囲繞地とは?囲繞地通行権や袋地を巡るトラブル・判例について

今回のテーマは、民法という法律に規定される囲繞地通行権についてです。

以下、囲繞地とは何か、これに関連して袋地とは何か?を解説した後、囲繞地通行権を巡る民法の規定やトラブル、判例(裁判例)について見ていきます。

また、最後に囲繞地通行権に類似する通行地役権との違いについても解説します。

囲繞地とは?袋地とは?

まず、民法における囲繞地とは、ある土地が、他の土地に囲まれて公道に通じない場合におけるその周囲の土地のことを指します。平たく言えば、ある土地を、取り囲んでいる土地のことです。

また、袋地とは、他の土地に囲まれて行動に通じない土地のことを指します。「袋地」に対し、袋地を作り出している周りの土地が囲繞地となります。

現在の民法では「囲繞地」の用語は使用されないものの、民法210条においては、「他の土地に囲まれて公道に通じない土地」を「囲んでいる他の土地」という規定の仕方で、概念づけられています

読み方など(いにょうち・いじょうち)

ここで読み方について。民法において、「囲繞地」というとき、その読み方は通常「いにょうち」です。私は大学でこのように習いました。

もっとも、調べてみると、これを慣用的に「いじょうち」と読むこともあるようです。法律の教科書においても、「いじょうち」とルビが振られていることもあります。

どちらの方法で読んでも正解といえそうです。

ちなみに「繞」という字は、「まとう」、「めぐる」という意味合いがあるようです。

刑法における概念

上記の説明は、民法における囲繞地の説明です。

他方、刑法において、「囲繞地」という概念は全く違う概念として使われます。

たとえば、住居侵入罪において、「囲繞地」という場合、大雑把には、当該住居の周囲の土地であって、門塀などの囲障が施された部分を指します。

民法においては、ある「土地の周囲」の土地を囲繞地と概念するのに対し、住居侵入罪においては、ある「住居や建物の周囲」の土地(囲障が施された敷地)を概念することになります。

囲繞地通行権とは

以下、民法が定める囲繞地通行権について見ていきます。民法210条~民法213条に関連規定が置かれています。

権利の成立・要件~民法210条1項~

民法における囲繞地通行権とは、他の土地等に囲まれて公道に通じない土地の所有者が、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地につき、通行することを請求できる権利を言います(民法210条第1項)

要は、袋地所有者が公道にでるために他の人の土地を通ることができる、という内容の権利、ということになります。

公道に出られない土地の所有者につき、公道に出るための通行権を認めなければ、当該土地の便益が著しく害されるため、民法は、土地の相隣関係の調整の一つとして袋地所有者に通行権を認めています。

なお、周囲を池・沼・河川・海等をと通らなければ公道に至ることができない土地の所有者や、周囲に崖があって、土地と公道に著しい高低差がある場合における当該土地の所有者も、他の土地の通行を請求できます(同2項)

なお、囲繞地通行権を主張するに際して、袋地所有者は、その土地につき登記を備えることも要しません(最判昭和47年4月14日判決参照)

民法210条
① 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
② 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけ があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。

権利の内容~民法211条~

民法211条は、囲繞地通行権の内容につき、次のように定めています。

民法211条
① 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
② 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。

第1項は、袋地所有者の通行の場所及び方法につき、必要性が認められ、かつ他の土地(囲繞地)に与える損害が最小限度のものでなければならない、という内容を定めたものです。

また、同2項は、袋地の所有者は、その通行のために、必要があるときは、「通路」を作ることができる、としています。たとえば、砂利を引いたり、障害物を除去したりすることなどがこれに該当します。

償金~民法212条~

囲繞地通行権が認められる場合、通行を許容する土地の持ち主は、自らの土地所有権の制約を受けます。

これを全くの無償とするのは、公平性に欠けます。

そこで、民法222条本文は、囲繞地通行権者は、一定の償金を支払わなければならないと定めています。

なお、当該償金は1年ごとの支払いで足りるのが原則ですが、通路開設のための損害に対する償金は、一時金として支払わなければなりません(同但書)

民法212条
第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。

分割又は譲渡によって生じた袋地の場合~民法213条~

民法213条は、もともと袋地でなかった土地につき、分割又は土地の一部譲渡によって袋地が生じた場合について定めた規定です。

もともと袋地でなかった土地につき、分割又は土地の一部譲渡によって袋地が生じた場合、袋地所有者の囲繞地通行権は、分割又は譲渡された他方の土地にのみ成立します(同1項、2項)。この場合、袋地所有者は、償金も支払う必要がありません(同1項後段、同2項)

左記図では、分割によって、A地が袋地となっているところ、A地の所有者の囲繞地通行権は、分割されたB地にのみ成立する、A地所有者はその通行に際して償金を払う必要はない、ということになります。土地を分割又は譲渡する側は、分割又は譲渡に際して袋地(A地)が生じることを予想できるので、袋地を生じさせたことにより生じる負担も甘受すべきという価値判断が働いているわけです。

民法213条
① 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
② 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

なお、分割又は土地一部譲渡によって袋地が生じた場合における囲繞地通行権の負担は、分割又は譲渡された他方の土地が第三者に譲渡された場合においても、当該第三者の負担に帰すと解されます(最高裁平成2年11月20日判決)

