民法を中心とする私法の分野において、「禁反言」という言葉が出てくることがあります。
日常用語として余りでてくる単語ではありませんが、民法の最初の方に出てくるだけあって、法律用語としては割と一般的に使用される単語です。
今日は、この禁反言について。
禁反言とは!?その意味について
禁反言というのは、一旦主張した言い分と相反する主張をすることは許されない、という意味です。
私法の一般通則的な考え方ともなっており、「禁反言の法理」とも呼ばれます。英米法に由来する法理であり、エストッペルの法理とも呼ばれます。
この法理の根底にある考え方は、比較的親しみやすいものです。
要は、「言っていることが前と違うよ。それはダメでしょ」、という考え方ですね。
あるいは、「矛盾挙動はだめですよ」といった考え方です。
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私法には、権利外観法理という法理があります。
これは、自ら真実とは異なる外観を作出した者は、その外観を信じて取引等に入った者との関係では保護されない、という法理です。
禁反言の法理も、この権利外観法理と同種・同一の目的を有するもので、その相手方を保護するために機能します。
権利外観法理については次の記事をご参照ください。
禁反言の法理は、民法が適用される場面よりも、むしろ特許法の分野で特に発展しており、「包装禁反言」と呼ばれる論点が有名です。
包装禁反言というのは、おおざっぱに言えば、出願人は、特許の出願経過において出願人が行った主張と相矛盾する主張を権利取得の後の訴訟・争訟で主張してはならない、という考え方です。
後になって、出願等の時に言ったことと違うこと言わないでね、という法理ですね。
禁反言の法理の具体的な適用の場面では、事はそれほど単純ではありませんが、特許出願の段階における意見書や補正書の内容は、後に「禁反言だ!」と言われないよう、慎重に検討する必要があります。
民法における禁反言と信義誠実の原則(信義則)~民法1条2項~
ここで、理解を深めるために、禁反言の原則の根拠と同原則に触れた裁判例について見ておきます。
根拠は信義則
禁反言の原則の根拠は、民法では「信義則」に収斂されます。
民法1条第2項を見ておきましょう。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
この規定は、当事者双方は権利行使・義務の履行に関し、互いに信義に則して誠実に行いましょう、と定めた規定です。
おおざっぱに言えば、この信義則の考え方を「主張レベル」に引き直したものが禁反言の法理です。
以前の主張と矛盾する主張は許されませんよ、ということですね。
裁判例紹介
「禁反言の原則に反する」ということを明示的に述べる裁判例は多くないです。
信義則の一つ、という位置づけであり、矛盾挙動・矛盾言動から直ちに禁反言原則違反だ、との判断は得られにくいのが実情です。禁反言の原則に反する、といった趣旨の判決を見つけるの、本当に難儀しました。
一般民事の事件のなかでようやく見つけた裁判例を、一つ紹介します。東京地判令和6年3月28日判決です。
この判決は次のように判示しています(一部読みやすく改変)。
東京地判令和6年3月28日判決
- 前提判示
一般に、賃貸人の解約申入れにより賃貸借契約が終了した場合には、転借人が建物使用を必要とする事情も考慮した上で正当の事由が認められるという前提の下でこれが終了することになる(借地借家法法28条括弧書き参照)。この場合、賃貸人が転貸を承諾していたとしても、賃貸人の正当な権利の行使として、賃貸人は、賃貸借契約の終了を転借人に対して対抗することができるものと解される。 - 本件の特殊性(禁反言部分)
もっとも、本件においては、前示のとおり、原告が本件転貸借契約の転貸人の地位を承継することを申し出、これを本件転借人にも伝えており、上記地位の承継がされることを前提として正当の事由を認めることとなる。これにもかかわらず原告が解約申入れによる本件契約の終了を本件転借人に対して対抗することができることとなれば、禁反言の法理等に照らしても不当というべきである。したがって、本件の事情の下では、原告は、本件転借人に対して本件契約の終了を信義則上対抗することができないと解すべきである。
この判決は、転貸を継続するかのようにふるまっていた建物の賃借人が、賃貸人の地位を承継した後に、おおもととなっていた賃貸借契約の終了を転借人に対抗することが禁反言の法理等に照らして不当というべき、との判断を示したものです。
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民事訴訟法と禁反言の法理
民事訴訟法上の根拠規定
信義則に類する規定は、民事訴訟法にもあります。同法2条です。訴訟手続上の禁反言を根拠づけるとすれば、この規定です。
裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。
民事訴訟における禁反言に関する判例
ここで、民事訴訟における「禁反言の法理」をイメージしやすい判例があるので紹介します。昭和41年7月14日最高裁判所第一小法廷判決です。
原告が訴えを提起した後、その訴状(訴え提起の書面)その送達前に被告が死亡していたが、被告の相続人が、異議を述べずに訴訟承継の手続をとり、上告審まで訴訟を継続したという事案。
【判決の趣旨】
被告の相続人らが自ら進んで訴訟行為をした等の訴訟の経過の下では、相続人らが上告審において、本件訴訟の被告は死者であるとして、自ら行ってきた訴訟行為の無効を主張することは、信義則上許されない。
上記判例の事案は、相続人らが自分で受継の手続を行い、上告審まで進めていながら、上告審になって、訴状の送達前に被相続人が死亡していたので、裁判は当初から係属しておらず、自分たちが行ってきた訴訟行為は無効と主張するものです。
これは、相続人ら自分たちが行ってきた原審等でのそれまでの行為を「やっぱり無かったことにしろ」と最高裁で言うようなもので、まさに禁反言の場面の一つといえます。
その相手方も最高裁の裁判官も、相続人らの書面を見て、「はぁ!?」ってなったはずです。