今回のテーマは、停止条件と解除条件についてです。
「停止条件」については名前から得られるイメージとその内容が異なるため覚えにくい概念ですが、一度理解してしまえば使いこなせるようになります。
以下、「停止」、「解除」の順に見ていきます。
停止条件とは
ある契約につき合意されていた停止条件が成就すると、当該契約につき、法律上の効果が発生します。
停止していた法律効果が進行を開始することから「停止」条件と呼んでいます。
条件といえるためには
そもそも、法律上の「条件」とは、将来発生するか不確定の事実をいいます。
今後、起きるか否か分からない、といえることが必要です。将来絶対に発生する事実ではダメです。
たとえば、「このペットが亡くなったら、新しいペットを飼ってあげる」というときの、「このペットが亡くなったら」というのは、停止条件ではありません。
ペットが亡くなることはいつか絶対に発生する事実だからです。これは、将来いずれ到来する「期限」と評価されます。
なぜ「停止」というのか。覚え方は?
上記の通り、停止条件というのは、それが成就すれば法律上の効果が発生する、というものです。
しかし、日本語として、「停止」というと、法律上の効果が一旦中止するかのようなイメージを抱きがちです。意味としては正反対ですよね。
では、法律上の効果を発生させるのに、なぜ、「停止」というのでしょうか。
それは、その「条件」が法律上の効果の発生を「停止」させているからです。視点が違うんですね。
「ある不確定の事実が発生したら」というのを見方を変えてみてみましょう。
これは裏から見れば、その条件が付いていることで、法律効果の発生が一旦ストップしている状態になっている、と見ることができます。だから「停止」といっています。
車の停止線みたいなもの
あまりいい例えではないのかもしれませんが、自動車の道路にある一時停止線にたとえてみます。
あれは、そのまま進んではだめだけと、一旦「停止」という手順を踏み、道路交通法が要求する事項が満たされたなら、その後は進んでもよい、という規制です。
停止条件もこれと同じで、その内容が成就すれば、法律上の効果が発生します。契約の効果等を前に進めてよい。
「停止」という概念が覚えにくい場合には、自動車の一旦停止を思い浮かべてください。一旦停止が満たされれば、そのあとで車は前に進めます。
これと同じで、停止条件が満たされたら、法律上の効果が前に進むわけです。
停止条件の具体例
日常生活やビジネスにおいて、停止条件は契約等の法律行為にしばしば付款(ふかん)されます。
契約などには条件が付されることが多いという意味です。
贈与契約や売買契約に停止条件を付款場合などがその例です。また、停止条件が付されていると解される法律上の規定もあります。
停止条件付贈与契約
たとえば、教科書的な例ではありますが、大学受験で、第一志望校に合格したら、祝い金をあげる、と親と子どもが合意をするのは、停止条件付の贈与契約です。
大学受験での第一志望合格を条件に贈与の効果が発生します。
大学受験合格で、贈与契約が前に進むわけです。
停止条件付不動産売買契約
ビジネスにおいてよくあるのは、停止条件付の売買です。特に不動産に関する売買契約に付されることがままあります。
たとえば、銀行ローンが希望通り組めることを条件とした不動産売買は、停止条件付の売買契約です。
この場合、購入者が銀行ローンを組めたことを条件に売買契約の効果が発生します。売買というビジネスが、ローンを組めたことを前提に、次の段階に進むわけです。
胎児の権利能力について
また、契約以外の場面に、法律が直接、法律効果の発生等につき、停止条件を付していることもあります。
その例の一つが胎児の権利能力です。
民法は、第886条第1項において①「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」と定める一方で、第2項において、胎児が生きて生まれなかった場合には、適用しない旨を規定しています。
この規定は、胎児が生きて生まれたことを条件に、胎児に相続人たる地位を生じさせる規定と解釈されており、法律上の効果の発生に停止条件が付された例といえます。
※ ちなみに胎児の権利能力については、解除条件説にたつ考え方も有力です。
解除条件とは
停止条件の他に、民法が定める条件のもう一つが「解除条件」です。
解除条件というのは、その内容が成就したら、法律上の効果が「消滅」する条件をいいます。
