即時取得とは?その要件・効果について~民法192条~

今回のテーマは即時取得。

物権法における重要テーマの一つであり、各種試験対策としても、日常生活においても重要な意味を持ちます。

以下、条文、制度趣旨、要件、効果及び各種論点をそれぞれ見ていきます。

即時取得とは

即時取得とは、ある動産につき、取引行為により善意・無過失かつ平穏・公然に占有を始めた者が即時に所有権などの権利を取得できるという仕組みを言います。

民法192条に規定された仕組みであり、即時取得が成立する場合、ある動産の買主は、前主が無権利者であっても有効に目的物の所有権を取得できます

即時取得が成立する場合、即時取得者が新たに権利を取得する反面、もともとの真の権利者は権利を失います。

民法192条
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

即時取得の具体例

簡単に即時取得の具体例を見ておきます。

たとえば、Aさんが、Bさん所有の財布につき、無権利者Cさんから買い受けたという場面を考えてみます。

この場合、Aさんが平穏・公然・善意・無過失であれば、即時取得が成立します(民法192条)。

その結果、Aさんが財布の所有権を取得し、Bさんは財布の所有権を失います。

ここでBさんが可哀そうじゃないか?と思われるかもしれません。

しかし、民法は動産取引の安全を図るべく、即時取得の仕組みを採用しており、善意・無過失など、即時取得の要件をAが満たす限り、この結論はやむをえません。

Bさんとしては、Cさんに対して損害賠償請求を行うなどしてその救済を図ることになります。

<補足>
民法における権利の取得の態様は、大きく分けて二つあります。承継取得と原始取得です。

承継取得は、前主の権利を承継する(引きつぐ)方法によって権利を取得する者で、売買等の特定承継の他、相続などの包括承継があります。

原始取得は、前主の権利と無関係に、新たに発生した権利を取得するものです。

即時取得による権利取得の態様もこの原始取得に分類されます。

制度趣旨

即時取得は、公信の原則に基づく仕組みです。

公信の原則というのは、平たく言えば、外観・見た目を信じて取引してもいい、という考え方です。

公信の原則を即時取得の場面に引き直して考えるなら、ある物を占有しているという外観に公信力を付与し、その外観を信じて取引に入った者には、たとえ、その外観通りの権利がなかった場合であっても、その権利があったのと同様の保護が与えられるべきである、という考え方になります。

たとえば、Aさんが、ある物を現実に所持しており、その物を売ろうとしている場合、それを見た第三者は、通常、その物はAさんの所有物なんだと考えますよね。

そこで、実はAさんが無権利であったとしても、その外観を信じて、取引行為によりその権利を取得した者を保護しようというわけです。

即時取得の要件

即時取得に関し、民法の基本書で説明される成立要件は次の①~⑤のような内容です。以下順に見ていきます。

①前主が無権利であること
②客体が動産であること
③取引行為によること
④平穏・公然・善意・無過失であること
⑤占有の移転を受けたこと

①前主が無権利であること

まず、一つ目の要件は、前主が無権利であることです。

所有権など目的物の権利を実際に有する前主から、当該目的物の権利譲渡を受けた場合、即時取得ではなく、普通の承継取得が成立しますから、即時取得の問題とはなりません。

ここで、無権利という場合には、単純に前主が権利を有していない場合の他、契約の無効・取消などによって、前主が権利を有していなかったことになる場合を含みます。

たとえば、AがBに対して目的物を贈与したのち、BがさらにCに目的物を譲渡したところ、AB間の贈与が強迫を理由に取り消されたという場合でも、Cは、他の要件を満たす限り、目的物を即時取得し得ます。

②客体が動産であること

即時取得の成立要件の二つ目は、客体が動産であることです。

不動産について

まず、即時取得は、公信の原則に基づき、特に動産取引の安全を図るべく採用された制度ですから、不動産(土地・建物)には適用がありません。

また、民法192条が類推適用されることもありません。民法192条は、特に、動産に限ってその取引の安全を図ろうとする規定ですから、類推適用の基礎もないと理解されます。

