意思表示とは

今回は、民法や法律の教科書における頻出単語の一つ、「意思表示」についてです。

普段、深く考えることのないテーマの一つですが、錯誤や心裡留保等の理解を深めるためは、「意思表示」そのものについて理解を深めておくことが重要です。

以下、意思表示の構造やその瑕疵、及び効力発生時期等について説明します。

意思表示とは?その意味について

意志表示というのは、法律上の権利を発生させたり、変動させたりしようとするためになす当事者の意思の表示です。

これを法律上の言葉で定義すると、法律効果を発生させようとする意思の表示をいいます。

たとえば、ある商品を買おうとするとき、買主は、その商品を買う、という意思を表示しますが、これは、売買契約上の権利義務関係を発生させようとする意思表示です。

内心と表示の構造

意思表示は、①内心における効果意思(内心的効果意思)と、②その内心の意思を表示しようとする表示意思、③当該表示意思に基づく表示行為から成ります。①と②は内心、③は外部行為です。

専門用語を用いていてわかりにくいかもしれませんが、次に解説しますのでついてきてください。

① 内心的効果意思

①の内心的効果意思は、概して、当事者の「真意」を意味します。当事者の真の気持ちですね。

上記売買の例で言えば、その商品を買いたいという内心です。

② 表示意思

②の表示意思は、上記の内心を外部に表現しようとする意思を言います。回りくどいのですが、内心を表現しようとする気持ちのことです。

上記売買の例で言えば、「その商品を買いたいと言おう」という意思が表示意思です。

③ 表示行為

③の表示行為は、②の表示意思に基づく実際の表示行為を言います。上記売買の例で言えば。「その商品を買う」との発言なり、申し出が表示行為に該当します。

動機などについて

ちなみに、人間の内心の上記①(内心的効果意思)の手前には、さらに「動機」という内心があるとされます。上記例で言えば、その商品をなぜ買いたいと考えたか、という部分です。

図解

以上を図示すると、下記のようになります。まず①~③までが意思表示であり、その内、①と②が内心、③が外部行為であるという点、そして、①の手前に動機がある、という点がそれぞれポイントになります。動機は原則的には、意思表示を構成しません。

①動機、②内心的効果意思、③表示意思、④表示行為を通じて意思表示がなされる。意思表示の構造としては②~④のみ。

法律行為との関係

ここで、教科書で出てくる「法律行為」の意味についても確認します。

法律行為というのは、意思表示に基づいて法律効果を発生させようとする行為をいいます。

意思表示を中核として、法律上の権利義務関係を発生・変動・消滅させる行為です。

法律行為を上記の様に考えると、結局意思表示と法律行為って何が違うの?と思われるかもしれません。当然の疑問です。ただ、ここを考える実益は正直、余りないと思ってください。

たとえば、民法における取消や解除の意思表示等は、実は、法律行為そのものです。その表示をもって法律関係を変動させるものだからです。ここでは意思表示=法律行為の関係が成立します。

ただ、一応、違いというか区別する着眼点は存在します。

たとえば、契約等についてみると、そこでは買いたい・売りたいという二つの意思表示(申込みと承諾)とが合致して、契約という1個の法律行為が成立し、法律効果が発生します。

ここでは、意思表示の合致によって、契約が成立するので、単独の意思表示=法律行為という関係が成立しません。

このように契約等、複数の意思表示の存在を前提に法律行為が成立し得るという場面があるため、一応、概念上、意思表示と法律行為とは区別されえます。

ただ繰り返しになりますが、この点は、勉強を進めるに際して、そこまで厳密に区別して覚える実益は乏しいようにも思われます。

意思表示と意志表示

むしろ、初学者の内に間違えやすいのは、「いし」表示という文字における「いし」の部分の「漢字」です。

「いし」の部分は、あくまで「意思」と書きます。

「意志」というのは、何かを成し遂げようとする強い気持ちという言葉で、漢字の他、ニュアンス自体も似ているため間違えやすく要注意です。

ちなみに、臓器提供などのカードを「意思表示カード」といいます。ここでも「意思」という漢字が使われています。

法律用語として「意志」という用語は、基本的には使われていないと考えて構わないように思います。

意思表示の瑕疵とは?瑕疵ある意思表示について

民法は、意思表示に瑕疵(「かし」と読みます)がある場合として、次の4つの場合を定めています。

4つの類型

  • ①心裡留保
  • ②通謀虚偽表示
  • ③錯誤
  • ④詐欺・強迫
  • それぞれ、上記の意思表示の構造部分ないし動機の部分に欠陥を有しており、そのために当該意思表示が無効となったり(上記①及び②)、取り消し得るものとなったり(上記③及び④)します。

