別れさせ屋の違法な手口とは?実話を踏まえて説明します。

今回のテーマは別れさせ屋についてです。

近時、別れさせ屋に工作を依頼する契約が違法であり無効ではないか、が争われた裁判があり、興味深い内容となっていますので、紹介します。

民法90条が定める公序良俗に関する事案の一つです。

別れさせ屋とは

別れさせ屋とは、婚姻ないし交際関係にある男女につき、依頼人の委託を受けて、その関係を破綻させる業務を行う業者を指します。

交際関係にある当人が依頼主となることもあれば、第三者が依頼主となることもあります。

別れたいと思っている本人ないし別れさせたいと思っている第三者どちらもクライアントになりうるわけです。

別れさせ屋の手口

別れさせ屋の手口は、種々あるようですが、主要な方法は、対象者に工作員を接触させて、恋愛感情などを持たせる、といったものです。

交際している当人が依頼主の場合は、ほかの異性(工作員)に恋愛感情を抱かせて、依頼主と「別れたい」「別れなければ」という意思を抱かせるなどがこれに該当します。

また、第三者が依頼主の場合、上記のような方法に加え、交際関係にある当事者の一方があたかも不倫・二股をかけているかのように工作員が装うなどして、他方当事者に分かれたいとの気持ちを抱かせる、などの手口があります。

たとえば、Aさんが、「BさんとCさんを別れさせる」と別れさせ屋に依頼した場合、工作員であるDが、Cさんとデートなどを重ね、タイミングを見計らって、D(工作員)がBに、Cとの関係を暴露するなどがその手口となります。

別れさせ屋は公序良俗に反するか

このような別れさせ屋との間の工作契約は違法・無効ではないか、が争われたのが、平成30年8月29日大阪地方裁判所判決のケースです。

この判決の例では、その公序良俗違反の有無が争点となりました。

公序良俗違反というのは、その行為が社会的相当性を著しく欠くために法律上、無効との評価をうける場合を言います(民法90条)。

わかれさせ工作を依頼する契約が、社会的にみて著しく相当性を欠くため、違法・無効ではないか、が上記判決で争われたのです。

民法90条(改正後)
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする
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判決に現れた実話のケース

この判決の事案は、第三者が、交際している男女を別れさせようとしていた事案です。

以下、依頼者をAさん、交際している男女の内、女性をBさん、男性をCさんとして事案を紹介します。また、別れさせ屋の工作員をDと表記します。いずれも未婚です。

ちなみに実話をもとにしたものですので、費用や期間などについても参考になります。

<事案>
Aは、別れさせ屋との間で次の内容の契約をした。

ア 契約内容 別れさせ工作。具体的には、BさんとCさんとの交際を終了させることに関し、別れさせ屋がAさんに協力すること
イ 契約期間 3か月間
ウ 着手金 80万円(ただし、着手金の趣旨については、争いあり。)
エ 成功報酬 40万円

Aさんから委託を受けた別れさせ屋の女性工作員Dは、ある日、Aさんから教えられた交際男性Cさんの情報を元に、Cさんを待ち構えて、道を聞くふりをして接触した。

そうしたところ、交際男性Cさんから女性工作員Dを食事に誘ってきたので、女性工作員DはCさんと連絡先を交換し、食事を共にした。

その後、女性工作員Dさんは、Cさんとの連絡・接触を重ねた。

Aさんと工作員Dは、時期を見計らい、Dが交際男性Cとなんどか食事に行っていることなどを交際女性Bに暴露することとした。

具体的には、交際男性Cと交際女性Bがいる電車内に工作員Dなどが乗り込んで声を掛け、その後、降車駅近くの喫茶店で話をし、暴露を実行するというものであった。

その後、二股をかけられたと考えたBさんは、Cさんとの交際を辞めた。

なお、上記暴露の過程において、工作員Dは、入手した交際男性Cの部屋の間取りなどをBに告げた可能性があるようですが、原審(簡易裁判所)及び上記地裁判決裁判全体を通じて、工作員DとCさんとの間においては、肉体関係はなかったと認定されています。

別れさせ工作に関する判決の内容

大阪地裁は、上記のケースにおいて、別れさせ工作に対する公序良俗違反該当性につき、次のような規範を示しています。

<規範部分>
別れさせ工作のすべてが公序良俗に反するとは言えないが、契約の目的、依頼者、対象者等の関係者の配偶者の有無等の状況、工作の内容、方法等が著しく社会的相当性を欠き、当事者の意思決定の自由を奪ったり、歪めるようなときは公序良俗に反する場合がある

ただ、具体的なあてはめにおいては公序良俗違反を否定しました。

<あてはめ部分>
本件契約についてみると、関係者は全員独身であり、別れさせ工作の内容は、指定女性に対し、対象者が女性工作員と交際していることを暴露して指定女性が対象者と別れることを決心するように仕向けるというものである。女性工作員が工作のため対象者と肉体関係を持ったことを裏付けるものはない。肉体関係があった旨告げたとする点は、被告が入手したマンションの間取りを告げるなどしてそのように思わせた可能性があり、他にこれを裏付けるものは見当たらない。

対象者の二股行為によって愛想をつかして交際を終了させるか否か、対象者の説明、説得により継続するか否かは指定女性の意思によることになる。

そうすると、本件契約が、道徳的に問題があるにしても、意思決定の自由が歪められ、それが看過できないほど社会的相当性を逸脱し、公序良俗に反するとまではいえないというべきである。

判決に対する私の意見・評価

以下、上記判決に対する私見を述べます。ポイントとなるのは、この判決が、関係者が全員独身である、肉体関係はなかった、などの事情をあてはめで述べている点です。

離婚と別れさせ工作

上記判決は、あくまで、婚姻関係にない男女を別れさせることを工作の内容としたものです。

あえてあてはめ部分で関係者が全員独身であることに言及されていることからすれば、関係にある当事者を離婚させる別れさせ工作は、射程外と解するべきでしょう。

婚姻関係自体、当然、法的保護に値する利益ですから、単なる男女間の交際関係とは、一線を画して考える必要があると思われます。

参考:離婚:ひびき法律事務所

私見では、婚姻関係を破綻させることを内容とする別れさせ工作は、やはり公序良俗に違反すると評価するのが妥当と考えています。肉体関係があったかなかったかを問わずです。

肉体関係の有無の評価

また、本件は、現実に肉体関係があったか否かを考慮要素としています。

これは、裏をかえせば、肉体関係をもつ、あるいはこれに近い関係をもつことを内容とする別れさせ工作は、公序良俗に違反する可能性がある、または高いともいえるように思われます。

そして、裁判所がこのような考えのもと、肉体関係を考慮要素にいれているのであれば、私も、その評価自体は是と考えます。

もちろん、契約行為(依頼行為)が、その時点で公序良俗違反であったかを判断するのであれば、実際の工作内容を考慮要素に取り込む際、その事実の位置づけは慎重に検討しなければなりません。

しかし、肉体関係を持つことを工作に取り込むのは、性を商品・サービスの一部とすることとなります。

そうだとすれば、やはり、社会的相当性を欠き、公序良俗に反すると考えるべきでしょう。