もっとも、無権利者から不動産を取得した者についても、一定の場合には権利外観法理等により保護の対象となることはあります。

自動車等登録動産について

また、特別の方法によって公示がなされた動産についても、即時取得の成立は否定されます。

占有以外の方法によって権利関係が公示される動産については、占有に公信力があるといえないためです。

たとえば、特別法によって登記された機械や船舶、あるいは登録された自動車等がこれに該当します。

③取引行為によること

即時取得は、動産取引の安全を保護するものです。そのため、「取引行為によって」占有が開始されたことが要件となります。

取引には、売買のほか、代物弁済や贈与も含みます。また、判例上は、競売による取得もこの要件は満たすと解されます。

他方、相続による占有の開始や単純な事実行為(立木の伐採や鉱物・海産物の採取)は、取引ではありませんので、即時取得は成立しません。

さらに、当然のことですが、取引行為は、有効なものでなければなりません。

たとえば、Aさん所有の動産を占有するBさんから、Cさんがこれを買った、という場合であっても、BC間の売買がBの意思能力・制限行為能力等により無効ないし取り消された場合、Cさんは、目的物を即時取得することはできません。

BC間の売買の有効性が、詐欺・錯誤など、意思表示の瑕疵を理由に否定される場合についても同様です。

④平穏・公然・善意・無過失であること

4つめの要件は、占有取得者が平穏・公然・善意・無過失であることです。

ここで「平穏」というのは、暴力を用いて占有をしているような場合を指し、公然というのは、秘密裏でないことを指します。

また、善意というのは、前主が無権利であることを占有開始時に知らないことを指し、無過失というのは、前主が無権利であることにつき、占有開始時に不注意があったとはいえないことを指します。

これらの要件を欠く場合には、もともとの所有者の利益を害してまで当該を取引の安全を保護する必要性を欠くことから、即時取得は成立しないことになります。

もっとも、平穏・公然及び善意の要件は民法186条で推認され、無過失の要件は民法188条で推認されます。

その結果、相手方からの反証がない限り、特段の立証無く、上記各要件は充足されることになります。

<補足>
善意・無過失の基準時については、これを「取引行為時」と理解する立場と「占有開始時」と理解する立場があるようです。

上記説明は「占有開始時」とする立場によっています。

⑤占有の移転を受けたこと

5つ目の要件は、上記取引行為に基づいて⑤前主から当該動産の占有の移転を受けたこと(引き渡しを受けた)ことです。

この要件は、たとえば、取引行為に基づき、現実に目的物の引き渡しを受けた、といった場合に充足されます(簡易の引き渡しについても同様です。)。

もっとも、指図による占有移転又は占有改定による占有の開始によって、この要件が充足されると言えるかについては議論があります(次に述べます。)。

先に結論だけを述べれば、指図による占有移転の場合には、即時取得の成立は肯定されるものの、占有改定については即時取得の成立を否定するのが通説・判例の立場です。

即時取得と引渡し

上記の通り、即時取得が成立するためには、取引行為に基づいて前主から当該動産の占有の移転を受けたこと(引き渡しを受けた)ことが必要となります。

そして、民法における「引渡し」には、①現実の引渡し、②簡易の引渡し、③指図による占有移転、④占有改定の4つがあります。

このうち、①現実の引渡し、②簡易の引渡しが即時取得の成立要件「前主からの占有の移転」を満たすことに異論はありません。

他方、③指図による占有移転、④占有改定が、「前主からの占有の移転」の要件を充足するかについては争いがあります。

参照:引渡しとは?現実・簡易の引渡し、指図による占有移転について
現実の引渡し・簡易の引渡し・指図による占有移転について、それぞれ解説した記事です。
関連記事:占有改定とは
占有改定について解説した記事です。そもそも占有改定って何だっけ?という方はこちらをご参照ください。

