物権的請求権とは?その種類や性質、相手方に関する判例など

今回のテーマは物権的請求権です。所有権をはじめとする物権の基本的な効力となります。

以下、物権的請求権の種類や内容等について見ていきましょう。

また、併せて、物権的請求権の相手方に関する重要判例も紹介します。

物権的請求権とは

物権的請求権とは、物権に対する侵害を排除・予防する請求権です。

明文上、これを直接認める規定はないものの、物権の支配性・直接性ないし排他性に基づき、肯定される権利です。

制限物権にも大なり小なり認められますが、もっとも典型的なのは、所有権に基づく物権的請求権です。

関連記事:物権とは?債権との違いやその種類について
物権的請求権の根拠については、種々の学説がありますが、物権の性質論から論拠づける見解が大勢となっています。物権の性質論についてはこちらの記事をご参照ください。

以下では、所有権の場合を想定して、説明をします

物権的請求権の種類

物権的請求権は、返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権の3つに分類されます。大雑把に言えば、それぞれ次のような権利となります。

物権的返還請求権 物を「返せ」という権利
物権的妨害排除請求権 所有権侵害を「排除・除去しろ」という権利
物権的妨害予防請求権 所有権が侵害されそうな状況で「妨害されないよう予防しろ」という権利

以下、それぞれ簡単に見ていきましょう。

物権的返還請求権について

物権的返還請求権は、占有を奪われた所有者が、所有権に基づいて、物を返還せよと請求できる権利です。

物権的返還請求権を行使するための要件は、①所有者であること(物権者であること)、②相手方がその物を現に占有していることです。ここでは、相手に故意や過失があるか否かは問われません。

所有者は、現に目的物を占有する者を相手方として、所有権に基づき、その物を返せ、と請求することができます。

なお、ここでいう「占有」には、直接占有のほか、間接占有も含まれ得ます。他方、単なる占有補助者や占有機関は、相手方とはなりません。占有補助者等には独自の「占有」がないためです

物権的妨害排除請求権について

物権的妨害排除請求権は、物権が占有侵奪以外の方法で妨害されている場合に、その妨害の排除を求める権利です。

要件は、①所有者であること、②所有権が侵奪以外の方法で侵害されていることの二つです。

たとえば、自分の土地の一部に相手が長年にわたり車を無断駐車している、といった場合、土地の所有者は、無断駐車をしている者に対して、車の撤去を求めることができます。

車の駐車という方法により、土地所有権に基づく土地の利用が侵害されることから、所有者は、その排除を相手方に求めることができる、ということになります。

なお、返還請求権と同様、相手方の故意や過失は不要です。

物権的妨害予防請求権

物権的妨害予防請求権は、物権が侵害されそうな場合に、その侵害結果が発生しないよう予防しろと相手方に請求しうる権利をいいます。

要件は、①所有者であること(権利者であること)、②所有権が侵害されるおそれがあること、です。

たとえば、高地となる隣地所有者の土地がいまにも崩れてきそうだ、という場合、低地側の所有者は、その崩落を防止するための措置をとるよう相手方に求めることができます。

近年、台風などで土砂崩れなどが相次いでいますが、このような土砂崩れによって自らの土地所有権が侵害されそうな場合、事前にその予防措置をとるよう、相手に求めることができる、ということになります。

他の物権的請求権と同様、相手方の故意や過失は不要です。

物権的請求権の性質

次に物権的請求権の法的性質について述べておきます。

これは、物権的請求権が、行為請求権なのか、認容請求権なのか、という問題です。

行為請求権と認容請求権

行為請求権というのは、ある行為をせよ、と相手方に求める権利です。ある物を返還せよ、とか妨害を排除せよ、といった例です。

他方、認容請求権というのは、請求者がある行為をするのを容認せよ、という権利です。私が物を取り返すのを容認してね、とか、私が妨害を排除するのを容認してね、といった形になります。

法的性質と費用負担

ここでこの議論が問題となるのは、その費用負担が必ずしも馬鹿にならないからです。

たとえば、Aさん所有の土地上に、Bさんの建物があるため、Aさんの土地所有権が侵害されているとします。この妨害を排除するには建物の収去が必要です。そして、建物収去の費用は、数百万円から必要となるのがざらです。

