今回は、日常用語としても、法律用語としても、しばしば出てくる「錯誤」という言葉について。読み方は「さくご」。
本ブログは、ビジネス、私生活における法律問題を解説するサイトですから、テーマの中心になるのは、民法という法律に規定された「錯誤」についてです。
ただ、民法については、内容が盛りだくさんですから、次のページで解説することとし、今回の記事では、この言葉・用語のイメージを理解するために、用語法全般について見ていきます。
そこで以下では、日常用語としての意味、刑法上の意味、そして最後に民法上の意味について、それぞれ簡単に解説します。
なお、民法における用語の意味については、別記事(本記事最後のほうにリンクを張ってます)で詳細に説明していますので、そちらよりご参照ください。
日常用語としての意味
「勘違い」というニュアンスが強く、自分の認識と実際との違いがある場合に、「錯誤」という言葉が使われています。
上記のとおり、錯誤は、間違えた、という意味合いで使われます。そこには、間違えた当時、間違えたことを認識していない、というニュアンスが含まれます。
四字熟語として、時代錯誤、試行錯誤、あるいは思考錯誤といった熟語がありますのでイメージしやすいかもしれません。
類語としては、「誤認」や「誤認識」などの言葉を挙げることができます。
刑法上の意味
犯罪事実または法律について、認識を違えたことが刑法上の意味における錯誤です
具体的事実の錯誤
たとえば、刑法上、窃盗罪などが成立するためには、故意が必要です。また、傷害罪などについても、故意が必要です。
この故意というのは、犯罪となる事実を認識して、その結果を受け入れることを指します。Aさんに対する傷害罪であれば、Aさんに傷害行為を加えることが故意の内容です。
では、Aさんに対する傷害行為を加えようと思って、勘違いでBさんに傷害行為を加えてしまった場合、Aさんに傷害罪の故意があるといえるでしょうか。
これが刑法上、具体的事実の錯誤という論点として登場します。
通説的な結論をいえば、AさんとBさんを勘違いしていたとしても、結局は、「人間」に対して、傷害行為を加える認識と認容(結果を受け入れ)があるので、傷害罪の故意は肯定されます。
抽象的事実の錯誤
では、Aさんと思って傷害行為を加えたところ、誤ってマネキンを叩いて壊してしまった、という場合、器物損壊罪の故意が成立するでしょうか。
これも刑法上の故意に関する問題の一つです。特に、抽象的事実の錯誤という論点において扱われます。
ここでは詳細は避けますが、通説的な結論を言えば、器物損壊罪の故意は否定されます。加害者には、マネキンという物を壊す、認識までもっているとはいえないからです。
法律の錯誤
さらには、自らの行為が罰せられる犯罪行為であるとは思っていなかった、というのも一つの、刑法上の論点として登場します。
やはり詳細は避けますが、結論だけ述べておくと、この場合においては、故意は否定されません。
それはそうですよね、この行為が犯罪であるとは知らなかったと言えば「故意無し」となるのは常識にも反します。
民法上の意味について
内心と表示の不一致を指します。錯誤がある場合、意思表示当該意思表示は取消の対象となります。
民法上の錯誤の意味
おおざっぱに言えば、自分の内心と表示の不一致を言います。
たとえば、「100万円で買う」と言おうと思ったところ、「200万円で買う」、と口から出てしまった場合が典型例です。
内心では100万円と思っていたのに、200万円と言ってしまった、内心と表示とが違いますよね、これが民法における錯誤です。
効果
民法上の錯誤が有る場合、当該意思表示は法律上、取消の対象(民法改正前は無効)となります。
改正前民法においては、上記例でいう「200万円で買う」という発言は法律上取り消しの対象となり、取り消された場合、効力を持ちません。実際に200万円で買うと言ってしまったとしても、200万円を払う必要はない、ということになります。
なお、この例は、あくまで机上の例ですし、民法においては、定義や要件、効果の他、共通錯誤や第三者の保護を巡って、多々重要なポイント、論点があります。
そこで、民法における錯誤については、上記に案内した通り、次のページにおいて説明します。
まとめ
上記の通り、「錯誤」という言葉は日常用語としても使用されますし、刑法でも出てくる言葉です。また、民法でも登場します。
ニュアンスとしては、共通部分がありますが、それぞれ言葉の意味づけ・定義づけは異なりますのでご注意ください。