解除条件も贈与契約や売買契約などにしばしば付款されます
「解除」は法律効果を打ち消す
解除条件を理解する上での重要なポイントは、「すでに発生している法律上の効果を否定するものだ」という点です。
停止条件が日本語として覚えにくいのに対して、解除条件は比較的スムーズに理解可能だと思います。
民法上、「解除」は、法的効果を打ち消す意味で用いられる用語だからです。
解除条件の具体例
解除条件も日常生活やビジネスにおいてしばしば使用されます。
解除条件付贈与契約
たとえば解除条件付きの贈与があります。
またしても教科書的な事例ですが、たとえば、「祝い金を先にやろう。ただし、第一志望合格できなかったら、この話はなかったことにする。そんときは返してな」という契約を親子間で行ったとします。
この契約においては、この契約の時点で、祝い金を払ってあげるという贈与契約が成立しています。
ただ、子どもが第一志望の大学に合格できないと、贈与契約がなかったことになります。
贈与契約の効果が否定(解除)されるわけです。子供は受け取った祝い金を返さなければなりません。
解除条件付売買契約
解除条件付の売買契約も考えられます。
たとえば、売買契約は成立させるが、ローンが降りなかったら、売買契約は無かったことにする、という契約がその例です。
ここでは、既に契約が成立しており、ただ、ローンが組めなかった場合に、契約の効力が消滅する、という契約が成立したことになり、ローンを組めなかったことが、解除条件となっています。
まとめ
上記の通り、停止条件は、その成就により法律効果を発生させ、解除条件は、その成就により、法律の効果を消滅させるものです。
・停止条件⇒条件成就により効力発生
・解除条件⇒条件成就により効力消滅
経済的側面と法的な側面との違いを意識しよう
ここまでの説明だけでは、もしかしたら違和感があるかもしれません。
上記のような大学の入学金の例では、結局、停止も解除も同じなのではないか、との点に違和感が生じ得ます。
そこで、この点に関し、もう一歩進んで説明しておきます。
ほとんど同じ目的を達成し得ることがある
教科書などで学ぶ場合、この点の不鮮明さが「条件」に関する理解を難しくさせる場合があります。
停止条件の説明に関して、「第一志望に受かったら、祝い金をやる」という契約は停止条件付の契約である、と述べました。
他方、上記のとおり、解除条件を使えば、「祝い金をやるよ、但し、第一志望に落ちたら、その話は無かったことにする、その場合は返してな」という形の契約をすることも可能です。
これらの例では、いずれにしても大学に入学できれば、子供は父親から祝い金を確定的にもらえます。反対に受験で落ちてしまえば祝い金をもらえない(あるいは返さなければならない)ことが確定します。
このことからも明らかなとおり、ケースによっては、停止条件・解除条件いずれを使っても、同等の経済的目的を実現することが可能な場合があります。
契約の効力発生日が異なる
ただし、厳密に見れば、上記例でも契約の効力発生日は異なることになります。
停止条件の場合、大学受験合格時に祝い金にかかる贈与契約の効果が発生しています。
これに対して、解除条件の場合、最初の契約時に既に贈与契約の効果が発生していいます(条件成就の場合、それが後で解除になる。)。
経済的な目的は同じく達成できても、契約の効力の発生日につき、どちらを使うかで、違いが生じるわけです。
ビジネスの場合
上記は親子間の贈与契約の例ですが、その他ビジネスにおける例を見ても、両者のいずれを使うかで違いが生じます。
たとえば、停止条件付売買契約の場合、売買の効力発生日(≒所有権の移転日)は条件成就の時となりますが、解除条件付売買契約の場合、契約の効力発生日(≒所有権の移転日)は解除条件付売買の日ということになります。
売買契約という同じ契約についてみても、どちらを使うかで、売買契約の効力発生日が異なるわけです。
そして、契約の効力発生日は、種々の法律や税務の基準日となりえます。
そのため、契約の効力発生日がいつになるかは、当該法律関係に第三者が登場した場合の処理の考え方や課税の有り方にも影響を及ぼし得ます。
契約に際して、一見して、停止条件・解除条件、どちらを使っても大丈夫と考えられても、契約の効力の発生日が異なることに起因して、会計その他の問題を巡り、種々の相違点が生じうるといえます。