契約書や法令などにおいて、「期間」が指定されることは少なくありません。
たとえば、請負契約等において、請負人が瑕疵担保(契約不適合)責任を負う期間につき、「引き渡しの日から1年間」とするとの定めがある場合。
また、法令においても期間が指定されることは多々あります。
相続放棄等に関する規定を見てみましょう。
民法915条1項では、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、単純承認、限定承認、または相続放棄をしなければならない」と規定しています。
このような「期間」につき、初日を含むのか、含まないのか、この点を定めているのが民法140条です。
初日不算入ルール 民法140条本文
まず、法律が定めるルールを読んでみましょう。民法140条です。初日不算入を明言しています。
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
初日不算入のルールに照らせば、「~から7日」というとき、原則として初日は含みません。
ただ、期間の最初が午前0時00分00秒から始まるときは、例外的に初日を参入します(140条但書き)。
初日不算入の具体例
抽象的には上記で説明した通りですが、たとえば6月11日~と定めた場合について、もう少し具体的に見ていきます。
以下、たとえば6月11日から日数を定めた場合、月数を定めた場合、年数を定めた場合の3つのケースにつき確認していきます。
①日数を定めた場合
たとえば、6月11日から3日という場合、6月12日が起算日、6月14日が満了日になります。
民法140条本文が働く場合、6月11日に今日から3日という場合、初日である6月11日は算入しません。
12日からカウントをスタートします。
12から3つ数えるとすると、12、13、14ですので、同14日が期間計算上の満了日となります。
②月数を定めた場合
たとえば、6月11日に「今日から1か月」という場合、7月11日が満了日となります。
民法140条本文に基づき初日を参入しないとすれば、6月11日に今日から1か月という月数を定めた場合、期間計算上の初日は6月12日となります。
また、月数で期間を定めた場合、暦(こよみ)に従って1か月を算定し、起算日に応当する日の前日が満了日となります(民法143条1項2項。)。
そして、6月12日からまるっと1か月たつと7月11日。これが上記期間計算における満了日です。
③年数を定めた場合
年数を定めた場合も考え方は同じになります。初日を参入しません。
また1年は暦に従って算定します。
6月11日に「今日から1年」という場合の満了日は、翌年の6月11日となります。
それでも期間計算の方法を忘れてしまうあなたへ 一番簡単な思考法
上記計算例は理解できるが、時間がたつと計算方法が分からなくなってしまうあなたへ、より端的な説明をしようと思います。
月、年で期間を定めた場合
まず、一月とか1年とか、月、年で期間を定めた場合、難しいこと考えずに、翌月、翌年の同じ日が満了日になると覚えます。
具体例とともに見てみましょう。
たとえば6月11日に「今日から1か月」又は「1年」という場合、「翌月・翌年の同じ日が満了日になる」ので、それぞれの満了日は次の通りとなります。
・6月11日から1か月⇒7月11日(満了日)
・6月11日から1年⇒翌年の6月11日(満了日)
初日不算入であれば、これでまるっと「一月」、または「一年」はカウントされています。
ただ、ここで一点だけ追加補足させてください。
たとえば、1月31日から1か月という場合、この方法だと2月31日が満了日になりますね。でも、現実には2月31日はありません。
こうした場合には、その月の末日を期間満了日とします。先の例では、通常の年であれば2月28日が満了日となり、うるう年であれば2月29日が満了日となります。
日にちで期間を定めた場合
日数で期間を定めた場合普通に足し算で期間計算が可能
日にちで期間を定めた場合については足し算で期間計算をするのが簡便です。
たとえば、6月11日に、「今日から3日」というように日にちで期間を定めた場合、満了日は足し算で計算します。
ここでは11+3で14と計算します。したがって、6月14日が満了日。
月をまたぐ場合の計算方法
では、6月11日に「今日から25日」という場合はどうでしょうか。
これについてもまず足し算をします。11+25は36。
ここから、月の末日の数字を引く。6月でいえば6月30日が末日。なので、36から30を引く。そうすると答えは6。
したがって、7月6日で期間満了。これで、期間計算はばっちりです。
なお、週で定めた場合には、当然1週を7日としてカウントします。6月11日から1週間という場合、6月18日で満了です。
期間満了日が日・祝日の場合
