今回のテーマは所有者不明土地についてです。
以下では、所有者不明土地が生じる原因やこの問題に関する特別措置法の概略などについて解説していきます。
所有者不明土地とは
所有者不明土地とは、「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地」を指します。
この定義は、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法第2条第1項にて規定された定義です。
大雑把に言えば、相当の調査を尽くしても、所有者の全部または一部が判明しない土地のこです。
また、これに類似する概念として、「特定所有者不明土地」という概念もあります。
これは、「所有者不明土地のうち、現に建築物(物置その他の政令で定める簡易な構造の建築物で政令で定める規模未満のもの(以下「簡易建築物」という。)を除く。)が存せず、かつ、業務の用その他の特別の用途に供されていない土地」を指します(同2項)
要は、ちゃんとした建物が存在せず、かつ業務等にも使用されていない所有者不明土地のことです。この特定所有者不明土地については、後述のように、その利用促進のための仕組みが整えられました。
有者不明土地が発生する原因
所有者不明土地が発生する原因は、いくつか考えられます。
まず、第一に土地の所有者が相続人なくして亡くなった場合です。
この場合、民法の相続財産管理人選任の手続を経れば、当該土地は最終的に国庫帰属しえます。
しかし、そもそも、相続財産管理人選任手続には手間と費用がかかるため、相続人なくして所有者が亡くなった場合に、その選任手続の申立を誰もやらない、ということは少なくありません。
その結果、所有者不明土地が発生しえます。
また、相続人がいたとしても、誰が相続するのか決まらなかったり、これが決まっても結局相続登記が怠られたりする結果、やはり所有者不明土地が発生しえます。
戸籍を順々に追っていけば、法定相続人の特定はできそうなものですが、法定相続人があいまいかつ遺産分割協議の内容もあいまいなままだったりすると、結局誰が所有者なのかわからない、という事態が生じえるのです。
その背景には、固定資産税などの負担を避けるため、積極的な登記を相続人が怠ってしまうなどの事情があります。
所有者不明土地の面積
このような所有者不明土地は、約410万ヘクタールに上ると見られています。九州本島を上回る大きさです。
さらに、今後、高齢社会の進展により相続が増える結果として、2040年には、所有者不明土地は720万ヘクタールにまでのぼると見られています。
haに上るとみられ、発生抑制のための取り組みを行わなければ、2040年には所有者不明土地は北海道の面積に迫る約720万haまで増加すると推計されています。
所有者不明土地の問題点と対策
上記のような所有者不明土地問題を放置しておくのは、限りある国土の有効利用を妨げます。
今後、さらに所有者不明土地が増えれば、円滑な国土の開発がますます妨げられることが問題点として指摘されます。
そこで、この所有者不明土地問題への対策として、土地の円滑利用を可能ならしめるべく、2018年、所有者不明土地の利用の円滑化などに関する特別措置法定されました。
所有者不明土地法の概略
この法律の柱は大きく3つ、①土地の円滑利用、②土地所有者の調査の合理化、③財産管理人の選任の可能化です。
外部リンク:所有者不明土地法の概要(国土交通省)
①土地の円滑利用
土地の円滑利用の方法については、大きく二つの仕組み規定されています。
一つは、特定所有者不明土地につき、公共事業における収用手続の合理化・円滑化をはかるものです。
公共事業のために特定所有者不明土地を収用するに際して、収用委員会に代わって都道府県知事がその裁定を行うことで審理手続の省略などを可能としています。
起業者(・・・土地収用法)第二十条の事業の認定を受けた収用適格事業について、その起業地内にある特定所有者不明土地を収用し、又は使用しようとするときは、・・・告示があった日から一年以内に、当該特定所有者不明土地の所在地を管轄する都道府県知事に対し、特定所有者不明土地の収用又は使用についての裁定を申請することができる。
もう一つは、学校や公園などの施設の整備などの事業のために、事業者に特定所有者不明土地の利用権を付与するものです。
所有権の所在はともかくも、地域の福祉・利便の増進を図るための事業につき、土地の利用権を設定することを骨子としています。
地域福利増進事業を実施する者(以下「事業者」という。)は、当該事業を実施する区域(以下「事業区域」という。)内にある特定所有者不明土地を使用しようとするときは、当該特定所有者不明土地の所在地を管轄する都道府県知事に対し、次に掲げる権利(以下「土地使用権等」という。)の取得についての裁定を申請することができる。
一 当該特定所有者不明土地の使用権(以下「土地使用権」という。)
二 以下略
②土地所有者の調査の合理化
所有者不明土地法の柱のもう一つは、土地所有者の調査の合理化です。
同法は、土地所有者の調査・探索を合理化すべく、行政機関が、固定資産税台帳や地籍調査票などを利用できる仕組みを整えています。
都道府県知事及び市町村長は、・・・地域福利増進事業等の実施の準備のため当該地域福利増進事業等を実施しようとする区域内の土地の土地所有者等・・・を知る必要があるときは、当該土地所有者等の探索に必要な限度で、その保有する土地所有者等関連情報(・・・)を、その保有に当たって特定された利用の目的以外の目的のために内部で利用することができる。
また、同法は、長期間、相続登記などがされていない土地につき、登記官が調査の上、長期間相続登記が未了である旨、登記に記録できる制度を創設しています。
登記官は・・・当該土地につきその所有権の登記名義人の死亡後十年以上三十年以内において政令で定める期間を超えて相続登記等がされていないと認めるときは・・・職権で、所有権の登記名義人の死亡後長期間にわたり相続登記等がされていない土地である旨・・その所有権の登記に付記することができる。
これらの仕組みにより、土地所有者の調査を合理化し、所有者不明土地の発生防止・利用促進円滑化が企図されています。
③財産管理人の選任の可能化
さらに、同法は、地方公共団体の長などが、家庭裁判所に対して、不在者財産管理人または相続財産管理人の選任請求を可能とする民法の特例を置いています(同法38条以下)
民法典においては、上記の財産管理人の選任申立をなしうるのは、利害関係人または検察官に限定されていますが、その申立権を地方公共団の長などに認めることで、所有者不明土地の適切な管理を図ろうとするものです。
国の行政機関の長又は地方公共団体の長(次条第五項において「国の行政機関の長等」という。)は、所有者不明土地につき、その適切な管理のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所に対し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第二十五条第一項の規定による命令又は同法第九百五十二条第一項の規定による相続財産の管理人の選任の請求をすることができる。
小括
同法は、上記のような各種仕組みを設けて、国土の適正かつ合理的な利用を可能ならしめようとしています。
もっとも、この法律で解決しうるのは、所有者不明土地のごく一部であるともいわれており、今後の所有者不明土地の発生を防止するには十分とは言えません。
抜本的な解決にはまだまだ一層の施策が必要になるものと思われます。