地役権とは?民法280条~294条まで

今回のテーマは地役権についてです。

用益物権の中では、現代社会においても使用されることの多い権利の一つです。

以下、定義や具体例、条文の規定などにつき見ていきます。

地役権とは

地役権とは、ある土地の便益のために、契約で定めた目的に従い、他人の土地を利用できる物権です(民法第280条)。

地役権は、たとえば、ある土地への通行のため、送電線設置のため・用水のためなどに設定されます。また、この地役権を有する者のことを地役権者とよびます。

<イメージ図(通行地役権)>

この地役権については、民法典において、物権の第6章として第280条から294条まで全14条の規定が置かれています。先に280条だけ見ておきましょう。

第280条
地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。

具体例

地役権の具体例としては次のような内容のものが挙げられます。

通行地役権

ある土地のために、他の土地に通路を設置する権利です。

A地にたどり着くのに、B地を迂回すると30分かかるのに、B地にある道を通ると5分で行けるといった場合、A地のためにB地の通路を通れる権利を設定するのがA地の便益に資します。

こうした通行のための地役権のことを通行地役権といいます。

送電線設置のための地役権

また、送電線設置のための地役権というのもあります。

A地に電気を送る送電線を設置するのに、B地上を迂回すると、電線の長さが5㎞分必要になるのに、B地上を通れば1㎞の長さで足りる、といった場合、A地のために、B地上に送電線を通してよい、とする権利を設定するのがA地の便益に資します。

このように、地役権は送電線設置のために設定されることもあります。

引水地役権

また、引水(用水)地役権というのもあります。これは、ある土地に用水するために、他人の土地を利用する権利です。

A地に水源から水を引くに際して、B地上を通らないといけないといった場合に、B地上に用水路を設置するなどがその例です。

B地の用水路がA地の便益を向上させることになります。

なお、引水(用水)地役権については、水の需給調整に関し、民法285条が特別の定めを置いています。ご関心があればご一読ください。

民法285条
1 用水地役権の承役地(地役権者以外の者の土地であって、要役地の便益に供されるものをいう。以下同じ。)において、水が要役地及び承役地の需要に比して不足するときは、その各土地の需要に応じて、まずこれを生活用に供し、その残余を他の用途に供するものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
2 同一の承役地について数個の用水地役権を設定したときは、後の地役権者は、前の地役権者の水の使用を妨げてはならない。

法律上の基礎知識

さて、ここからは法律上の基本知識の解説です。

まず、地役権を理解するには、要役地・承役地という法律用語を理解するのが先決です。以下、要役地・承役地の順にみていきます。

<要役地と承役地イメージ図>

用益地とは

用益地とは、地役権者の土地であって、他人の土地から便益を受けるものをいいます。

たとえば、Aの土地のためにB地に通行地役権に基づく通路を設置するという場合、A地は、B地から通行の利益を得られる要役地に該当します。

承役地とは

承役地とは、地役権者の土地に対して、便益を供する土地を指します。

上記例でいえば、B地がA地に対して便益を供する承役地になります。

負担(役務)を「承る」という意味で、承役地という名称が付されています。

対価について

A土地のためにB地に通路を作る地役権が設定するに際して、それを無償とするか、有償とするかは、地役権設定の合意の内容として自由に決めることができます。

ただし、これを登記することはできません。

補足
地役権に対価を定めた場合に、承役地の譲受人が要役地所有者にその対価を請求できるか、については争いがあります。判例は、これに否定的ですが(大判昭和12年3月10日)、学説の多くは、請求可能と解しています。

二つの特別な性質

地役権には、付従性と不可分性という二つの特別な性質があります。

付従性

まず付従性についてです。次の図をご覧ください。

<付従性に関する説明図>

左側の図は、土地の所有権の移転がすると、地役権もともに移転する、という性質を表すものです。

法律の建前論を言えば、通常、Aという権利とBという権利がある場合、Aの権利を移転したからといって、Bの権利は変動しません。両者は別々の権利と把握されるからです。

しかし、地役権は、要役地という「土地」の便益のために設定される権利です。その土地所有権と密接にかかわりあっています。そのため、地役権は、土地の所有権に付従します。たとえば、要役地の所有権が移転されれば、併せて地役権も移転することになります。

たとえば、山田さんが所有するA地が要役地となっている場合において、山田さんがA地を田中さんに譲渡して所有権を移転した場合には、田中さんが地役権者となるのが原則となります(民法281条1項参照)。

また、上記図の内、右側の図は、地役権を独立して処分できないことを表す図です。

民法281条2項によれば、地役権は、要役地と切り離して処分したりすることはできません。たとえば、A地のための通行地役権を設定した場合に、この通行地役権だけをA地所有権と切り離して処分することはできないことになります。

