占有訴権とは?占有保持・保全・回収の訴え

今回のテーマは占有訴権です。読み方はせんゆうそけん。

物権たる「占有権」がもつ法的な効果・権能の一つであり、その性質を理解する格好の素材です。

以下、その性質や制度趣旨、種類及び自力救済、本権の訴えなどを見ていきましょう。

占有訴権とは

占有訴権とは、占有者が、本権の有無にかかわらず、他人による占有の妨害・侵奪の除去を請求できる権利をいいます。

ここにいう占有者には、直接占有者はもちろん、間接占有者も含みます(民法197条但書)。たとえば、建物が賃貸借契約に供されている場合、賃借人はもちろん、賃貸人も、自己の名において、占有訴権を行使することができます。

なお、「訴権」という名前が付けられていますが、これは沿革的な理由によるものにすぎず、その性質は実体的な権利として把握されます。

(占有の訴え)
第百九十七条  占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。

制度趣旨

占有訴権の制度趣旨は、物に対する支配状態の維持・回復を、占有者に与えることにあります。

物に対する支配状態が保護の対象ですから、占有訴権の行使に際しては、その背後に正当な権利・利益があるか否かは問われません。

「占有をしていた」という事実自体をもって、その救済を求めるべく、権利行使をすることが可能となります。

たとえば、Aさんが、自分のためにパソコンを所持していたというだけで、Aさんは占有の妨害・侵奪に対して、占有訴権に基づき、その救済をもとめることができる、ということになります。

関連記事:占有とは?その意味について
そもそも「占有」のイメージが持てない、代理占有ってなんだっけ?という方はこちらをご参照ください。

占有訴権の3つの類型

占有訴権には、つぎの3つの類型があります。

・占有保持の訴え(民法198条)
・占有保全の訴え(民法199条)
・占有回収の訴え(民法200条)
いわゆる物権的請求権が、物権的妨害排除請求権、予防請求権、返還請求権の3つに分かれるのと同様、占有訴権についても、保持・保全・回収という3つの視点から、権利が規定されています。

以下、それぞれ、見ていきましょう。

占有保持の訴え(民法198条)

占有保持の訴えは、占有を妨害されている場合に、その除去・停止と損害賠償を求めることができる権利です(民法198条)。

たとえば、Aさんが占有している土地の一部に、Bさんがごみを不法投棄している、という場合、Aさんは土地の支配を妨害されていますので、占有保持の訴えにより、Bさんに対して、ごみの除去等を請求することができます。

ちなみに、占有が「妨害」の程度を超えて、「侵奪されている」というレベルに達しているときは、占有回収の訴えによることになります。

民法198条  
占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。

占有が妨害された場合、占有保持の訴えは、その妨害が継続している間又はその消滅の後、一年以内に行う必要があります(民法201条1項)。

この1年の期間「除斥期間」と解されており、この期間を徒過してしまうと、占有保持の訴えはできなくなってしまいます。

また、工事により占有物に損害を生じた場合には、占有保持の訴えは、さらに別の期間制限にかかります。

具体的には、占有妨害が工事による場合、占有保全の訴えは、その工事着手から一年が経過するか又はその工事が完成する前に提起する必要があります。

※工事がごく短期で終わるような場合、占有者は、時間的にかなり厳しい状況に置かることになります。占有者側は、工事が計画されていることを探知した時点で、次に述べる占有保全の訴えなどを検討する必要があると思われます。

関連記事:除斥期間とは
「除斥期間」の概念がよくわからない、もう一度確認したいという方はこちらの記事をご参考ください。消滅時効との違いなどについても解説しています。
民法201条第1項
占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。

占有保全の訴え(民法199条)

占有保全の訴えは、占有が妨害されている訳ではないものの、将来妨害されるおそれがあるとき、その妨害の予防及び予想される損害にかかる賠償の担保を求めることができる権利です。

たとえば、Aさんの土地に接する高地から土砂がいかにも崩れてきそうだ、あるいはAさんの隣地のマンションの外壁がAさんの土地に落下してきそうだ、という場合、Aさんはその妨害の予防等を求めることができます。

民法199条 
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。

占有保全の訴えは、原則として占有妨害の危険が存する間に起こすことが求められます。

また、工事によって占有物に損害が生ずるおそれがあるときは、工事着工から一年が経過するか、その工事完成までに訴えを提起することが必要です。

民法201条第2項
占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。

占有回収の訴え(民法200条)

占有回収の訴えは、占有が奪われた場合に、その物の返還と損害賠償を請求することができる権利です(民法200条1項)。

たとえばAさんが占有していた車を奪われたり、居住していた家から無理やり追い出されたりした場合には、Aさんは侵奪者に対して目的物の賠償と損害賠償を求めることができます。

