入会地とは?民法が定める入会権を解説

今回のテーマは、民法の定める入会権についてです。

その理解の前提として、まず入会地について簡単に説明した後、権利の内容などについて見ていきます。

民法の中でも極めてニッチな分野であり、研究対象としては面白いのかもしれませんが、資格試験対策などとしては重要度は低いです。

入会地とは

入会地とは、村落共同体の団体の構成員が総有的に支配する土地のことを指します。

誤解を恐れず、より端的に言えば、村の住人みんなの山や原っぱが入会地です。

昔話などにおける「山へ柴刈りに」などというときの山などがイメージしやすいかもしれません。

入会地の利用形態としては「山分け」、「留山」が典型です。ただ、それ以外の方法でも利用され得ます。

都会に住んでいるとあまりなじみがないかもしれませんが、地方では、村落の住民が一種の共同体的な団体を構成していることがあります。

入会地というのは、その共同体が総有的に支配する土地のことです。個人、個人の土地ではなく、村落の土地として総有的に支配されています。

なお、入会地の読み方は「いりあいち」です。「にゅうかいち」ではありません。。

分かりやすく簡単に説明すると

たとえば、薪や肥料用の落ち葉などを村民が採取するために村落共同体が総有している山林や、村落共同体の住民が植物などを採取するための草刈場などがこれに該当します。

昔話などの冒頭、「おじいさんは山へ柴刈りに・・・」という表現が使用されることがありますよね。桃太郎もそうだと思います。

この表現において、おじいさんは、おそらく「山の所有者」ではありません。

おじいさんは、その地域のみんなが薪集めをする場所として利用している山に柴刈りをしにいっているのだと思われます。

このように、村落共同体などにおいて、その地域のみんなが総体として支配・利用している土地を入会地と呼びます。

入会権が設定されている土地の利用形態

入会地の利用方法としては、次のような形態があります。

①入会地を区分して、集団を構成する各個人(入会権者)に割り当てて私用させる方法(山分け)

②各入会権者の個人使用を禁止し、団体集団として当該土地を直轄利用・管理する方法(留山)

③団体・集団として、当該土地を第三者に利用せしめ、その利用の対価を得る方法

その他にも、共同体に応じて、種々の利用形態がありえるところです。

結局どのような方法で入会地を利用・管理するのかは、慣習やその団体の意思決定にゆだねられることになります。

入会地の所有者との関係

入会地の権利関係は、大きく二つに分けて考えることができます。団体として入会地が所有している場合と、団体として入会地の利用権を有している場合です。

入会地を対象とする権利形態の一つは、「村落共同体が、団体として、当該土地を総有している場合」です。

この場合、団体の構成員(住民)みんなで所有している、と観念されます。

もう一つの権利形態は、「国や地方公共団体など、第三者の所有であるものの、その土地につき、村落共同体が団体として利用権を有して利用している場合」です。

なお、国有地における村落共同体の利用権(後述の入会権)については、過去、大審院判例がその存続を否定する立場に立っていました。

しかし、最高裁は、国有地にも入会権の利用権は存続しうるとの立場をとっています。

入会権の法的性質

入会地に関する権利として、入会権というものがあります。読み方は「いりあいけん」。

入会地を団体が総有的に支配する権利です。

この権利は、大雑把に言えば、村落共同体などの団体が、慣習等に基づいて、山林原野などを総有的に支配する権利を指します。

ここで、「総有的に支配している」ということの意味は、村落共同体などの団体が、その山林原野の使用・管理する権限を有しているということです。

ざくっといえば、「村のことは俺たちで決めるんだ」という権利です。

ローテキスト

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村落共同体などの入会団体の構成員は、土地などの各財産に対して持分を原則として有しないと解されています。

入会地は、団体に総有的に帰属しているにすぎないためです。

その結果、たとえば、入会団体が土地の一部を売却した場合のその対価も、入会団体に総有的に帰属すると解されます。

なお、総有については、次の関連記事をご参照ください。

共有とは?総有・合有との違い

民法における規定

民法典においては、入会権については次の二つの規定があります。第263条と第293条です。

第263条は、共有の性質を有する入会権に関する規定です。

他方で、第293条は、共有の性質を有する入会権に関する規定です。

いずれの権利についても、基本的には慣習に従ってその内容などが判断されます。

次の二つの条文が入会権に関する条文です。

<民法第263条>
共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。

<民法第293条>
共有の性質を有しない入会権については、各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する。

入会権の内、民法263条が定める「共有の性質を有する入会権」(民法263条)というのは、山林原野をみんなで共同所有(総有)している状態にかかる権利を指すものと解されます。

他方、「共有の性質を有しない入会権」というのは、村落共同体として当該土地を所有しているというわけではないものの、村落共同体がみんなで利用している状態にかかる権利を指すものと解されます(上記国有地にかかる入会権参照)。