民法281条
1 地役権は、要役地(地役権者の土地であって、他人の土地から便益を受けるものをいう。以下同じ。)の所有権に従たるものとして、その所有権とともに移転し、又は要役地について存する他の権利の目的となるものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
2 地役権は、要役地から分離して譲り渡し、又は他の権利の目的とすることができない。

不可分性

要役地又は承役地が共有されている場合において、共有者の共有持分ごとに地役権の有無や負担・内容が異なると考えるのは不都合です。

そこで、民法は、共有地にかかる地役権につき、可能な限り合一(不可分)の内容と取り扱うべく、諸々の規定を置いています。その典型的な規定が第282条です(その他、後述の284条、292条参照)。

民法282条
1 土地の共有者の一人は、その持分につき、その土地のために又はその土地について存する地役権を消滅させることができない。
2 土地の分割又はその一部の譲渡の場合には、地役権は、その各部のために又はその各部について存する。ただし、地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは、この限りでない。
民法282条1項について

まず、同1項についてですが、要役地の共有者は、自己の持分について、地役権を消滅させることはできません。承役地が共有であるときも同様です。

<民法282条1項についての説明図>

民法282条2項について

また、同2項も不可分性について定めたものと理解されます。下に図示する通り、要役地又は承役地が分割や一部譲渡された場合、原則として、地役権は、分割等された各部分に従来どおり存続します。

<民法282条2項についての説明図>

ただ、同2項は、「地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは」その限りでないと定めています。この場合には、地役権は当該土地の一部との関係でのみ存続し、その他の土地との関係では存続しません。

なお、「地役権がその性質により土地の一部のみに関するとき」というのは、たとえば、承役地の一部のみに通行地役権の目的となる通路が存在した、というような場合です。

承役地上の工作物の利用について

また、承役地上の所有物については、民法286条及び民法288条に特別の規定が置かれています。

いずれも、承役地上の工作物に関し、承役地所有者と要役地所有者の利益を調整するための規定です。

<民法286条~同288条イメージ図>

民法286条
設定行為又は設定後の契約により、承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を設け、又はその修繕をする義務を負担したときは、承役地の所有者の特定承継人も、その義務を負担する。

民法287条
承役地の所有者は、いつでも、地役権に必要な土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転し、これにより前条の義務を免れることができる。

民法288条
1 承役地の所有者は、地役権の行使を妨げない範囲内において、その行使のために承役地の上に設けられた工作物を使用することができる。
2 前項の場合には、承役地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。

他の用益物権との比較

ここで、地役権の性質を理解するために、地上権と囲繞地通行権とを比較してみましょう。

地上権との比較

地上権は、大雑把に言えば、他人の土地を使用する権利です。

地上権を設定して、工作物として、通路や水路を設けることも可能と解されますので、地上権を利用して、地役権類似の状況を作り出すことは可能と思われます。

もっとも、ある地上権は、ある土地の便益をはかるという目的で利用される例は比較的すくないものと思われます。

当該土地上に建物建築をするために地上権を設定したり、ソーラーパネルなどの設備を敷設したりするなどが地上権設定の典型例です。

また、地上権には、地役権と異なり、上記のような付従性・不可分性はありません。地上権自体、独立して処分の対象となりえます。

囲繞地通行権との比較

囲繞地通行権は、袋地となっている土地に通行するための権利です。

通行地役権と類似しますが、囲繞地通行権における通行の場所や方法は、その通行権を有する者のために必要な範囲内で、かつ他人に生じる損害が最小限度のものでなければなりません)。

他方で、通行地役権の内容は、当事者間の合意で定めることが可能ですから、通行の場所や方法については当事者間で自由に決められます。

権利の内容が合意で定まるのかそうでないのか、という点で両者には決定的な違いがあります。

<補足>
囲繞地通行権を巡るトラブルにおいて、袋地所有者が通行しうる囲繞地の範囲や方法を当事者間で定めたりすることがあります。こうしたケースでは、当事者間の意識としては、あくまで「囲繞地通行権」の範囲を定めたものである、という場合が少なくありません。

しかし、この場合、当事者の合意で通行の範囲を定めている以上、その権利の性質は囲繞地通行権ではなく、当事者間で新たになされた地役権設定契約上の権利である、との評価をうける可能性があります。

時効との関係

最後に地役権の時効に関する規定を見ていきます。

地役権の時効取得について

地役権も取得時効の対象となり得ます。長期にわたって地役権が行使されていた場合、当事者間の合意なくして、地役権が発生することになるわけです。

ただ、地役権は、他人の土地の占有や排他的な使用を前提とするものでないため、長期にわたって継続的に行使されているというだけでは、時効取得によって承役地たるべき側の土地所有者に不測の損害を与えることになりかねません。