Aさんは、侵奪者に対して、「車を返せ」とか「車が使えなくなったことにより発生した損害を賠償しろ」といえるわけです。

民法200条1項
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。

「奪われた」が要件

上記条文にあるとおり、占有回収の訴えの要件は「占有が奪われた」ことです。

そして占有の移転が占有者の意思的な関与に基づく場合には、「奪われた」とはいえません。

たとえば、AさんはBさんに騙されて目的物をBさんに手渡したという場合、Aさんは騙されてはいるものの、占有の移転自体はAさんの意思的な関与によるものです。

このような場合、Aさんは占有回収の訴えによって救済を求めることはできず、詐欺取消などを根拠に目的物の返還を求めることになります。

善意の承継人に対する請求の可否

また、占有回収の訴えは、善意の特定承継人には行使できません(民法200条2項)。

たとえば、AさんからBさんがパソコンを奪い、Bさんが、その事情を知らないCさんにパソコンを譲渡したという場合、Aさんは占有回収の訴えによってはCさんからパソコンを取りもどすことはできません。

この場合、AさんがCさんからパソコンを取り返すためには、所有権などの本権に基づく請求による必要があります(ちなみに、これに対してCからは即時取得の主張などがなされることが予想され、その成否によって、Aさんがパソコンを取りもどせるかが左右されます)

民法200条2項
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

占有回収の訴えの除斥期間

占有回収の訴えにも、他の占有訴権と同様、除斥期間が定められています。

具体的には、占有回収の訴えは、占有侵奪から1年以内に行うことを要します。

民法201条第3項
占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。

交互侵奪とは

占有訴権に関する論点の一つが交互侵奪の問題です。

交互侵奪とは、AがBの占有していた物を奪って占有を開始した後、BがAからこれを実力で取り返すことをいいます。

互いに交互に占有を奪い合っているので、これを交互侵奪(こうごしんだつ)と呼んでいます。

交互侵奪と占有回収の訴え

上記のような交互侵奪がなされた場合、Aは、さらに目的物を取り戻すべく、Bに対して占有回収の訴えを提起し、目的物を返還せよと請求することができるでしょうか。

この問題に関し、大審院判例は、AのBに対する占有回収の訴えを認めます(大判大13.5.2)。

他方で、学説においては、Bの占有物の取り返しが、Aの占有侵奪の1年以内である場合には、AのBに対する占有回収の訴えを否定すべきとするのが大勢の様です。

学説の根拠としては、Bは、Aの占有侵奪の1年以内であれば、占有侵奪の訴えを提起できるのであるから、AのBに対して占有回収の訴えを認めるのは訴訟的に不経済であること、などがあげられています。

交互侵奪に関する私見

感覚的には、最初に占有を奪ったAを保護すべきか?というところがないではありません。

しかし、個人的には、大審院判例を支持したいところです。

交互侵奪の場合であっても、少なくとも形式的には、占有回収の訴えを定めた200条1項の要件は満たされている、と考えられるからです。

この結果生じうる実質的な不具合や結論の妥当性確保、信義則・権利濫用等の一般条項にて対応すべきと考えます。

たとえば、Bによる取戻が、Aによる占有侵奪から1年以内に行われ、かつ例外的に自力救済としても容認しうるような状況下で行われた場合には、Aによる占有回収の訴えを権利濫用として否定する、といった処理で対応すべきではないかと考えています。

関連記事:自力救済の禁止とは~自己救済を原則否定した判例など~
上記AとBの交互侵奪の事案では、Bの取戻は自力救済とも観念されます。そして民法上自力救済は原則禁止されています。

ただ、原則には例外がつきもの。例外的に自力救済が容認される場合があることを示した判例などについても、関連記事にて解説していますので併せてご参照ください

本件の訴えとの関係(民法202条)

占有の訴えは、占有自体に基づくものですから、本権とは無関係です。

裁判所は、占有訴権が認められるか否かに関し、本権の有無などに基づき、裁判をすることはできません(民法202条2項)。

また、ある占有の訴えが行われたことは、別途、本権の訴えがなされることを妨げるものではなりません。逆もまたしかりです。

あくまで、占有訴権は、本権とは別個のものという位置づけになります。

ただ、判例上、占有訴権の訴えに関して、本権者側が反訴を提起することは認められています(最判昭和40年3月4日判決)。

たとえば、AがBに対して占有回収の訴えを提起するのに対して、Bが所有権の確認などを求めて反訴提起するといったことが想定されます(また、場合によっては双方の請求が認容されることも想定されます)。

民法第202条  
1 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。