今回のテーマは強行法規についてです。
民法の教科書を読んでいるとしばしば出てくるこの用語、今回は、強行法規と対になる任意規定との違いも併せて解説します。
また、本記事では、民法に出てくる強行法規の具体例のほか、強行法規が多く定められた法律の例などを紹介します。
強行法規(強行規定ともいう)とは
強行法規というのは、その法律に違反する合意の効力を否定する法律上の規定を指します。
ある契約が強行法規に反する場合、その合意は無効とされます。つまり、当事者の望んだ法律上の効果が否定されるわけです。
ここに、「Aという商品を売買の対象にすることは許さない」という規定があるとしましょう。
この規定が仮に強行法規だとした場合、Aを売買する契約は無効となります。
このように、私法上の合意の効力を、その規定違反を理由に否定する機能を有する法規を強行法規といいます。
なお、強行法規は、「強行規定」と呼ばれることもあります。
任意規定(任意法規ともいう)との違い
法律を学ばれたことがない方は、法律って違反したらダメなものなんだから、「法律に反したら、その効果が否定されるって、それが普通なんじゃないの?」と思われるかもしれません。
しかし、契約に関するルールを定めた法律である民法に限ってみれば決してそんなことはありません。
民法においては、契約自由の原則が働いており、基本的に合意の内容は当事者で自由にきめていいことになっています。
そのため、民法では、一定のルールが定められているものの、それとは異なる契約をすることも、基本的にはOKです。
この場合、法律で定めたルールより、当事者の合意が優先されることになります。言い方を変えれば、法律が定めたルールの内容を当事者が任意に変更できるわけです。
そして、このような法律の規定を任意法規又は任意規定と言います。
強行法規が、それに反するとその違反部分の合意は無効と扱われるのに対して、任意法規の場合、それに反する合意が優先する、という点に両者の違いがあります。
強行法規か任意法規かの区別・見分け方
誤解を恐れずに言えば、「その法律を破ったらそれはまずいだろ」というものが強行法規だという発想で、強行法規か任意法規かを見分けていく(解釈していく)ということになります。
民法91条の反対解釈
任意規定・強行規定の別を理解するうえで重要になるのが民法91条です。
民法91条
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
この条文中、「公の秩序に関しない規定」というのが任意法規を意味します。
同条は、これと異なる意思が表示された場合、法律行為の内容が「その意思に従う」ものとし、任意規定に対しては、当事者の意思が優先することが明らかにされています。
他方で、この規定を反対解釈すると、「公の秩序に関する規定」と異なる意思が表示された場合には「公の秩序に関する規定」が優先することとなります。
つまりは、公の秩序に関する強行法規に反する意思が表示されたとしても、その法規が優先し、その意思は実現できないわけです。

民法上の強行法規の例
民法において、任意法規の規定は多々ありますが、強行法規はそれほど多くありません。
具体例をいくつか見ていきましょう。
民法146条について
まず、民法146条についてです。
民法146条
時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
この規定は時効の利益はあらかじめ放棄することができない旨定めています。これは強行法規と解されます。
時効の利益をあらかじめ放棄することを認めると、民法が時効制度を定めたそもそもの趣旨(権利の上に眠るものは保護に値せずなど)を没却することになるからです。
そのため、たとえば、金銭の貸し借りの合意をするに際して、当事者間で、「将来、お前、消滅時効を援用するの禁止な」と合意したとしても、その合意は民法146条に反し無効となります。
民法678条について
次に判例で争いになった民法678条について。
第678条
組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。
民法678条本文は、存続期間の定めのない、または終身存続する組合契約に関し、組合員はいつでも脱退をすることができる旨定めています。他方、同但書は、「やむを得ない事由」がある場合を除き、組合員は組合に不利な時期に脱退することができない旨定めています。
この但書部分を反対から理解すれば、「やむを得ない事由」がある場合には、組合員は、存続期間の定めがあろうがなかろうが、組合員は、組合から脱退できるはずです。
そうすると、民法678条は、存続期間の定めの有無にかかわらず、組合員に対して、「やむを得ない事由がある場合」には、いつでも組合から脱退できる権利を保障したものとも解されます。
そのため、判例は、同条のうち、「やむを得ない事由がある場合には、組合の存続期間の定めの有無にかかわらず、常に組合から任意に脱退することができる」旨を規定している部分は、強行法規であると判断しています(最高裁平成11年2月23日判決参照)。
ある規定が存在する場合に、任意に変更しうる部分と任意に変更しえない強行法規部分とが混在しうることを示すものです。

強行法規は一定の政策目的で規定される法律に多く見られる
民法に規定された各種ルールの多くは、任意法規です。しかし、その他、特に、一定の社会政策目的で定められた法律には、契約自由を制限すべく、多々強行法規が置かれます。
上記の通り契約自由の原則も社会政策目的から修正され得ます。それはなぜでしょうか?本記事と合わせてぜひ関連記事も一度ご参照ください。
労働基準法について
たとえば、労働者の労働条件につき最低限度の基準を定めた労働基準法の規定は、基本的には強行法規です。
労働基準法は、賃金に関するルールや労働時間、休日に関するルールなどを種々定めています。
これは経営者と労働者との間に、契約交渉力の差があるため、労働者を保護するという社会政策的観点からルール化が図られたものです。
それにもかかわらず、経営者と労働者との間で、労働基準法と異なる合意をしてよい、ということになると、労働者を保護しようとした法の趣旨が没却されてしまいます。
そのため、労働基準法の規定の多くは、強行法規として構成されています。
消費者保護法について
また、消費者保護の観点から設けられた消費者契約法や特定商取引法の多くも強行法規です。
たとえば、特定商取引法は、訪問販売など一定の場合に、消費者にクーリングオフの権利を与えていますが、その規定は強行法規と解されます。
これを当事者の合意で変更してしまえるのでは、消費者にクーリングオフの権利を与えて、その保護を図ろうとした法の趣旨が実現できなくなってしまうからです。
会社法について
また、会社の機関の在り方や資金調達の方法などのルールを定めた会社法は、その多くの規定が強行法規と解されます。
会社法は、会社にかかわる多数の利害関係人の利害調整を図るため、会社の機関や組織について、種々の規定を置くものです。
たとえば、社債を発行する、新株を発行するための手続を定めた規定や株主総会の開催のルールを定めた規定などがそれに該当します。
このように、会社法が多数の利害関係人の利害調整のためのルールを定めているにもかかわらず、これと異なるルールを容認するのでは、その趣旨が没却されてしまいます。
そのため、会社法においては、その多くが強行法規と解されています。

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