指図による占有移転と即時取得

指図による占有移転というのは、目的物を間接占有していた本人が、占有代理人に対して、以後、第三者のためにその目的物を占有することを命じ、当該第三者がこれを承諾することによって成立する引渡しです。

たとえば、Aが自己の所有物を占有代理人Bに占有させていたところ、Aが、以後、Cのためにその目的物を占有してねと指図して、Cがこれを承諾することによって成立する引き渡しの方法です。

この指図による占有移転によって、前主からの占有移転の要件が満たされるか否かについては、見解が分かれうるものの、一般的には、即時取得の要件を満たす、と解されています。

占有改定と即時取得

占有改定というのは、ある目的物の直接占有者が、その占有を維持したまま、他者のために当該目的物を占有する意思を表示する方法によって成立する引渡し方法です。

Aさんが目的物を占有していたところ、占有にかかる事実状態はそのままに、以後、Bさんのために占有する、という意思を表示することで成立します。たとえば、Aさんが自己所有の動産につき、Bさんのために譲渡担保契約を締結したが、Aさんが契約成立後も目的物の利用を続ける、といった場合です。

この占有改定が即時取得の成立要件を満たすか否かについては争いがあります。

この論点に関し、判例は、否定説に立ちます(最高裁昭和35年2月11日判決参照)

最高裁昭和35年2月11日判決
無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法一九二条によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさないいわゆる占有改定の方法による取得をもつては足らないものといわなければならない(大正五年五月一六日大審院判決、民録二二輯九六一頁、昭和三二年一二月二七日第二小法廷判決、集一一巻一四号二四八五頁参照)。
<補足>
この占有改定と即時取得をめぐる論点については否定説以外にも、肯定説・折衷説など種々の学説があります。また、上記に挙げた譲渡担保の場合については別の問題として考えるべきである、とする立場もあります。

個人的には、引渡方法が「占有改定」であったとしても、外観上の公示が十分な態様でなされている場合もありうるのではないか、と考えているところであり、「占有改定」の場合に常に即時取得を否定してよいか、については疑問を持っているところです。

対抗要件としての「引渡し」との比較

選択式のテストなどで頻出ですので一応整理しておきます。

民法178条は、動産物権変動の対抗要件を「引渡し」とする旨定めています。ここでいう引渡しには、現実・簡易の引渡し、指図による占有移転、占有改定のいずれも含みます。

他方で、判例の立場を前提とすれば、即時取得の成立要件としての占有移転には、現実・簡易の引渡し、指図による占有移転は含まれるものの、占有改定は含まない、ということになります。

即時取得の要件事実

ここで、要件事実の観点から、即時取得の要件を見ていきましょう。

なお、これは、民事訴訟における攻撃防御の観点から要件を整理するもので、応用的な内容となりますので、要件事実について勉強する必要がない方は読み飛ばしてください。

請求原因事実

上記の通り、民法の教科書では、即時取得の要件は、次の①~⑤のように解説されます。ただ、要件事実に照らしてみると、即時取得を主張する者が立証すべき事実は限定的です。

①前主が無権利であること
②客体が動産であること
③取引行為によること
④平穏・公然・善意・無過失であること
⑤占有の移転を受けたこと

まず、「①前主が無権利であること」は、実体要件ではありません。民法の教科書に照らしていえば、即時取得が問題となる場面は前主が無権利である場合なのですが、192条の文言において、「前主が無権利であること」が求められていないことに注意してください。

また、④については上記の通り推定が働きます。

なお、平穏・公然・善意については暫定真実(民法186条)と解説されるのが一般的です。即時取得の効果を争う者がその不存在の立証責任を負います。

また、無過失についても民法188条による推定が働きます。その結果、即時取得を争う者が過失を立証する責任を負います。

以上の結果、残るのは、②、③、④ですが、これを整理すると次のようにまとめることができます。

<請求原因事実>
ア 当該動産につき取引行為が成立したこと(売買など)
イ アの取引行為に基づく引き渡し(占有移転)があったこと
なお、判例の立場によれば、イには占有改定を含みません

