質権とは

今回のテーマは質権です。

以下、民法が定める質権制度の意義やその効力、発生要件などを見ていきます。

なお、民法が定める質権には、動産質、不動産質、権利質(債権質など)の3種類がありますが、権利質は少し異質であるため、この記事では、断りがない限り、動産質、不動産質を念頭に質権に共通する項目について解説します。

質権とは

質権とは、債権の担保として、債務者又は第三者から受け取った質物を占有し、かつ、その物につき、他の債権者に先立って、自己の債権の弁済を受けることができる約定担保物権を指します。

民法342条以下にて制度設計された権利であり、占有を基礎とする点に特徴があります。

質権者とは?設定者とは

ここで、念のため、用語法を確認しておきます。

まず、質権者とは、質権を有する者のことを指します。債権者であって、現に質物を受け取った側を指します。

他方、質権設定者とは、質物を提供した者のことを指します。債務者で会って、物を渡した側のことを指します。

質権の利用方法

簡単に質権が利用される典型例を見ておきます。

本人が質物を提供するケース

質権の利用法としては、たとえば、AさんがBさんにお金を貸す際に、Bさんからちゃんとお金が返ってくるか不安だから、Bさん所有の貴金属類を預かり、これに質権を設定する、といった利用法が考えられます。

このケースにおいては、Bさんが質権設定者、Aさんが質権者です。

Bさんが債務の返済をしない場合、Aさんは、競売手続を通じて貴金属類を換価し、貸金債務の返済に充てる、といった手続をとることができます。

質権は、留置権と異なり、他の債権者に先立って、質物から優先的に弁済を受けることが可能な権利だからです(優先弁済的効力)。

参照:民法342条 
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

第三者が質物を提供するケース

また、質権の設定は、債務者本人ではなく、債権者と第三者間とで行うことも可能です。

たとえば、上記例では、Bさんの親であるCさんが、AさんのBさんに対する債権を担保するため、Cさん所有の物を質物としてAさんの供する、といったことが考えられます。

なお、Cさんが質物を提供したケースにおいて、CさんがBさん代わってAさんに対しその債務を弁済したり、質権の実行によって質物の所有権を失ったりした場合には、CさんはBさんに対して、求償権を行使することが可能です。

参照:民法351条 
他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する

種類

質権には、動産質・不動産質と権利質の3種類があります。

動産質・不動産質

最もイメージしやすいのが動産質です。これは文字通り、動産を対象とする動産質を指します。

他方で、不動産質というのは、不動産を対象とする質権のことを指します。不動産の担保には抵当権が用いられることが多く、不動産質の利用例は限定的です。

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権利質(権利質)

債権質というのは、債権などの権利を質にとるものです。火災保険金や株式を質に入れるなどがその例で、実生活においても重要な役割を有しています。

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質権の性質

質権は担保物権ですから、他の担保物権と同様、付従性、不可分性、物上代位性という性質を有します。簡単に確認しておきましょう。

付従性

付従性というのは、債権なくして担保なしという原則です。

担保物権が担保しようとする債権(これを被担保債権と言います。)がそもそも成立していなければ担保物権も成立しないし、いったん成立したとしても、その後に被担保債権が消滅すれば、担保物権も消滅するという性質を指します。

不可分性

不可分性というのは、担保物権は、被担保債権のすべてに不可分に及ぶという性質を指します。

質権者は、債務者から一部の債務の弁済を受けたとしても、その「全部」の弁済があるまで、質物の全部につき、権利行使をすることができます。

物上代位性

物上代位性というのは、目的物が売却・賃貸・滅失などにより、その物の価値が金銭その他の物(これを「代償物」といいます。)に化体した場合に、当該代償物につき、担保物権者が権利行使することができる、という性質を指します。

質権の成立要件

次に質権の成立要件について見ていきます。質権が成立するためには、①質権設定契約と②目的物の引き渡しが必要です。

① 質権設定契約

質権は、「約定」担保物権ですから、その設定には合意が必要です。その合意のことを質権設定契約といいます。

質権設定の契約書の例

被担保債権を担保するため、ある目的物につき質権を設定するとの合意がこれに該当します。イメージ補助として、契約書の例を挙げておきます。

質物にできないもの

上記の契約書の例においては、質物につき、一例として「茶器」としました。その他にも絵画やつぼ、貴金類が質物となりえます。

他方、質物の目的物については、何でもよい、というわけではなく、民法343条にて譲渡禁止物は質権の目的にはできない、と定められています。

したがって、譲渡禁止物は質物にはできません。たとえば、禁制品がこれに該当します。

また、特別法で、質権設定が禁止されている動産もあります。たとえば、自動車は自動車抵当法20条で質権の対象とすることが禁止されています。

参照:民法343条 
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。

参照:自動車抵当法第20条 
自動車は、質権の目的とすることができない

② 目的物の引き渡し~民法344条~

また、質権設定契約は、要物契約です。債権者に目的物が引き渡されることによって、効力を生じます(民法343条)先ほどの契約書第2条で目的物の引き渡しがあったことを謳っているのはそのためです。

参照:民法第344条 
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。

引渡しとは

ところで、民法における「引渡し」には4つの種類があります。①現実の引渡し・②簡易の引渡し・③指図による占有移転、④占有改定の4つです。

①現実の引渡しというのは、現に目的物を引き渡すことをいい、②簡易の引渡しは、すでに相手方が目的物を所持している場合に、意思表示によって占有権を譲渡することを指します。

また、③指図による占有移転というのは、目的物を間接占有していた本人が、占有代理人に対して、以後、第三者のためにその目的物を占有することを命じ、当該第三者がこれを承諾することによって成立する引渡しです。

占有改定というのは、ある目的物の直接占有者が、その占有を維持したまま、他者のために当該目的物を占有する意思を表示する方法によって成立する引渡し方法です。

占有改定は「引渡し」には含まない

上記引渡しの内、①~③は、質権設定契約に必要な引渡しに該当しますが、他方で、④占有改定は、有効に質権を設定するための引渡しには該当しません。

質権者は、自己に代わって、設定者に質物の占有をさせることができないためです。実質的には、質物の留置的作用が失われるから、と説明されます。

参照:民法345条 
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
補足 いったん有効に成立した質物を返還した場合
ここで、ちいさな論点があります。いったん有効に契約が成立し、目的物が設定者から質権者に引き渡されたものの、その後、質権者が設定者に目的物を返した場合に、権利関係がどうなるのか、という問題です。

この点については、質権が消滅するという見解と、質権は有効に継続するが、対抗力を失う、という見解の二つに大きく分かれています。

質権の効力

次に質権の効力について見ていきます。

担保の範囲~民法346条~

上記で見てきたとおり、質権は約定担保物権です。質権がどの範囲の債権を担保するかは、質権設定契約によって定まります。

では、質権設定契約で特に定めをおかなかった場合はどうでしょうか。この場合には、質権は次の債権全てを担保することになります(民法346条)

①元本、利息、違約金
②質権実行の費用や質物保存の費用
③債務不履行または質物の隠れた瑕疵によって生じた損害

たとえば、質権を根拠に、競売を申し立てた場合、元本や利息・違約金はもちろん、質権実行の費用(競売の費用)も、競売による配当の対象となります。

参照:民法346条 
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。

留置的効力~民法347条~

また、質権は上記のような債権を不可分に担保するので、質権者は、自分に対して優先権を有する債権者以外の者との関係では、当該債権の全てにつき弁済を受けるまで、質物を留置することが可能です(民法347条、なお350条及び296条)。