    以下概略だけ確認しますが、詳細については、それぞれ各リンク先のページでご確認いただければ幸いです。

    ①心裡留保

    心裡留保は真意を欠くことを表意者が知りながら、真意と異なる表示行為してしまった場合です。

    上記意思表示の構造に即して言えば、内心的効果意思を表意者が欠いており、かつ、これを表意者が知っている場合を指します。

    たとえば、買う気もないのに、それ買ってやるよ、などと冗談のように意思表示をするのが心裡留保に該当します。

    ②通謀虚偽表示

    通謀虚偽表示というのは、当事者が意を通じてなされた真意とは異なる虚偽の意思表示をいいます。

    上記構造に即して言えば、内心的効果意思を欠いていることを契約当事者等の双方が認識している場合です。

    たとえば、真に売買する意図はないのに、不動産の売買契約を仮装するなどがその例です。

    ③錯誤

    伝統的な整理に従うと、錯誤というのは心裡留保と同様、真意を欠くにもかかわらず、表示行為がなされた場合を指します。

    ただ、表意者自身、真意を欠くことを知らない、という点に心裡留保との違いが有ります。

    たとえば、アメリカ留学から帰ってきたばかりの帰国子女の方が、1200円で買うと契約書に書こうと思っていたのに、1000ドルで買うと誤って書いてしまった場合が、錯誤の例です。

    ④詐欺・強迫

    騙されて意思表示をしたというのが詐欺、脅されてしてしまったという場合が強迫です。

    「動機の部分」について、第三者による違法・不法な行為が介在しています。

    意思表示の到達等に関する民法の規定

    民法総則は意思表示の到達等に関し、次の3つの規定を設けています。
  • ① 効力発生時期~民法97条~
  • ② 公示による到達(意思表示の公示送達)~民法98条~
  • ③ 受領能力~民法98条の2~
  • 最後に、意思表示の到達等に関連して、民法の規定を確認しておきましょう。

    上記の瑕疵の問題について押さえた上で、ここまで押さえておくと民法総則の意思表示に関する理解としては、ばっちりになります。

    ただ、契約に関する申し込みや承諾の到達等については、別の機会に解説する予定ですので、ここでは総則に定められた規定のみ確認します。

    ① 効力発生時期~民法97条~

    意思表示は、原則として、意思表示の通知が相手に到達したときに効力を発生します(民法97条1項)。

    たとえば、契約における解除権行使の意思表示は、その旨を記載した手紙などが相手に到達したときに効力を生ずることになります。

    この場合、解除権を行使する側がその手紙が到達したことを証明することを要します。そこで、意思表示が到達したことを事後的に証明するため、しばしば内容証明郵便等が用いられます。

    なお、相手方が、正当な理由が無いのに意思表示の到達を妨げた場合、通常、その意思表示が到達すべき出会ったときに到達したものとみなされます(同97条2項)

    また、意思表示の通知を発した後になって、表意者が死亡したり、意思能力を喪失したり行為能力の制限を受けた時であっても、そのことを理由に、意思表示の効力は否定されません(同97条3項)。

    ② 公示による到達(意思表示の公示送達)~民法98条~

    上記のとおり、意思表示は、相手に到達したときに効力を発生します(民法97条1項)。これは、逆に言えば、相手に到達しなければ、効力は発生しない、ということになります。

    そうすると、上記民法97条1項の規定だけでは、相手がどこにいるのか分からなければ(手紙の送付先や連絡先が分からなければ)、意思表示の効力を発生させることはできなくなってしまいます。

    そこで、民法98条はこの点に関し、手当を置いています。公示による意思表示に関する規定です。

    <公示による方法につき民法が定めていること>
    以下、民法98条の内容を俯瞰します。細かいところですので、関係が無い方は読み飛ばしてください。

    民法98条は、表意者が、相手方が誰か又は相手方の所在を知ることができない場合、公示の方法によって意思表示をすることができる旨定めています(同1項)。相手方の所在などが分からない場合、この規定に基づいて、意思表示をすることになります。

    この公示による意思表示は、公示送達に関する民事訴訟法の規定に従ってなされます(同2項)。具体的には、裁判所を介して、裁判所の掲示場への掲示や官報への掲載などの手順を踏んで、意思表示をすることになります。

    ちなみに、管轄裁判所は、相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の簡易裁判所、相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所です(同4項)。表意者は、公示に関する費用を予納しなければなりません。

    そして、上記公示送達の意思表示は、最後に官報に掲載した日等から二週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなされます(同3項本文)。

    ただし、表意者が、相手方が誰か、又は相手方の所在を知ることができないことにつき、過失(不注意)が有った場合には、その限りでありません(同3項但し書き)

    ③ 受領能力~民法98条の2~

    また、民法は受領能力についても定めています。

    すなわち、表意者が意思表示をした場合でも、その相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったときや、未成年者若しくは成年被後見人であったときは、表意者はその効力発生を主張できません(民法98条の2本文)

    ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでなく、表意者はその効力発生を主張できることになります(同但書き)。
    ・相手方の法定代理人
    ・意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方