囲繞地通行権を巡るトラブル・判例

ここで囲繞地通行権を巡るトラブルにつき、判例を随時紹介しつつ、代表的な例を見ていきます。

通行の拒否

囲繞地通行権を巡る一番典型的なトラブルは、通行拒否です。

俺の土地を通るなんてとんでもない、と囲繞地の所有者が通行を拒否した場合に問題となります。

上記に見てきた通り、囲繞地通行権は、法律が認めた権利であり、その権利の成立に囲繞地所有者との合意は不要です。

したがって、囲繞地通行権が成立する場合、その通行を拒否することはできない、ということになります。

ただ、そうはいっても事実上、障害物を置かれるなどして袋地所有者の通行が拒絶されることもあります。

こうした場合には、袋地所有者は、通行地役権の有無の確認を裁判所に求めるなどして、その解決を図っていくことになります。

なお、小さな論点として、先ほど述べた民法212条の償金を払っていないことが、通行拒否の理由になるか、という問題があります。

この点に関しては、償金不払いの一次をもって通行を拒絶することはできない、という考え方と通行を拒絶できるという考え方双方あります。

「公道に至らない土地」の理解

また、民法210条が定める通り、囲繞地通行権が認められるのは、公道に至らない土地の所有者です。

そして、この要件の解釈論として「公道に至らない土地」が何を指すのか、が問題となることがあります。

私道との関係

この問題は、たとえば、私道には至るが、国や地方公共団体が管理する道には至らない土地、についても、囲繞地通行権が認められるのか、という形で問題となり得ます。

この点、民法210条にいう「公道」は、国や地方公共団体が有する道、という意味ではなく、「公衆が自由に通行できる道」だと理解されています。

そのため、その土地が、通行の自由な「私道」に至るのであれば、当該土地の所有者には囲繞地通行権は認められません。

公道への接続が不十分な場合

では、当該土地が公道に接続してはいるものの、その接続範囲が極めて狭い、という場合はどうでしょうか。

この点、公道に「至らない」というのは、全く通路がない場合だけに限られないと解されています。たとえば、わずかに10㎝公道に接続している、というだけで、もはや袋地とはいえず、囲繞地通行権は認められない、ということになってしまうのでしょうか。

この点、「公道に通じない」という要件は、公道と全く接続してない、という場合に限られないと理解されています。

大雑把に言えば、他の土地を通らないと、結局当該土地を合理的に利用できるだけの通行ができない場合には、たとえ土地の一部が公道に接続していても、通行地役権が認められる余地があります。

大審院昭和13年6月7日判決も、ある土地に、仮に公道に通じる径路があるといえども、通行地役権が肯定される場合がある、としています。

大審院昭和13年6月7日判決(管理人において平仮名化)
「仮令公道に通ずる径路ありといえども、自然の産出物を搬出すること不能なる地勢なるにおいては、その搬出に必要なる限度において、囲繞地を通行することを得るものと言わざるをべからず」

自動車通行の可否

また、囲繞地通行権をめぐるトラブルの一つとして、自動車通行のために囲繞地を通行することが認められるか、という問題があります。

この点に関し、最高裁は次のように判示しています。

最高裁平成18年3月16日判決
現代社会においては、自動車による通行を必要とすべき状況が多く見受けられる反面、自動車による通行を認めると、一般に、他の土地から通路としてより多くの土地を割く必要がある上、自動車事故が発生する危険性が生ずることなども否定することができない。

したがって、自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。

この判例の判旨に従えば、車両通行の必要性や周囲の土地の状況に照らして、ケースバイケースで車両通行の可否を判断していく、ということになります。

たとえばですが、当該土地が墓地建設用地として利用されているような場合、墓石運搬のために車両による運搬の必要性が高いと言え、裁判所の判断は車両通行を認める方向に傾きやすい、といえます。

通路の幅について

囲繞地通行権が認められる場合においては、その「幅」が次いで争いになりがちです。

その幅を一概に特定することはできませんが、一般的には、「2メートル」とされることが多いようです。

下級審判例においても、市街地における囲繞地通行権にかかる通路の道幅につき、建築基準法を斟酌して二メートルと定めた事例が存するところです(甲府地裁昭和38年7月18日判決 なお、東京地判昭和39年2月1日参照)。

補足
上記の通路幅に関し、昭和37年最高裁判決は、通路幅を斟酌するに際して、建築基準法及びこれに基づく条例を考慮要素から外しています。

しかし、これには反対意見も強いところです。当該最高裁判決が出た後においてもなお、上記のように、下級審において、通路幅の判断につき、建築基準法が斟酌されている点が着目されます。

なお、車両の通行地役権が認められる場合の通路幅は、それが認められない場合よりも広くなります。想定される車両の大きさにもよりますが、4メートル前後まで認められる可能性があると解説されることがあります。

通行地役権との違い

最後に、囲繞地通行権と通行地役権との差について

隣地を通行するための物権として、通行地役権という権利があります。この権利は、ある土地に隣接する土地を通行するための権利であるという点で、囲繞地通行権と類似します。

もっとも、通行地役権は、当事者間の合意で定めることによって成立する権利である点で、囲繞地通行権と決定的な差があります。通行地役権については、そもそも合意なくして発生しないのです。

また、内容についても次のような違いがあります。

囲繞地通行権は、通行に必要な限度で、かつ損害を最小限度とする程度でのみ認められるもの(民法210条)なのに対して、通行地役権は、その内容を当事者間の合意で決められます。

また、囲繞地通行権は、「公道に至らない」土地にのみ成立するのに対して、通行地役権にはこのような制限はありません。

加えて、囲繞地通行権は、償金の負担が原則となりますが、通行地役権は、有償なのか無償なのか、という点についても自由に定められます(ただし、この点はあまり本質とは関係がありません。)

囲繞地通行権と通行地役権とは、物権であるという点、他者の通行に関する権利である、という点で共通しますが、前者の内容は「合意」ではなく、法律で内容が定まるのに対し、後者は当事者間の「自由な合意」によって権利の内容が定まる点で大きく異なるといえます。

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通行地役権などを含め、地役権全般について解説した記事です。