留置することができる、と言うことの意味は、質物設定者のみならず外の第三者が目的物の引き渡しを要求してきたときに、これを拒むことができる、という意味です。

第347条 質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。

なお、後述の350条により、質権には、民法296条から民法300条までの留置権の規定が準用されます。条文については、留置権に関する記事にてご確認ください。

関連記事:留置権とは
留置権の定義、性質、要件、効果などにつき、民法の条文などと併せて解説した記事です。

物上代位による債権の回収

また、質権には、物上代位性があります(民法350条、民法204条)

たとえば、質物となった茶器や絵画につき、第三者の加害行為により滅失、損傷等した場合、債権者は、所有者たる質物設定者に帰属すべき第三者への損害賠償請求権や保険金請求権に物上代位することができます。

これにより、物が滅失、損傷等した場合に、質権者はその払渡し前に差押えを行うことで、損害賠償請求権等に代位して、被担保債権の回収を図ることができる、ということになります。

参照:第350条 
民法296条から第300条まで及び第304条の規定は、質権について準用する。

参照:第304条 
1 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

関連記事:先取特権とは?
法定担保物権である先取特権について解説した記事です。質権には、この先取特権に関する物上代位の規定が準用されていることになります。

流質契約の禁止~民法349条~

ここで、質権の効力の一つとして、流質契約の禁止について簡単に述べておきます。

民法上の規定においては、流質契約は禁止されています。民法349条を見てください。

第349条 
質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。

「質」と聞くと、一般的なイメージとしては、質権設定者が被担保債権を完済できなければ、その物を質権者に取られてしまう(所有権が移転してしまう)、と考えがちです。

実際、営業質屋では、いわゆる質流れが行われていますので、このイメージは間違いではありません。また、商行為によって生じた債権を担保するために設定された質権についても、質流れが認められます。

しかし、これらの質流れは、質屋営業法や商法によって認められているものにすぎません。民法上の原則は、流質は禁止である、ということを押さえておく必要があります。

抵当権との違い・比較

ここで、質権の理解を深めるために、同じく約定担保物権である抵当権と比較してみましょう。

抵当権との共通点

質権と抵当権は、担保物権であるという点、約定担保であるという点で共通します。

また、双方、優先弁済的効力を有するという点でも共通です(権利者は、競売により債権回収を図ることが可能。)

質権と抵当権との違い

もっとも、両者はそれぞれ違う権利ですから、当然異なる点もあります。

動産や財産権が権利の対象となるか否か

まず、民法上、質権は、不動産のみならず、動産や財産権に対しても成立します。

他方で、少なくとも民法が定める抵当権は、不動産を対象とする権利であり、動産や権利を対象とするものではありません。

引渡しが要件となるか否か

また、上記の通り、動産・不動産に関する質権が有効に成立するためには、「引渡し」が必要です。

そのため、質権は、設定者が目的物の利用を継続しながら、担保を設定することができません(動産についてこれを実現したいなら、譲渡担保などの方法をとることになります)。

他方、抵当権については、引渡しは要件になりません。

質権と比較した場合、担保設定者が、目的物の占有を継続したまま、当該目的物に担保を設定できるという点に、抵当権の特徴があります。

転質について

最後に転質についてです。質入れされた物(ないし質権)につき、質権者がさらに質権を設定することを転質といいます。

このうち、原設定者の承諾のあるものを承諾転質、承諾のないものを責任転質といいます。後述の民法348条はこのうちの責任転質について定めたものと解するのが一般的です。

承諾転質の内容は契約によって定まります。他方で、責任転質の効果については、その法的性格をめぐる学説の対立があります。

ここでは詳論は避けますが、質権又は質物のみが単独で質入れされているのだとする単独質入説と、被担保債権もともに質入れされているのだとする共同質入説との対立です(細かく見れば、学説はさらに細分されます。)。

責任転質は、実生活や実務ではお目にかかることはまずありませんが、頭の体操にはなるので、興味がある方は調べてみてください。

参照:民法348条 
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。