車の故障個所を修理するなどが保存行為の例です。
上記の通り、保存行為については単独、管理行為については過半数、変更行為については全員の同意が必要とされるため、保存なのか管理なのか、変更なのかによって、充足すべき要件が異なることになります。
ただ、保存・管理・変更行為につき、概念上は整理できるにしても、実際上の区別が難しいケースは多々あります。
この点に関しては、管理なのか変更なのかを判断する際には、当該行為により、重大な影響が生じているか等の観点から、それが「変更」に該当するのか「管理」(利用あるいは改良)に該当するのか、えいっと個別各論にて判断していくほかないように思われます。
また、管理なのか保存なのかが問題となる場合には、単に目的物の原状ないしその価値を維持するためのものなのか否かなどの観点から、やはり各論で認定していくほかないように思います。
管理費用及び特定承継人に対する債権行使
次に共有物に関する負担及び共有物についての債権に関する条文を見ていきます。
民法253条によれば、共有物の管理費用は、共有者が持分に応じて負担することになります。
また、同254条によれば、共有者に対する債権は、当該共有者の特定承継人に対しても行使することができます。
負担責任(民法253条)
まず民法253条を見てみましょう。
1 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
2 共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
上記の通り、民法253条1項は、共有物の管理費用を共有者が持分に応じて負担しなければならないとしています。
想定例でいえば自動車税などがこれに該当しますし、不動産についていえば、固定資産税などがこれに該当します。
また、条文上は「管理の費用」とされていますが、ここでいう費用には、共有物の管理のほか、変更、保存に要する費用も含まれると解されています。
なお、当該費用が支払われない場合には、他の共有者は、相当の償金(対価)を払って、費用を支払わない者の持分を取得することができます(同2項)。
特定承継人に対する権利行使
次に民法254条を確認します。
共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。
民法254条は、共有者の特定承継人に対しても債権行使ができる旨を定めた規定です。
想定例(AからCが車を共有)でいえば、Aさんが自動車税などの管理費用を一旦立て替えて全て支払った後、Cさんに立て替えた分を請求しようと思っていたところ(民法253条)、CさんがDさんに持分を譲渡したという場合が、民法254条適用場面に該当します。
この場合、Aさんは、Cさんの特定承継人Dさんに対して、立替分を請求することができます。
持分放棄等について~民法255条
共有持分はいつでも放棄可能です。放棄された持分は他の共有者に帰属します。
これは実社会においても、意外と重要なルールです。
次に、共有持分の放棄の効果などについて規定した民法255条を見ます。
放棄された持分がほかの共有者に帰属するのがポイントです。
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
この規定により、共有者の一人が持分を放棄した場合、その持分は他の共有者に帰属します。
想定例(AさんCさんが車の持ち分を3分の1ずつ共有している例)において、Aさんが自動車の持分のすべてを放棄した場合、Aさんの持分がBさん、Cさんに帰属する結果、自動車は、Bさん及びCさんの持分がそれぞれ2分の1ずつになります。
また、共有者の一人が死亡し、かつ、相続人がない場合も同様です。
同じ想定例において、Aさんが死亡し、相続人がない場合、やはりBさん、Cさんがそれぞれ2分の1ずつ自動車の持分を有することになります。
この民法255条は、共有財産がネガティブな財産である場合に、放棄競争を生み出すことがあります。
社会には、ただただ管理の費用が掛かる土地(利用用途のない原野など)や建物(事実上の廃屋など)がざらにあります。
その土地・建物の利用が困難な場合、その財産は、マイナスだけを生んでいくネガティブな財産です。
こうした財産が共有に属する場合、民法255条によれば、共有者は、共有持分を放棄することで、その持分を他の共有者に帰属させることができます(信義則・権利濫用法理などによって否定される場合は別にして)。
これは、当該財産にから生じるマイナス部分を他の共有者に押しつけるものにほかなりませんが、他の共有者全員が持分を放棄すると、共有関係が解消されて最後の一人が単独所有となるため、単独所有者となった最後の一人は、255条により、これを放棄するということができなくなります。
その結果、ネガティブ財産については、いわば、先に放棄した者勝ちとなるため、我先に放棄をしようという放棄競争が生じえます。
共有物分割請求について~民法256条から民法258条
次に共有物の分割についてです。
共有者は一部の例外的な場面・例外的な物を除き、いつでも共有物の分割を請求できます。
話し合いで解決できなければ、裁判所の手続を利用することも可能です。
なお、その分割に際して、判例は、裁判所が全面価格賠償による方法も命ずることもできるとしています。
分割請求
共有物分割請求の根本となる256条をまず確認します。
1 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
民法256条1項が規定する通り、共有者は、目的物につき、いつでも分割請求をすることが可能です。
共有者は各自に具体的な持分を有するため、いつでも共有物を分割しろと請求できるのが原則となるわけです。
ただ、当事者間で、共有物不分割合意をしている場合はこの限りではありません。
もっとも、共有物不分割合意には、期間の制限があり、5年が上限となります(更新は可能)
境界票などの分割
分割の対象とできない物もあります。境界標などです。マニアック知識ですが条文を一応挙げておきます。
前条の規定は、第二百二十九条に規定する共有物については、適用しない。
民法256条は、共有物分割の対象物に制限を加えるものです。
共有物は、民法256条によりすべからく分割の対象となりますが、229条に規定されている「界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀」は同条の対象にはなりません。
裁判による分割