悪意・過失は抗弁に回る

上記の通り、善意・無過失が推定される結果、悪意・過失は抗弁に回ります(なお、以下の解説は、岡口喜一著「要件事実マニュアル上巻」(株式会社ぎょうせい第2版216頁・217頁を参照するものです)

ここでいう「悪意」とは、「占有取得時に前主を権利者と信じていなかったこと」を指します。

ここでいう「信じていなかった」というのは、即時取得者(新たな占有者)が占有取得時点において「権利者ではないと知っていた」のみならず、「権利者でないのでは?」と「疑っていた」場合を含みます。

また、「過失」が抗弁に回ります。具体的には「占有取得時に前主を権利者と信じるにつき過失があったこと」が抗弁に回ります。

その他の抗弁事由

即時取得に対しては、悪意・過失のほか、「占有の移転が強暴・秘密裡になされたこと」、「取引行為が無効である・取り消されたこと」、「当該動産が盗品・又は遺失物であること」(民法193条参照)が抗弁に回り得ます。

即時取得の効果

最後に即時取得の効果について見ていきましょう。

所有権・質権等の原始取得

即時取得の法律上の効果は、条文に照らして言えば、「動産の上に行使する権利の取得」です。

一般的には、所有権の取得であることが多いですが、別途取引行為の目的が質権の取得や譲渡担保権の取得である場合、即時取得者は、当該動産の質権または譲渡担保権を取得します。

なお、ここでいう取得は、承継取得ではなく原始取得と理解されます。即時取得者は、前主の権利を引き継ぐのではなく、そこで新たに発生する権利を取得している、という考え方になります。

そのため、たとえば諸州県が即時取得される場合、前主の権利に何らかの制限が付着していたとしても、当該制限は即時取得により原則として消滅することになります。

関連記事:動産質について
質権も即時取得の対象となる、と述べましたが実際上、イメージしにくいところだと思います。この点については動産質について解説した上記記事をご参考いただけますと幸いです。

盗品・逸失物に関する特則

ここまで述べてきたとおり、民法は、動産取引に関し、即時取得の制度を設けて、占有取得者による本権の原始取得を認めています。

ただ、その対象となる動産が盗品・逸失物である場合、その被害者などの保護を図る必要があるため、民法は一定の特則を設けました。民法193条と民法194条です。

民法193条

まず、民法193条は、盗品及び逸失物が即時取得された場合に関し、被害者などに、当該目的物を取りもどす機会を与えるものです。
 
同条によれば、即時取得が成立した場合であっても、被害者等は、盗難又は逸失のときから2年間は、その物の回復を請求することが可能です。

なお、民法193条の文言上、被害者などが回復請求をするに際して、被害者等は対価を弁償することは求められていません。

同条に基づく回復請求は、原則として無償で行うことができます。

民法第193条
前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる

民法194条

上記の通り、民法193条の回復請求は原則として無償で行うことができますが、占有者(即時取得者)が、市場などでこれを買い受けていた場合、この回復請求に無償で応ぜよ、というのは当該占有者にちょっと酷です。

「俺、ちゃんとした店で買ったんだぜ?文句言われる筋合い無いでしょ?」と占有者側が思うのも無理はありません。

そこで、このような場合に備え、民法194条は、民法193条の無償の回復請求に関し、さらに特則を置いています。

具体的には、同条は、占有者が、盗品などを公の市場等において、善意で目的物を買い受けて即時取得をした場合において、被害者などが回復請求をするには、当該代価を弁償すべき旨、定めています。

占有者に対する対価弁償により、占有者の利益に配慮しているといえます。

民法194条 
占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない