永小作権とは

今回のテーマは永小作権です。

民法に規定された各種権利の中で最もマイナーな権利の一つと言えます。実際、実社会で出くわすこともほとんどないと思いますし、各種試験対策としても、概念を押さえておく程度で足りるものだと思います。

以下、条文を中心に永小作権の定義や、権利義務の内容などを見ていきます。

永小作権とは~定義と要素~

永小作権とは、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利のことを指します。

たとえば地主に対して対価たる小作料を支払って、米や麦の耕作をする、などがその例です。

試験対策としては、小作料の支払いが必須となっている点がポイントです。

ほかの要件物権(地上権、地役権、先取特権)は、権利の取得に必ずしも対価を要しないのに対し、永小作権は対価の支払いが必須の権利となっています。

民法第270条 
永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。
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永小作権の発生原因

永小作権は、当事者間の設定合意によって発生します。その他、遺言や時効取得によっても発生し得ます。

<補足>
上記の通り、民法上、永小作権は当事者間の合意で設定することができますが、農地につき永小作権を設定する場合、別途、農地法上の規制に服する点には注意してください。

農地法3条によれば、農地又は採草放牧地について永小作権を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならないとされています。

民法の試験対策としては不要な知識ですが、念のため。

永小作権の存続期間 

永小作権については存続期間が法定されています。

当事者間で永小作権を設定する際には、20年以上50年以下の範囲で定める必要があります。その際、50年以上の期間を定めたとしても、上限は伸びません。やはり50年とされます。

なお、設定に際して、存続期間を合意で定めなかった場合、原則として、その存続期間は30年となります。

また、一度設定した永小作権については、期間満了時に更新することができます。ただ、その存続期間は50年を超えることができません。

民法278条
<第1項>
永小作権の存続期間は、20年以上50年以下とする。設定行為で50年より長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。
<第2項>
永小作権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から50年を超えることができない。
<第3項>
設定行為で永小作権の存続期間を定めなかったときは、その期間は、別段の慣習がある場合を除き、30年とする。

対抗要件としての登記

永小作権も物権ですから、その得喪を第三者に対抗するには登記が必要です。

また、小作料は永小作権の要素となりますから、登記においても必要的な記載事項とされています。

なお、存続期間や小作料の支払時期については相対的記載事項とされるにとどまっています。

永小作権の内容


次に、永小作権の権利義務の内容について見ていきます。

なお、以下述べる権利義務の内容や権利の放棄・消滅請求に関する事項は、それと異なる慣習がある場合、その慣習による内容が優先します(民法277条)。

民法第277条 
第271条から前条までの規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

権利について

まず、永小作人の権利について見ていきましょう。

耕作・牧畜する権利

 
上記のとおり、永小作人は、他人の土地につき、耕作や牧畜する権利を有します(民法270条)。

永小作人は、そのために、土地を耕したり、一定の改良・変更を加えたりすることができます。

ただ、土地に対して、回復することのできない損害を生ずるような変更を加えることはできません。

民法第271条 
永小作人は、土地に対して、回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない。

権利消滅時の収去請求権

 
永小作権については、工作物の収去等について定めた民法269条の規定が準用されます。

そのため、永小作権が期間満了などに際して消滅する場合、永小作権者は、土地を原状に復して、その耕作物等を収去することができます。

ただし、土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは、永小作権者は、正当な理由がなければ、これを拒むことができません。

民法第279条 第二百六十九条の規定は、永小作権について準用する。

民法第269条
<第1項>
地上権者は、その権利が消滅した時に、土地を原状に復してその工作物及び竹木を収去することができる。ただし、土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは、地上権者は、正当な理由がなければ、これを拒むことができない。
<第2項>
前項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

譲渡(売買)や賃貸について

永小作人は、その権利を他人に譲渡したり、存続期間の範囲内で耕作若しくは牧畜を目的に、土地を賃貸したりすることができます。

要は、永小作権を売買の対象としたり、第三者に小作させたりすることができる、ということです。

民法第272条 
永小作人は、その権利を他人に譲り渡し、又はその権利の存続期間内において耕作若しくは牧畜のため土地を賃貸することができる。ただし、設定行為で禁じたときは、この限りでない。
<補足>
農地などにかかる権利の譲渡・土地の賃貸につき、農地法上の規制に注意する必要があることは、権利設定の場合と同様です(上述の農地法3条参照)。

永小作人の義務

次に永小作人側の義務について見ていきます。

小作料について

永小作人側の主要な義務は小作料支払義務です。永小作人は、地主との間で合意した小作料を支払う義務を負います。

この小作料の支払については、地主側の権利が強く保証されています。

永小作人が天災など不可抗力によって収益上の損失を被ったときでも、減額や免除を地主に請求することができません(民法274条)。

この場合でも、地主は、設定合意で定めた小作料を支払えと永小作人に請求することが可能です。

民法274条 
永小作人は、不可抗力により収益について損失を受けたときであっても、小作料の免除又は減額を請求することができない。

賃貸借に関する規定の準用

永小作人の義務については、一定の場合に賃貸借に関する規定が準用されます。

民法273条
永小作人の義務については、この章の規定及び設定行為で定めるもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。

永小作権の消滅について

最後に永小作権の消滅事由について見ていきます。

一般的消滅事由(存続期間が満了・混同・消滅時効等)

永小作権は、上記に述べた存続期間が満了した場合や、混同・消滅時効等によって消滅します。

<補足>
永小作権の消滅時効期間は、「債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する」と定める民法167条2項に従い、20年となります。

ただ、後述の通り、永小作人が2年間小作料を支払わないときは、地主側から永小作権につき、消滅請求をすることが可能です。

永小作権が行使されないまま、長期の期間が経過する場合、通常は小作料も支払われていないことが多く、民法276条が使えることが多いと思われますので、消滅時効が機能する場面はあまり無いかもしれません。

権利の放棄と消滅請求について

また、永小作権については、権利の放棄と消滅に関し、特別の規定が置かれています。民法275条と276条です。以下、最後に、条文等を確認しておきましょう。

権利の放棄について

民法275条 
永小作人は、不可抗力によって、引き続き三年以上全く収益を得ず、又は五年以上小作料より少ない収益を得たときは、その権利を放棄することができる。

上記の通り、永小作権については、相当長期の存続期間が定められます。また、永小作人は、その間、小作料を支払わなければなりません。

しかし、不可抗力により永小作人が長期に渡って十分な収益をあげられないような場合にまで、小作料の支払いを要する義務を永小作人に課し続けるのは、永小作人の利益をあまりに害する可能性があります。

そこで、民法は、上記275条規定の要件の下、永小作人側から権利を放棄することができると定めています。

永小作権の消滅請求

民法276条 
永小作人が引き続き2年以上小作料の支払を怠ったときは、土地の所有者は、永小作権の消滅を請求することができる。

上の通り、永小作権については相当長期の存続期間が定められます。また、永小作人は、その間、小作料を支払わなければなりません。

しかし、小作料が現に支払われないにもかかわらず、地主側が永小作権の行使を容認し続けなければならない、というのは地主側の利益保護に欠けます。

そこで、民法は、上記276条規定の要件の下、地主が永小作権を消滅させることができる旨定めています。