そして、物権的請求権がある行為を要求する権利である場合、その建物収去の費用負担は相手方たるBさんに帰し、他方、物権的請求権が認容請求権にすぎない場合、その建物収去の費用負担は、請求者Aさんの負担に帰するという見解に行き着きやすくなります。

基本的には行為請求権

この点に関し、現在までの裁判例などを俯瞰すれば、物権的請求権が単なる認容請求権にすぎないと理解するのは現状無理であり、物権的請求権の性質は、基本的には行為請求権であると理解することになるように思います。

ただ、常にこのように考えると、権利侵害が相手方の意思によらずに発生している場合に、相手方に過剰な負担を負わせることにもなりかねません。

そこで、学説においては、権利侵害が相手方の意思によらずに生じている場合や不可抗力で生じた場合には、物権的請求権は、相手方に認容を求めうる限度でのみ行使できるなどと理解する見解が有力となっています。

物権的請求権の相手方

最後に、物権的請求権の相手方について若干補足します。

物権的請求権の相手方は、原則的には、物権を侵奪・侵害している者又は侵害しようとしている者です。

 

物権的返還請求権 現に目的物を占有している者
物権的妨害排除請求権 現に権利行使を妨害している者
物権的妨害予防請求権 権利侵害のおそれを生じさせているもの

ただ、土地上の建物が土地所有権を侵害している場合に関しては、物権的請求権の相手方の範囲を事実上広げる最高裁判例があります。

原則論・修正論ともに参考になりますので、ここで紹介しておきます。

判例(平成6年2月8日最高裁判決)~原則論~

最高裁平成6年2月8日判決は、物権的請求権の相手方につき、まず原則論を示します。

「土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである。」

「したがって、未登記建物の所有者が未登記のままこれを第三者に譲渡した場合には、これにより確定的に所有権を失うことになるから、その後、その意思に基づかずに譲渡人名義に所有権取得の登記がされても、右譲渡人は、土地所有者による建物収去・土地明渡しの請求につき、建物の所有権の喪失により土地を占有していないことを主張することができるものというべきであ」る((最高裁昭和三一年(オ)第一一九号同三五年六月一七日第二小法廷判決・民集一四巻八号一三九六頁参照)。

「また、建物の所有名義人が実際には建物を所有したことがなく、単に自己名義の所有権取得の登記を有するにすぎない場合も、土地所有者に対し、建物収去・土地明渡しの義務を負わないものというべきであ」る。

このように、判例は、原則論として、土地に関する物権的請求権の相手方は、現に建物を所有して土地を占拠しまたは侵害している者とします。

原則からの修正

ただ、上記判決はさらに次のように述べて、相手方の範囲を広げました。信義則を用いて原則を修正するものです。

「もっとも、他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできないものと解するのが相当である。」

この判旨は、いったん建物所有者となり、自らの意思で登記名義人となった者は、その登記名義を保有する限り、物権的請求権の相手方となる旨判示したものです。

同判例は、その理由として、次のように述べています。

「建物は土地を離れては存立し得ず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、土地所有者としては、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有するのであって、土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく、建物所有者は、自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由し、これを保有する以上、右土地所有者との関係においては、建物所有権の喪失を主張できないというべきであるからである。」

「もし、これを、登記に関わりなく建物の「実質的所有者」をもって建物収去・土地明渡しの義務者を決すべきものとするならば、土地所有者は、その探求の困難を強いられることになり、また、相手方において、たやすく建物の所有権の移転を主張して明渡しの義務を免れることが可能になるという不合理を生ずるおそれがある。

「他方、建物所有者が真実その所有権を他に譲渡したのであれば、その旨の登記を行うことは通常はさほど困難なこととはいえず、不動産取引に関する社会の慣行にも合致するから、登記を自己名義にしておきながら自らの所有権の喪失を主張し、その建物の収去義務を否定することは、信義にもとり、公平の見地に照らして許されないものといわなければならない」

ここまで詳細な理由付けが付されていることからすると、この判例の射程は比較的狭いかもしれませんが、それでも、物権的請求権の相手方の範囲を、信義則を用いて広げた点は、注目されます。