今回は、民法が定める質権の内、動産質につき説明します。
いずれも質権である、という点で共通しますが、民法は、それぞれの性質に応じて特有の条文を置いていますので、条文を中心に解説していきます。
また、不動産質、権利質については、別の記事にて解説をします。以下、単に質権というときは、動産質を念頭に置いているとご理解ください。
動産質とは
動産質というのは、動産を目的物とする質権を指します。教科書的な例では、貴金属類や絵画などが動産質の目的物に挙げられます。
質権というのは、ある債権を担保するため、債務者などから受け取った質物を占有し、かつ質物から優先的に弁済を受けることができる権利を意味します。
民法は、342条から351条まで、質権に関する共通の規定を設けた上で、352条以下で、動産質、不動産質特有の規定を設けています。
質権全般に関する民法の規定や性質を解説した記事です。そもそも質権ってなんだ?どんな性質があったんだっけ?という方はこちらからご確認ください。
動産質にかかる権利の設定・取得
最初に動産質の成立要件を確認しましょう。
設定合意と引き渡し
動産質権が有効に成立するためには、設定合意と引き渡しが必要です。
動産質も質権です。そして、質権は約定担保物権ですから、通常、その成立には、動産質権設定にかかる合意が必要となります。
また、質権設定契約は、要物契約制を有しますので、有効に質権が成立するためには、目的物の引渡しが必要となります。
質権の即時取得
また、動産質は目的物が動産であるため、即時取得によっても成立しえます(この点は不動産質にはない特徴です)。
たとえば、Aさんが無権限で、Cさん所有のある動産につき、Bさんとの間で質権設定の合意を行い、かつ、これを引き渡した場合において、Bさんが、善意・無過失であるならば、Bさんは質権を即時取得します。
この場合、Cさんが所有者であることに変わりはありませんが、Cさんの当該所有動産には、質権の負担が付着することになります。
この場合、Cさんは、AさんのBさんに対する債権を物上保証するかのような関係に立つことになります。
即時取得された質権が実行された場合のCさんの救済はどのように考えればよいのでしょうか。
この点に関して、成文堂「民法講義Ⅲ」第2版(近江幸治著)には、「所有者」が「質権設定者となり、物上保証人と類似の関係が生ずる」と説明されています。
そうだとすれば、Cの救済は、物上保証人に準じ、民法351条の考え方にて処理することになるのではないかと思われます。
参照:民法351
「他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。」
動産質権の対抗要件等
次に、動産質の対抗要件等について見ておきましょう。関連する規定は民法352条と353条です。
占有が対抗要件
民法352条は、動産質の対抗要件につき、次の通り定めています。
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。
条文の意味、意外と分かりにくいですよね。
この規定は、動産質につき、占有が対抗要件となることを謳っています。質権者が第三者に質権を対抗するには、占有が必要になる、ということです。
そして、ここにいう第三者というのは、債務者及び質権設定者以外の者を指します。
したがって、質権者が質物の占有を奪われた場合、質権者は、債務者及び質権設定者以外の者に対して、たとえば、質権に基づいて質物を引き渡せ、などと権利主張できない、ということになります。
占有の回復
では、占有を奪われた質権者は、もはや第三者にあらがう手段を有さないのでしょうか。
実は、民法には、占有者がその占有を奪われた場合につき、「占有回収の訴え」により、その占有を可服することができることが謳われています(民法200条)。逆に言うとこれしかありません(民法353条)
この占有回収の訴えにより、質権者が占有を回収できた場合、質権につき対抗力も回復することになります。
占有回収の訴えなど、占有訴権全般について解説した記事です。
1 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
参照:民法353条
動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる
動産質権の効力
最後に、動産質の効力について見ておきます。
動産質権は、①留置的効力を有します。また、②優先弁済的効力があります。さらに物上代位も可能です。
① 留置的効力
質権に留置的効力があります。つまり、質権者は、債権の弁済を受けるまで、質物を留置できます。
ただし、自己に対して優先権を有する第三者との関係では、この限りではありません。
質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。
② 優先弁済的効力
質権には、優先弁済的効力があります。
競売による回収
動産質については、質権者は、質物につき、競売手続をとることで、一般債権者に先んじて債権回収を図ることが可能です。
なお、同一動産につき、数個の質権が設定されたときは、その優先権の順位は、質権設定の時期の前後により定まります(民法355条)。
同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その質権の順位は、設定の前後による。
簡易の弁済充当
また、動産質は、不動産質と異なり、簡易の弁済充当という債権回収の方法が認められています。
質権を競売に欠けるには費用が掛かりすぎて、実効性が無い場合がすくなくないため、簡易な方法による債権回収方法が認められているのです。
内容については、民法354条をご参照ください。
動産質権者は、その債権の弁済を受けないときは、正当な理由がある場合に限り、鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができる。この場合において、動産質権者は、あらかじめ、その請求をする旨を債務者に通知しなければならない。
③ 物上代位
動産質権も質権ですから、物上代位性を有します。
たとえば、質物の価値代替物としての損害賠償金や保険金につき、質権者は物上代位をすることが可能です。