共有物の分割が当事者の合意でできない場合、裁判所を利用して分割請求をすることになります。
その際、裁判所が全面価格賠償が命じて、共有者の一人に目的物の所有権をすべて帰属させることもあります。
この裁判による分割については、もう少し説明を補足します。
裁判による分割
裁判による分割について定めた民法258条を見てみましょう。
1 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
民法256条が定めるとおり共有者は原則としていつでも共有物の分割を請求することが可能です。
ただ、共有物の分割につき、当事者間で協議が整わない場合もしばしばあります。このような場合、各共有者はそれぞれその分割を裁判所に請求することができます。
このことを定めているのが民法258条です。
利用できる裁判所上の手続としては、たとえば共有物分割訴訟や分割調停があります。
分割の仕方
共有物分割の方法は、当事者間の協議で自由に決めることができます。
このことは裁判上における和解においても同様です。
一方、当事者間の協議が整わず、判決などに至る場合、裁判所が分割の方法を定めることになります。
裁判所は、裁判所は、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、その競売を命ずることが可能です。
全面価格賠償等
また、裁判所は、上記のほか、価格賠償、全面価格賠償の方法による分割を命ずることも可能です。
全面価格賠償の方法による分割というのは、たとえば、ある建物を共有している場合において、Aさんがその所有権全部を取得し、Bさんに持分の対価を賠償する、という方法による分割です。
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共有不動産の処分は実社会では一朝一夕ではありません。この場合に、実際の処分方法としてどのような方法があり得るのかを解説したのが次の記事です。
上記で見てきた民法の諸規定の具体的内容の理解にぜひ。
共有物分割に際してのルール 民法259条~264条
第259条 分割の際の債権の弁済に関するルール
第260条 権利者の分割手続きへの参加に関するルール
第261条 共有物分割の担保責任に関するルール
第262条 分割に際しての証書の作成・保存に関するルール
正直、かなりマニアックな領域を含みます。
債権の弁済
民法259条を見てみます。
この規定は、分割の場面における共有者間の債権の弁済方法について特別なルールを定めた規定です。
1 共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは、分割に際し、債務者に帰属すべき共有物の部分をもって、その弁済に充てることができる。
2 債権者は、前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは、その売却を請求することができる。
民法259条第1項は、共有者間において、共有物に関する債権・債務が存する場合に、分割に際して、共有物の一部をもって、その債務の弁済に充てることができると定め、もって一括的清算を認めています。
また、債権者は、その清算に際して、必要がある場合には、債務者に属する共有物の一部の売却を求めることもできます(同2項)
権利者等による分割への参加
共有物の分割に際しては、債権者も手続参加が可能です。この手続参加により債権者の利害を調整します。
民法260条を見てみましょう。
1 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。
2 前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。
民法260条1項は、共有物分割による損失の回避(利益の確保)のため、共有物に関して権利を有する者や各共有者の債権者に分割への参加の機会を保障するものです。
参加請求があったにも関わらず、その参加なく分割が行われた場合、当該分割の効果は、参加請求した者に対抗することができません(同2項)。
担保責任
共有物の分割に際して、共有者は、他の共有者の取得物につき売主と同様の担保責任を負います。
分割が、目的物の交換ないし売買と実質的に同じ意味合いを有するからです。
根拠となる民法261条をあげておきます。
各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、その持分に応じて担保の責任を負う。
分割に関する証書
これまたマニアック知識ですが、共有物の分割が完了した際には、証書が作成・保存されます。
民法262条をあげておきます。
1 分割が完了したときは、各分割者は、その取得した物に関する証書を保存しなければならない。
2 共有者の全員又はそのうちの数人に分割した物に関する証書は、その物の最大の部分を取得した者が保存しなければならない。
3 前項の場合において、最大の部分を取得した者がないときは、分割者間の協議で証書の保存者を定める。協議が調わないときは、裁判所が、これを指定する。
4 証書の保存者は、他の分割者の請求に応じて、その証書を使用させなければならない。
民法262条は共有物分割に関して、証書の作成・保存義務等を定めるものです。
資格試験等において、出題されることはあまりないと思いますが、必要に応じて、条文をご参照ください。
共有の性質を有する入会権~民法263条
ちょっと毛色の違う話ですが、入会権について。
民法の共有に関する規定の中には、共有の性質を有する入会権に関する規定があります。民法263条です。
同条は、当該入会権につき狭義の共有に関する民法の規定が適用される旨、定めています。
共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。
準共有~民法264条
所有権以外の財産権を共有することを準共有と言います。
準共有についても、原則として、狭義の共有に関する民法の規定が適用されます。
最後に民法264条を見ておきます。
この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。
民法264条は、所有権以外の財産権を複数で有する場合(準共有する場合)に、原則として共有に関する民法の規定が適用されることを定めたものです。
所有権以外の財産権の例としては、地上権や地役権・質権などの物権のほか、著作権などがあります。