それは、「満了日が日曜日や祝日だった場合、その日に特に取引をする慣習がない限り、その休日等の翌日が満了日になる」ということ。一応注意が必要です。
上記の計算ができるようになったら、つぎに、満了日のルールを覚えます。
そのルールというのは、満了日が日曜日や祝日だった場合、その日に特に取引をする慣習がない限り、その休日等の翌日が満了日になるということ(民法143条。)。
たとえば、2019年6月11日は火曜日です。同日から5日という場合、6月16日で計算上は期間満了となる。
ただ、2019年6月16日は日曜日です。そのため、民法143条に従い、最終的な期間満了日は翌6月17日になります。
民法が定める満了日のルールについては次の記事でまとめました。ぜひご参照ください。
初日不算入のルールは他の法律にも妥当しえる。
民事訴訟法における期間計算や行政事件訴訟法における期間計算がその例です
民法140条は、法律の通則的な地位を占めています。
その意味は、特に規定がない限り、他の法律分野においても妥当するということです。
これまで、民法を前提に説明しましたが、この初日不算入のルールは、畑の違う民事訴訟法や刑事訴訟法などでも妥当します。
以下例として、民事訴訟法と行政事件訴訟法を見ておきます。
民事訴訟法
民事訴訟法は、明文をもって、期間計算につき、民法の期間に関する規定に従うと定めています。
期間の計算については、民法の期間に関する規定に従う。
上記民訴法95条1項の意味は、民事裁判においても、期間計算についてはは民法の考え方を採用する、という意味です。
したがって、特別な規定がない限り、初日不算入ルールが民訴においても妥当します。
行政法(行政事件訴訟法)
また上記期間計算のルールは行政訴訟にも妥当します。行政事件訴訟法7条を見てください。
行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。
行政事件訴訟法という法律は、行政上の問題に関する訴訟手続を規律する法律です。この法律は、行訴法に定めのない事項につき、民訴法の例によると定めています。
そして、期間計算について、特に行訴法に定めはありません。そのため、期間計算については民事訴訟法の例によって処理されます。
上記のとおり、民訴法は「「期間の計算については民法の期間に関する規定に従う」としていますので、結局、行政事件訴訟においても民訴法95条を介して、やはり初日不算入のルールが妥当することになります。
注意!例外的に初日が参入される場合
原則には例外もありますので注意してください。
・例外その① 民法140条但書が適用される場合
・例外その② 法律や契約で、「起算」などの用語で特に初日を含むとされている場合
民法140条但書き(例外その①)
もう一度、民法140条を見てみましょう。今度は但書きに注目してください。
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
この140条但書きにあるように、算定される期間が午前0時から始まるときは、初日が算入されます。
たとえば、5月付の契約書などで、「6月1日から1年間」などと定めてある場合、その契約の趣旨は6月1日のゼロ時から1年間を意味するのが通常です。
したがって、この場合の満了日は翌年の5月末日となります。
法律や契約で特に初日を含むとされている場合(例外その②)
法律や契約で特に初日も含むとされている場合も初日が参入されます。初日不算入のルールが妥当しません。
起算という用語に注意
特に、法律や契約に「起算」という言葉がある場合は要注意です。
「〇〇の日から起算して」などの表現が用いられている場合、期間計算の初日に「〇〇の日」を含みます。
たとえば、「契約の日から起算して7日」などと契約で定めている場合、契約の日は期間計算の初日に参入するのが通例です。
そのほかにも、契約書では、「請求のあった日から起算して」、「引き渡しのあった日から起算して」などの表現がしばしば用いられます。
起算日が気になる場合には、注意して見てみてください。
「起算」が使用される具体例
初日不算入の例外を定めた法律も意外とあります。
ここでは「起算」という用語が使用される例として年齢計算に関する法律における年齢計算の起算点、特定商取引法の訪問販売における起算点に関する法律の規定をあげておきます。
「年齢は出生の日より之を起算す」
※年齢の計算に際して、生まれた日を初日に含むことが「起算す」との用語で明示されています。
「書面を受領した日から起算して八日を経過した場合・・・」
※ここでは、いわゆるクーリングオフの起算点につき、特定の書面を受領した日を初日に含むことが、「起算」の用語を用いて明示されています。
起算日について
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