ぼったくりとは?その支払い拒める3つの法的根拠

今日のテーマは「ぼったくり」についてです。

法律の教科書などには出てこないテーマですが、なぜぼったくりの請求に対して、支払いをしなくてよいのか?と考えるのは、民法を学ぶ上で、格好の素材となります。

以下、ぼったくりについて、その請求を拒める3つの理由を中心に解説していきます。

ぼったくりの意味

ぼったくりとは、あるサービスに対して、法外な料金を請求すること、ないしその店を意味します。

ぼったくりが行われる業種は多岐にわたりますが、とりわけ、バーやキャバクラのような外観を呈している店が問題視されがちです。

バーやキャバクラにおける「ぼったくり」の典型例は次のようなものです

<ぼったくり店の例>
夜、二人で繁華街を歩いていると、客引きの黒服の男に飲み物セット料金1時間4000円ぽっきりと声を掛けられた、そこで店でそれぞれ一杯だけ飲んで、1時間経過後帰ろうとしたところ、飲み物代は4000円だが、チャージ料金一人7万円、合計14万8000円と言われた。

払えないと断っていると、店の奥の方から、強面のがっしりした男が出てきて、払わないということは、踏み倒すという意味か?などと凄んでいる。

上記のようなぼったくりに対しては、お金払う必要ありません。以下、法律上の根拠を見ていきます。

ぼったくりバー等に代金を支払う義務も必要もない

現にぼったくりにあった場合、要求された金員を払う必要はありません。ぼったくりバーなどに代金を支払う法律上の義務がないからです。

法律上の根拠となる理屈付けは、いくつか考えられます。

一つ目には、ぼったくり金額に対し合意をしていないこと、二つ目は、契約があったとされても錯誤取消を主張しうること、三つめは、ぼったくりが公序良俗に反することです。

以下、それぞれ見ていきます。

ぼったくり金額に対する合意がないこと

そもそも、契約が成立するためには、当事者間の合意が必要です。

ぼったくりは、客が思いもよらない高額な金額を不意打的に請求するものであり、客側には、そもそも、そのような金額の契約をする内心的な意思を有していないのが通常です。

この点、店の椅子に座って飲んだ以上は、ある程度高額な代金が請求されることが分かっていただろ、店の壁の張り紙にもチャージ料3万円と書いてあるぞ(確かに目立たないように小さく書かれている場合はある)、などと言われるかもしれません。

しかし、その金額があらかじめ分かっていたら、その店で飲むことはないのですから、店の張り紙に気が付かず、4000円ぽっきりと思って飲んでいたのであれば、やはり、ぼったくりとの間の合意は成立しません。

法律上は、「いや、そんな金額知らなかったし」という主張は立派に通りえます。

関連記事:契約とは
契約とは何かという点について解説した記事です。契約が成立するには意思表示の合致が必要ですが、ぼったくりはこの意思表示のが合致を欠いています。関連記事をご参照ください。

ぼったくり店との契約は、錯誤で効力を否定できる

また、ぼったくりバーなどとの合意が仮にあるとしても、錯誤の主張によりその合意の効力は否定し得ます。

錯誤というのは、内心と実際の契約とが一致しない場合をいいます。錯誤に基づく合意は、民法上、その効力を否定し得ます。

「いや、4000円だと聞いていたし、現にそう思っていたから4000円以上は払えない、契約が成立しているというならその契約は取り消す」という主張が通り得ます。

上記に関し、参考となるのが、東京地方裁判所の平成28年1月12日判決です

この事案は、1時間4000円であると勧誘を受けた客が、1時間当たりの飲食サービスの対価として、14万円をこえる請求を受けた事案です。

この事案において、裁判所は、次のように述べて、客は、上記のような高額な支払いを要することになるとは認識していなかったと認定しました。

<高額料金であったことの認識について>
・客は、飲食及びサービスの提供を受けるに当たり、高額請求の前提となった料金表を見ていなかった。
・客は、店員から料金体系についての説明を受けることもなかった。

そして、同判決はさらに続けて、次のように認定・評価をしています。

<客の内心(要素の錯誤)について>
・客は、1人当たり1時間4000円で足りるとして勧誘を受けたために本件飲食店に行くこととした。
・客は店主張の料金体系によって料金が算定されると知っていれば、本件飲食店において飲食及びサービスの提供を受けるという意思表示をしなかったと認められる。

