今回のテーマは法律行為についてです。
私も、記事のなかで特段断りもなく、「法律行為」という用語を用いることが多いのですが、今回、その意味について確認しておきましょう。
先出ししておくと、法律行為を理解するうえで、特に重要なポイントは、法律行為は「意思表示」を中核としている、という点になります。
法律行為とは
法律行為とは、意思表示を基本要素とする法律要件です。
法律要件が充足された場合、その要件充足に伴って、法律上の効果が発生します。
契約が典型例ですが、その他、相手方のない単独で行いうる意思表示や会社設立など、多人数で行う行為も法律行為に該当します。
法律行為の具体例
具体例を見てみましょう。
たとえば、強迫(民法95条)を理由に、売買契約の取消を行う場合、大雑把に言うと次の要件を充足する必要があります。
①Aが強迫されたこと
②強迫されたことによりAが相手方と売買契約を締結したこと
③Aが②の売買につき、取消しの意思表示をしたこと。
このうち、③の取消の意思表示が法律行為です(厳密に言うと、②にも法律行為が含まれますが、ここでは割愛します。)。ここでは、③取消しの意思表示が、強迫取消の法律要件となっています。
このように、法律効果を発生させる法律要件の内、意思表示を基本要素とするものを、法律行為といいます。
そもそも意思表示とはなんだ?という方は、こちらの記事にて解説しておりますので、ご参照いただけますと幸いです。
準法律行為とは
上記に対して、準法律行為という概念もあります。これは、法律効果の発生を求める以外の精神作用の表示です。
回りくどい言い方となってしまっていますが、より端的には精神作用の表示であって、意思表示でないもの、と考えたほうが早いかもしれません。
意思などの表示だが、そこに意思表示が含まれていない、というのがポイントです。
なお、この準法律行為には、主として、①意思の通知、②観念の通知、感情の表示の3つがあります。
意思の通知とは
意思の通知とは、自らの意思を通知するものであって、意思表示ではないものを指します。
たとえば、無権代理行為を追認するか否かを回答せよという催告は、相手方の回答を欲する、という意思の通知です。
前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる
観念の通知とは
観念の通知とは、事実の通知を言います。これは分かりやすいですね。たとえば債権譲渡した旨の通知などがこれに当たります。
1 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
感情の表示とは
感情の表示とは、文字通り、感情を通知することを言います。あまり例はありませんが、婚姻関係中に夫婦の一方が不貞行為を行った場合の他方配偶者の宥恕などがその例とされます。
事実行為との違い
法律行為と対置される概念に、「事実行為」という概念があります。
事実行為というのは、精神作用ではなく、人の事実上の行為(物理的な行為等)そのものを指します。精神作用の表示であるか否かにより、法律行為と区別されます。
たとえば、不貞行為や傷害行為といった行為が事実行為に該当します。
意思表示を行う人の数による分類
上記のとおり、法律行為というのは、法律行為とは、意思表示を基本要素とする法律要件ですが、いくつかの観点から分類・整理されます。
そのうちの一つが、意思表示を行う人の数と形態によって分類する方法で、①単独行為、②契約(双方行為)、③合同行為の3つに分類することが可能です。
単独行為とは
単独行為というのは、ある人の一方的な意思表示のみで、法律効果を発生させる法律行為を言います。
冒頭例に挙げた強迫取消しのほか、債務不履行責任に基づく契約の法定解除や債務の免除、遺言などが代表例です。
契約(双方行為について)
契約(双方行為)というのは、二人以上の相対立する意思表示の合致によって法律効果が発生する法律行為です。
典型例は、買主・売主の意思表示によって成立する売買契約です。
ただ、この契約は、必ずしも二者間でなされるものではなく、三者間でなされることもあります。
たとえば、AさんとBさん、Cさんがそれぞれ合意して、AはBに、BはCに、CはAにそれぞれプレゼントを贈与する、といった契約は三者間の贈与契約です。
合同行為とは
合同行為とは、二人以上の目的・方向性を同じくする意思表示の合致によって成立する法律行為です。
たとえば、多人数を構成員とする組合や社団・会社の設立行為がこれに該当します。
法律行為の性質上の分類
また、法律行為は、上記の分類方法のほか、対象となる権利や義務の性質、対価の有無、要式性の有無などに応じて整理することも可能です。
債権行為と物権行為
法律行為は、債権行為と物権行為に分類されます。
債権行為というのは債権の発生を目的とし、物権行為というのは、物権変動を目的とする法律行為です。
たとえば、抵当権を設定する抵当権設定契約は、抵当権という物件の変動を生じさせるものですから物権行為です。
また、売買契約などは、債権の発生を目的とする債権行為です。
なお、これ以外にも、債権の譲渡など、物権以外の権利を処分する行為を準物権行為といいます。
有因行為と無因行為
また、法律行為は、有因行為と無因行為という観点から分類されることがあります。
ある原因に基づいて行われたある法律行為につき、その原因が無効となった場合に、その行為の効果までも無効となるものを有因行為といいます。
他方で、原因が無効となっても、当該法律行為が無効とならないものを無因行為と言います。
無因行為の典型例は手形行為です。
たとえば、手形は、手形の上に権利を化体して、転々流通することを予定しているところ、転々流通した手形債務は、手形振出の原因関係が無効となっても、有効に存続します。
有償行為と無償行為
さらに、法律行為は、対価を得て行う行為か、対価を得ずして行う行為かによっても分類されます。
たとえば、売買や賃貸、請負が有償行為の典型例です。
他方、無償行為の典型例としては、単純な贈与を挙げることができます。
要式行為と不要式行為
加えて、要式性の有無にて法律行為を分類することも可能です。
当該法律行為につき、法律上、書面で行わなければならない、などとされているものは、書面作成という要式が求められるので要式行為です。
たとえば遺言や婚姻、縁組、離婚、手形の振り出しなどを挙げることができます。その他、連帯保証契約なども要式行為(特に要式契約といいます。)です。
他方で、当該法律行為につき、何らの様式を必要としないものを不様式行為と言います。
法律行為の一つである「契約」についても、上記のような各種性質などに応じた分類が妥当します。法律行為の分類のほか、契約の分類についても併せてご参照いただけますと、理解を深めやすいと思います。
法律行為の一般的な有効要件
以上、法律行為とは何か、という点につき見てきましたが、最後に法律行為が有効であるといえるための一般的な4つの要件を紹介します。
法律行為ではあっても、次の4つの要件を満たさないものはそもそも無効と評価されます。
①内容が確定していること
有効な法律行為といえるためには、内容を確定できるものではなければなりません。
そのの意味内容自体があいまいで、確定ができないという場合、当該法律行為は無効なものと扱われます。
②実現が可能であること
また、有効な法律行為と言えるためには、その内容が実現可能なものでなければなりません。
実現不可能なものは、法律行為の内容とはできないわけです。
③強行法規性に反しないこと
法律行為が有効であるためには、当該行為は強行法規に反するものであってはなりません。
強行法規に反するものは無効と評価されます。
④社会的妥当性を有すること
さらに、公序良俗に違反して、社会的妥当性を欠くような法律行為は無効とされます。
たとえば、暴利行為や妾契約などがその例です。
妾契約や愛人契約が公序良俗違反とされるか否かを説明した記事です。意外と深い問題があります。