占有改定とは

今回のテーマは「占有改定」です。

民法が定める引き渡しに関しては、「現実の引き渡し」・「簡易の引き渡し」、「指図による占有移転」と「占有改定」の4つがありますが、この中で最も難解な概念です。

そして、実経験上、その「難解さ」からくるのだと思いますが、「占有改定」は、勉強したときは理解できるのですが、時間がたつと「あれ?どういうやつだったっけ?」と忘れやすいもののひとつでもあります。

具体例とともに覚えるのが記憶定着のこつです。以下一緒に見ていきましょう。

まず間接占有を理解しよう

占有改定は、大雑把に言えば、直接占有はそのままに、新たに第三者に「間接占有」を開始させる引き渡し方法を指します。

占有改定の理解のためには、この「間接占有」の理解が必要になります。

間接占有というのは、物を直接所持している者の占有を介して、他の者が当該物を占有している状態です。

占有改定を理解するに際して、前提となる知識が間接占有です。はい、いきなり難しそうな概念がでてきました・・・、でも、ちゃんと説明します。

まず、目的物を自己のために直接所持することを直接占有といいます。物を現に所持しているしている状態です。

これに対して、間接占有というのは、代理人を介して目的物を占有することをいいます。代理占有と呼ぶこともあります。

「おれの代わりにこれ預かっといて」というのが間接占有の典型です。

たとえば、AさんがBさんとの合意の下で、Bさん所有の動産を預かっているというとき、Aさんは目的物を直接占有していますが、同時にBさんも、Aさんを介して当該動産を間接占有している、ということになります。

そして、大ざっぱに言えば、占有改定は、直接占有はそのままに、新たに第三者に間接占有を開始させる引き渡し方法を指します。以下、もう少し見ていきましょう。

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そもそも占有とは何か、間接占有の具体的な意味などについては、こちらの関連記事でも解説しています。ぜひご参照ください。

占有とは?その意味について

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占有改定以外の引き渡しの方法についてはこちらの記事をご参照下さい。そもそも「引渡し」といえるための要素は、意思的関与+占有の移転です。

引渡しとは?現実・簡易の引渡し、指図による占有移転について

占有改定とは

民法上の定義において、占有改定とは、ある目的物の直接占有者が、その占有を維持したまま、他者のために当該目的物を占有する意思を表示する方法によって成立する引渡し方法をさします。

ポイントは、直接占有はそのままで、新たに間接占有が加わる点です。

占有改定の引渡方法は民法183条に規定されています。

民法183条
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。

上記の定義を見ると難しい言い回しがされていますが、概念理解の上で抑えるべきポイントは多くありません。

ここで抑えるべきポイントは、当初の直接占有自体は動いていない一方で、直接占有者の意思の表示(本人のために占有する意思の表示)によって、新たに他者の間接占有が発生しているという点です。

占有改定によって、当初の直接占有にプラスして、他社による間接占有が発生するわけです。後ほど具体例も示しますので、併せて読んでみてください。

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占有改定をめぐっては、占有改定による引き渡しで即時取得の要件が満たされるか、という論点があります。即時取得の要件論と合わせてご確認ください。

即時取得とは?その要件・効果について~民法192条~

占有改定の具体例

具体例を見ておきましょう。たとえば、相手に贈与したプレゼントを一旦預かっておく、といった例が考えられます。

たとえば、Aさんが、Bさんに誕生日プレゼントを渡すこととしたとします。

ただ、折り悪くBさんは入院していたため、直接これを受け取ることができませんでした。

そこで、AさんとBさんは話し合って、プレゼント自体は誕生日をもって、Bさんの所有とするけれど、Bさんが退院するまで、Aさんがしばらく手元において預かっておくこととしました。

この場合、Aさんがプレゼントを直接占有したままに、Bさんも、Aさんを介して、プレゼントを間接占有することとなりますので、占有改定が成立します。

そして、その結果として、Bさんは動産譲渡の対抗要件(民法178条)を具備したことになります。

以後、AさんがたとえDさんにこれを譲渡したとしても、Bさんはプレゼントを返せとDさんに主張できることになります(Dに過失があり即時取得が成立しないことを前提としますが)。

占有改定と譲渡担保

占有改定は、非典型担保における引き渡しの方法としてしばしば利用されます。

「民法における占有改定の例といえば譲渡担保における引渡し」とセットで覚えてほしいくらい。

まず占有改定の概念理解で、一緒に覚えると理解が進むのが「譲渡担保」という非典型担保です。

譲渡担保というのは、所有権の移転の形式をとった担保のことをいいます。

種々の類型がありますが、たとえば、工場経営を営むAが、Bに対する債権の担保のために、工場の機械等の所有権を形式的に移転するといった例が典型例です。

大雑把に言えば、この場合、Aは機械などをそのまま手元に置きながら、所有権をBに移転することとなり、Aは、譲渡担保契約後は、所有者Bのために、機械等を占有することになります(BによるAを介した機械の間接占有が生じる)。

Aが占有改定を行うことにより、機械類の引き渡し(対抗要件具備)がなされる形となるのです。

占有改定ってなんだっけ?といつも忘れてしまう方は、このように譲渡担保とセットで覚えると、記憶が定着しやすいかもしれません。

譲渡担保の場合の引き渡し方法が常に占有改定による、というわけではありませんが、典型的な譲渡担保の場合には、通常、占有改定の方法がとられています。

占有改定と所有権留保

ステップアップレベルですが、もうひとつ、所有権留保について見ておきましょう。

所有権留保特約付きの売買などにおいても、占有改定の方法が利用されることがあります。

もっとも、所有権留保契約に際して、占有改定が現にあったと言えるかは、裁判などで争われがちです。

所有権留保売買における占有改定の具体例

たとえば、Aが、その所有権を留保しつつ、ブルドーザーをBに販売し、現実に引き渡した上、Bにブルドーザーを使用させていたという場合を考えてみます。

この場合、Bはブルドーザーの現実の引き渡しを受けた後は、これを直接占有しつつ、所有権留保者Aのためにブルドーザーを所持している、という形となります。

ここでも、AはBを介して、目的物を間接占有しているという関係が成り立ちます。

そのため、現実の引き渡しを受けて以後、BがAのためにブルドーザーを占有する意思が表示されたと認められる場合には、占有改定による引き渡しが成立しえます。

「本人のために占有する意思を表示した」の認定

ただし、上記ブルドーザーのような建設機械の所有権留保にかかる占有改定を肯定するのに必要な「本人のために占有する意思を表示した」(民法183条)の要件に該当する事実の認定は、意外と一筋縄ではありません。

どのような場合に、「本人のために占有する意思が表示」されたといえるのか、が問題となるわけです。

その認定の参考にもなるので、平成27年3月4日東京地裁判決の一部を載せておきます。

占有改定の成否に関し、「占有する意思を表示した」といえるか否かを、諸般の事情から認定している点が着目されます。

あ、これは随分と応用的な話となるので、そもそも占有改定ってなんだ?という方は、読み飛ばしてください。

東京地裁平成27年3月4日判決の一部

本件各機械は登録制度のない動産であるから、その対抗要件は、引渡しとなり(民法一七八条)、引渡しには、占有改定も含まれるところ、占有改定は「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示した」ときに認められる(民法一八三条)。

この点、前記認定のとおり、本件各契約書においては、原告が本件各機械の所有権を留保する旨定められた上(三条)、破産者は原告から本件各機械を使用貸借し(五条)、代金完済までの間、本件各機械の使用、保管に関する善管注意義務を負い(八条)、第三者から強制執行等を受けるおそれがあるときは、本件各機械が原告の所有物であることを極力主張、証明して不当な処分執行を阻止するとともに、直ちに原告に通知し、原告の指示に従わなければならないとされている(一二条)。

そして、建設機械の割賦販売における所有権留保の実情を前提に、第三者と留保所有権者の利益調整を図る方法として譲渡証明書の制度も普及しているところであり、そのような慣行の中で、本件各機械には所有権留保のステッカーが貼られて、破産者の下に存する他の械機と混同することのないように管理されている。

このような、本件各契約の規定、建設機械の割賦販売における取扱いの実情、破産者の占有下における本件各機械の管理態様等からすれば、破産者は、本件各機械を、使用貸借に基づき直接占有するに至り、その際、以後代金完済までの間は、原告のために本件各機械を占有する意思を表示したものといえる。

よって、原告は、本件各契約に基づく破産者への引渡時に、本件各機械について占有改定による引渡しを受けて、対抗要件を具備したものといえる。