権利質とは?債権質とは?

今回のテーマは、民法が定める権利質についてです。

権利質は、また同種の権利である質権の中で、特異な性格を有する権利です。

民法においては、第2編の「物権」という編のなかに規定されている権利ですが、もはや「物権」というカテゴリー分けを飛び出た存在。

以下、権利質の典型である債権質を中心に、その内容を確認していきます。

権利質とは

権利質とは、動産所有権・不動産所有権以外の財産権を対象とする質権を指します。

物権でいえば、地役権や地上権がその対象となり得ますが、権利質の対象は、物権には限られません。債権や株式、知的財産権などもその対象となります。

実際、火災保険金請求権や株式が質の対象となるなど、実生活においても使用される権利です。

参照 民法362条
1 質権は、財産権をその目的とすることができる。
2 前項の質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、前三節(総則、動産質及び不動産質)の規定を準用する。

関連記事:質権とは
質権の性質や質権に関する総論的知識の内容については、こちらの記事をご参照いただけますと幸いです。

質権としての性質

権利質も質権ですから、質権一般に関する規定が基本的には妥当します(民法362条2項)。

たとえば、質権設定ができる財産は、譲渡性のある財産でなければならないため、譲渡禁止特約のある債権(たとえば預金債権)などは、権利質の対象とすることができません。

また、不可分性や物上代位性といった性質も認められますし、強制執行手続を介して、質入れされた財産権から被担保債権の優先弁済を受ける(優先弁済効力)ことも可能です。

株式や知的財産を対象とする権利質について

上記の通り、権利質は、株式や知的財産権も対象になります。

ただ、株式や知的財産に関する権利質につき、民法には特別の規定は置かれていません。

これらの財産権に関する質入れについては、会社法などの特別法で質入れに関する規定が置かれており、効力発生要件等については当該規定に従うことになります。

参考までに株式の質入れに関する会社法の規定を置いておきます。会社法147条で、民法364条が排除されている点についてはご留意ください。

参考:会社法第146条
1 株主は、その有する株式に質権を設定することができる。
2 株券発行会社の株式の質入れは、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。

参考:会社法第147条
1 株式の質入れは、そのw:質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができない。
2 前項の規定にかかわらず、株券発行会社の株式の質権者は、継続して当該株式に係る株券を占有しなければ、その質権をもって株券発行会社その他の第三者に対抗することができない。
3 民法第364条 の規定は、株式については、適用しない。

債権質とは

債権質とは、権利質の中で、債権を対象とするものを指します。イメージ補助として次の図をご参照いただけますと幸いです。

この債権質については、民法に効力発生要件、対抗要件、取立の方法などが規定されています。

債権質の設定(効力発生要件)

債権質は、債権者と債務者(質権設定者)との間の合意で成立するのが原則で、この場合、債務者の第三債務者に対する債権が、質の対象となります。

ただ、この効力発生要件については、民法363条に規定があります。この規定によれば、債権の譲渡に証書の交付が要求される証券的債権については、上記原則と異なり、証券の交付が債権質の効力発生要件となります。

参照:民法363条
債権であってこれを譲り渡すにはその証書を交付することを要するものを質権の目的とするときは、質権の設定は、その証書を交付することによって、その効力を生ずる。

対抗要件について

また、民法は、指名債権及び指図債権につき、対抗要件に関する規定を置いています。

指名債権への質権設定に関する対抗要件

指名債権というのは、債権者が特定しており、債権の発生や行使に書面を必要としないものです。民法が定める売買代金債権や請負代金債権などがその例です。

債権者が、第三債務者に対して、債権の質入れを対抗するには、設定者からの債務者への通知か、債務者の承諾が必要になります。

また、債権者が第三債務者に対抗するには、確定日付ある証書によって、通知・承諾がなれれることが必要になります。

参照:民法第364条 
指名債権を質権の目的としたときは、第四百六十七条の規定に従い、第三債務者に質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。

指図債権への質権設定に関する対抗要件

指図債権というのは、証券に記載された特定の者、またはその者から指図された者に弁済すべき債権です。手形、小切手、倉庫要件、貨物引換証、船荷証券などがこれに該当します。

学説による解釈は一旦措くとして、文言通り読めば、この指図債権への質権設定に関し、民法365条は、質権設定の裏書を対抗要件とする旨定めています。

参照:民法第365条 
指図債権を質権の目的としたときは、その証書に質権の設定の裏書をしなければ、これをもって第三者に対抗することができない。

債権質に基づく取立など

最後に民法366条について確認します。債権質に関する民法の規定の中で最も特徴的な規定です。

この規定は、質権者が、自己の債権額の範囲で、第三債務者から、質権設定者の第三債務者に対する債権につき、直接取り立てることを認めています(同第1項、2項)。

第三債務者に対する設定者の債権の弁済期が質権者の債権より先に到来したとき、質権者は、第三債務者に弁済すべき金額を供託させることができます。この場合、質権は、この供託金につき、存在することになります(同第3項)。

また、質権者は、第三債務者に対する債権の目的物が物の給付である場合、弁済として、当該物を受け取ることができます。この場合、質権は、当該物につき存続します。

参考:民法366条
1 質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
2 債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。
3 前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。
4 債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する