そこで、地上権の時効取得については、権利の継続的行使のほか、外形上の認識可能性がその要件とされています(民法283条1項)。

民法283条
地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。
関連記事:時効取得とは
そもそも時効取得ってなんだという方はこちらの記事をご参照ください。

また、上記の通り、地役権には不可分性があります。

そこで、民法においては、土地の共有者の一人が地役権を時効取得した場合には、他の共有者もその権利を取得する、とされています(284条2項)。

これにより、要役地の共有者全員が、承役地利用による便益を得られることになります。

また、地役権の時効の更新は、地役権を行使する共有者全員にしなければその効力が発生しないとされているほか(同2項)、その一人について完成猶予事由が存しても、時効は各共有者のために進行する、とされています(同3項)。

民法284条
1 土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは、他の共有者も、これを取得する。
2  共有者に対する時効の更新は、地役権を行使する各共有者に対してしなければ、その効力を生じない。
3  地役権を行使する共有者が数人ある場合には、その一人について時効の完成猶予の事由があっても、時効は、各共有者のために進行する。

承役地の時効取得による地役権の消滅について

また、民法は、承役地の時効取得による地役権の消滅について、二つの規定を置いています。民法289条と民法290条です。

民法289条
承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、地役権は、これによって消滅する。

この289条の読み方は難しいのですが、とりあえずは、承役地が時効取得された場合、地役権も消滅するよ、と理解しておけば大丈夫です。

※上記に述べた通り、この規定の読み方は難しいです。まず、第289条が「承役地の占有者が取得時効をしたとき」ではなく、「承役地の占有夕社が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたとき」という規定ぶりになっている点に注意してください。

この点を巡っては「承役地の占有者」が時効取得した場合にのみ地役権が消滅するのか、「承役地の占有者が時効取得した」場合だけでなく、承役地の譲受人が時効取得に必要な占有を継続した場合にも地役権が消滅すると解するのか、という論点が派生します。

また、民法289条の効果を巡っても、議論があります。

そもそも第三者が承役地を時効取得した場合、時効取得は原始取得であると解するならば、地役権も消滅するのが原則である、それにもかかわらず、なぜ民法はこの規定を置いたのだろうか、との立論がなされることがあるのです。

この立論は、時効取得は、本来、原始取得ではなく、承継取得と解すべきではないか、との立場につながります。

民法290条
前条の規定による地役権の消滅時効は、地役権者がその権利を行使することによって中断する。

また、民法290条は、同289条の取得時効の成立に必要な長期占有の間に、地役権が行使されれば、地役権は消滅しない旨定めたものです。

なお、改正民法においては、時効の「中断」という概念は、時効の更新という概念に置き換えられれました。ところが、この民法290条には、「中断」という用語が維持されています。

だれか時間がある人、なぜ290条において「中断」という用語が維持されているのか、調べてみてください(たぶん、「時効取得を止めるものではないから」だと思います)。

消滅時効について

民法は、消滅時効についても、特別の規定を置いています。291条~293条です。

関連記事:消滅時効とは?起算点や援用についても知ろう
そもそも消滅時効ってなんだという方は、こちらの記事をご参照下さい。
民法291条
第百六十六条第二項に規定する消滅時効の期間は、継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し、継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。

この規定は、地役権の消滅時効の起算点について定めたものです。継続的に行使されるものかによって、消滅時効の起算点を分けています

第292条
要役地が数人の共有に属する場合において、その一人のために時効の完成猶予又は更新があるときは、その完成猶予又は更新は、他の共有者のためにも、その効力を生ずる。

この規定は、地役権の不可分性を表象する規定の一つです。この規定により、要役地の共有者誰か一人に時効の完成猶予や更新がある場合、他の共有者との関係でも消滅時効の完成が阻まれることになります。

第293条
地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効によって消滅する。

地役権の一部の消滅時効について定めた規定です。

たとえば、通行地役権において、5メートル幅の通行権を設定していたところ、長期にわたって1メートルしか使用していない、といった場合、残4メートル部分は、消滅時効の対象となります。

また、要役地所有者が昼夜を問わず承役地を通ってよい、という地役権が設定されていた場合において、長期にわたって昼のみの通行しか行われなかった場合、夜間の通行にかかる地役権は消滅時効の対象となりえます。

民法294条について

冒頭述べたとおり、民法典には第280条から第294条までの規定が置かれています。これは、物権における「地役権」の章におかれた規定です。

ただ、このうち、第294条は異質です。そのタイトルも「共有の性質を有しない入会権」となっています。

この規定は、名実ともに入会権に関する規定となりますので、この規定については、入会権に関するページで解説します。

関連記事:入会地とは?民法が定める入会権を解説
入会地や入会権について解説した規定です。最近、消滅村落が問題となっていますが、村落が消滅した場合において入会権はどうなってしまうのか、などについても検討しています。