そして、同判決は、以上のように述べた上で「本件飲食店における飲食契約は、錯誤に基づくものとして、無効となる」と結論付けています。ぼったくりの請求を錯誤主張により拒みうることを示した裁判例と言えます。

なお、上記判決が、ぼったくり契約を錯誤により「無効」としているのは、単にこの事案が平成29年改正民法施行前の事案だからであり、改正民法施行後は、これを「取消」に置き換えて考えることが可能です。

関連記事:錯誤取消とは~民法95条~:錯誤無効ではなくなったよ!
民法が規定する錯誤について解説した記事です。錯誤って何?という方はぜひご参照ください。

ぼったくりは公序良俗に反し無効である

また、ぼったくりとの間の契約は公序良俗に反し、無効であるとも主張しえます。

ぼったくりと公序良俗違反について

公序良俗というのは、公の秩序、善良な風俗のことを指し、もっと平たく言えば、社会に生活する我々が守るべき一般的なルールということができます。

そして、このルールに著しく逸脱した契約は、公序良俗に反するものとして民法90条により無効となります。

ぼったくりも、あまりに暴利をむさぼる行為として公序良俗に反するというべきです。要は、「それはあまりに酷いでしょ」っていう主張が法律上、通り得るということです。

なお、ぼったくりという言葉は、「暴利」という言葉がくずれてできた用語である、との説もあります。

東京地方裁判所の裁判例

ぼったくりが公序良俗違反になるか、という点に関し参考になるのが、東京地方裁判所の平成27年12月11日判決です。

同判決の事案は、客引きから一人4000円との説明を受けた客二人が飲食店に入店し、1時間ないし数時間にわたり女性従業員と飲酒・歓談したというケースで、店から合計26万7000円(内訳は次の通り)が請求されたという事案です。

【請求金額の内訳】
<ドリンク・テーブルチャージ料>
・セット料金2万円[1万円×2名]
・テーブルチャージ料14万円[7万円×2名]
・女性用ドリンク9000円

<その他チャージ料>
上記金額の合計額×(110%[ボーイチャージ料]×110%[ホステスチャージ料]×110%[ボトルチャージ料]×110%[リザベーションチャージ料]×108%[消費税]))

なお、この飲食店は、特段、高級店として営業をしている店ではありません。この事案において、裁判所は次のような事情を認定・評価しています。

<評価要素>
・本件契約に基づく飲食代金は一般的な料金水準を大幅に上回る水準である
・本件契約が客の料金水準に関する誤解の下で成立しているところ、店の従業員は客の誤解を殊更に放置していた
・店の請求額が妥当であることをうかがわせる事情が見当たらず、かえって、ボトルチャージ料やリザベーションチャージ料等といった根拠の不明確な加算が行われている

そして、裁判所は、上記のような事情の下で、次のように結論付けました。ケース毎の判断になりますが公序良俗の主張が成り立ちうることを示唆する判決です。

<結論>
上記の事情などを総合考慮すれば、本件契約は、店の暴利行為によるものとして公序良俗に反するといわざるを得ない。

ぼったくりバーに対して公序良俗構成をとるメリット

個人的には、公序良俗構成の主張が通るのであれば、その主張がもっとも客に有利ではないかと思います。

契約不成立ないし錯誤の主張だと、飲み食いした飲食品自体の利益返還の問題が残り得る一方で(不当利得構成による店側の請求が一応考えうる)、公序良俗構成であれば、その利益についても、不法原因給付として処理しうるからです。

まぁ、実際上は、厳密に考えなくても、店が不当利得請求などすることまでは考えにくいので、実益は小さいかもしれませんが、法律構成の良し悪しとしては、公序良俗の主張が望ましいのではないかと思います。

関連記事:公序良俗とは?その違反について~民法90条~民法が定める公序良俗につき解説した記事です。公序良俗という言葉にピンとこない、上記不法原因給付について知りたいという方はぜひご参照ください。

ぼったくり被害にあったら
健全な消費社会を築くために、ぼったくり撲滅に積極的に取り組んでいる自治体は少なくありません。

ぼったくり被害にあったら、警察に連絡の上、弁護士などの法律専門家に相談するのも一つの手です。

上記では触れましせんでしたが、ぼったくりについては、地域の条例違反や強要・恐喝罪などの犯罪も成立しえます。また、民事的請求においても取り返せる可能性があることは上記の通りです。

ぼったくりの被害にあったら、ぜひ、第三者に相談するようにしてください。