いずれにしても、各地方の慣習にしたがって、権利の内容が定まることとなります。

他の用益物権(地上権・地役権・永小作権)との比較

民法には、入会権のほかにもいくつかの用益物権が定められています。以下、その内容と権利発生原因の違いを確認します。
内容 発生原因
入会権 慣習で定まる 慣習たる事実により発生
地上権 土地上に工作物を設置する権利 原則、合意が必要
地役権 一定の土地のために他人の土地を利用する権利 同上
永小作権 他人の土地を耕作などする権利 同上

権利の内容について

用益物権の内、地上権は土地上に工作物を設置する権利です。

また、地役権はある土地の便益のために設定される権利です。

永小作権は、土地を耕作する権利です。

これらに対して、入会権の内容は主として慣習によって定まります。薪や落ち葉、植物の採取を内容とする永小作権類似のものだけでなく、地上権や地役権類似の内容を有する入会権も存在しえます。

権利の発生について

地上権・地役権・永小作権の発生原因事実は、原則として土地所有者との合意です。

権利者・義務者間の物権設定契約によって成立するのが通常です。

他方で、入会権は、は慣習によって発生し、事実の上に成立している権利であると解されます。土地所有者等との合意を前提とするものではありません。

入会権者の地位と権利取得

入会団体を構成する構成員を入会権者といいます。

ある者が入会権者として認められるための条件は、その団体ごとに異なります。

ある村が入会地を支配している場合に、外部からその村に引っ越した新たな住人は、当然に入会権者になれる、というわけではありません。

たとえば、慣習上、入会権者となるために、その村に住んでいることのほか、「長期の居住」や「一定の金銭・労務の負担」が条件となっているというケースも少なくありません。

権利の対外主張

以下、入会権の対外的な主張について見ていきます。概略は次の通りです。
  1. 対抗要件⇒実体があれば対抗可。登記は不要
  2. 妨害排除⇒個人に対する利用権妨害に対しては、単独で妨害排除が可能。
  3. 入会権の存否に関する争い⇒団体構成員全員で訴訟

対抗要件

まず、入会権については、不動産登記法上、登記ができる権利とはされていません。

対抗要件として登記は不要です。

この点、ある土地につき、入会団体としての登記できなくても、「みんなで所有」しているものとして、構成員全員で何らかの登記をすることは可能かもしれません。

しかし、構成員が随時変動する村落等において、この方法はあまりに煩雑です。

また、代表者が個人名義で所有権登記をすることも可能かもしれませんが、それも実体とは乖離しますし、代表者によって処分行為が行われた場合、かえってトラブルを深化してしまいます。

「そこで!」というわけではありませんが、通説・判例は、入会権については、その実体さえあれば、登記なくして第三者に対抗できると解しています。

妨害排除請求

次に妨害排除請求についてです。

集団の構成員たる入会権者であって入会地の利用が許された個々人は、その利用が妨害された場合、単独でその妨害の排除や入会権に基づく利用権などの確認請求を起こすことができます。

たとえば、ある入会団体から、Aさんが、松茸採取のため、山林の一角を割り当てられたとしましょう。Aさんは2か月にわたって松茸を採取するつもりでした。

しかし、いざAさんが松茸の採取を開始しようとしたところ、松茸がとれる山があると聞いてきた第三者であるBさんが松茸を採取しようとしていました。

こうした場合、Aさんは、Bさんに対して、自己の入会権に基づく使用収益権が侵害されているとして、単独で妨害排除請求をすることができます。

入会権の存否に関する争い

他方で、入会権が存在するか否かを争う場合は、入会団体の構成員全員が裁判の当事者になることが求められます。

上記の通り、個々人が、自分に利用権があるんだ、として妨害排除請求をする場合は上記の通り単独で訴訟を起こすことができます。

しかし、団体の入会権の存否を争う訴えについては、入会団体の構成員全員が裁判の当事者となることが必要です。いわゆる「固有必要的共同訴訟」に該当すると解されています。

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入会団体が、権利能力なき社団という団体を構成していることがあります。

この権利能力なき社団については本ブログで詳細な解説をしております。

ぜひご参照ください。

権利能力なき社団とは

権利の消滅

入会権は、権利の放棄や入会林野整備事業による入会権の近代化や慣習の変化によって消滅しえます。

入会権は慣習によって、発生し事実の上に成立している権利です。そのため、慣習の変化により入会地上の使用収益が団体の統制の下にあることをやめるにいたると消滅に至ります(昭和42年3月17日最高裁判決参照)

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ここまで見てきたとおり、入会権は、村落住民がみんなで山林原野などを総有するものです。

では、住民減少などによって、村落が消滅した場合、その総有財産はどうなるのでしょうか。

対象となる不動産などの存在自体は維持されますので、焦点は村落消滅の過程で、その財産がだれにどのように帰属することになるのか、です。

ある裁判例をもとに検討しました。ぜひご参照ください。

消滅村落の入会権の帰趨(住民減少で村が消滅したら総有財産はどうなるのか)

<本記事で説明したこと>