公信力とは?公示の原則と公信の原則の違いについて

今日のテーマは公信力についてです。読み方は「こうしんりょく」

民法の物権の教科書の最初の方に出てくる用語ですが、抽象的で、つまずきやすいテーマのひとつでもあります。

以下、この公信力と、関連概念である公信の原則及び公示の原則について併せて見ていきます。

公信力とは~意味と定義~

公信力とは、権利関係にかかる公示(外観表示)の通用力を意味します。

法律的に定義づければ、権利の存在を表象する外形がある場合に、当該権利がなくとも、その外形上の権利を信頼して取引をした者につき、当該権利が存在したのと同様の効果を認める公示の効力です。

大ざっぱに言えば、「皆さん、この外観上の権利が現にあると考えてよいですよ」、という表示(公示)の機能のことです。

ある公示に「公信力がある」という場合、当該公示に表示された権利が実際になくても、その表示を信頼した者を保護すべく、その権利を現に存在するものとして扱い得ます。

公示された外観と内容に齟齬がある場合に、外観を尊重して、外部に表示された権利がある、とする力を公信力と呼んでいるのです。

<補足>
説明に苦心しますが、例えてみます。

ここでは、宛名・宛先を間違えた封筒をイメージしてください。この封筒を郵便局に出した場合どうなるでしょうか。

当然、そこに記載された宛名・宛先に配達されますよね、そして、その配達については誰も文句はいえない。封筒の記載どおりに配達してほしいのだな、とだれが見ても思うからです。

公信力もこれ似ています。

実際の権利関係と異なっても、ある権利の外観がある以上、その外観通りに扱ってよい、とするのが公信力です。

ここでは、中身・内実は関係がありません。表示された外観通りの権利と考えてよいこととする、という公示の通用力を公信力と呼んでいるのです。

公信の原則と公示の原則

次に、公信の原則と公示の原則について見ていきましょう。

公信の原則とは

公信の原則とは、公示に公信力を付与し、公示された権利の外観を信じて取引に入った者は、たとえその外観通りの権利がなくても、法律上、その権利があったのと同様の保護を与えるべきである、という考え方です。

民法では、いわゆる即時取得について定めた第192条が動産につき公信の原則を採用しています。

同条の趣旨は、「ある物を所持している」という外観に照らし、当該占有を信頼して取引に入った者につき、占有者が真実は無権利であったとしても、その占有者が所有権を有していたのと同様の保護を与えようという点にあります。

ここでは、動産の「占有」を外観(公示)ととらえて、その外観に通用力を与えています。

参照 民法192条  
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

公示の原則とは

公信の原則に似た言葉に、公示の原則という言葉があります。

これは、物権変動を第三者に対抗するには「公示」(外観表示)を備えなければならない、という原則を指します。

民法の条文では177条が、不動産の物権変動につき登記を対抗要件とし、同178条が動産の譲渡につき、引き渡しを対抗要件とするのは、公示の原則に立脚するものです。

公示を備えておかないと、仮に物権を取得したとしても、これを「第三者」に対抗することはできません。

これは、「公示が備えられていない以上、物権変動は生じていないのだろう」という第三者側からの消極的信頼を尊重するもの(登記等の公示がない以上、第三者側が勝つものして扱う)といえます。

参照 民法177条  
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
参照 第178条  
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。

両原則が機能する場面の違いを動産を例に考える

公示の原則と公信の原則は、用語こそ似ていますが、機能する場面が異なります。

上記の通り、動産については、民法178条で公示の原則が採用され、合わせて192条が公信の原則を採用した制度を設けています。そこで、動産を例に、それぞれ機能する場面を見ていきます。

公示の原則が機能する場面

まず、公示の原則は、現に権利を取得した者が、その権利を第三者に主張するために、公示が必要という考え方です。

AさんがBさんからある動産の所有権を取得した場合、その動産取得を第三者に対抗するには、引き渡しを得ることが必要となります(民法178条)

ここでは、Bさんが実際にその動産の所有権をもともと有していた、というのが前提です。

実際に権利を取得したAが、第三者に対して権利取得を主張するという場面で公示の原則が機能します。

公信の原則が機能する場面

他方で、公信の原則は、本来、外観と実際とが異なるため、本来、外観通りの権利が取得できないはずの者が、その権利取得を主張する、という場面で機能します。

Aさんが無権利者Bさんから動産を買って引き渡しを受けたという場合、もともとBさんは無権利者ですから、Aは本来所有権を取得できないはずです。

しかし、このような場面であっても、占有という外観を信じたAさんを保護し、Bさんがもともと所有権を有していたのと同一の保護をAさんに与えよう、というのが公信の原則の機能する場面です(参照 民法192条)。

重要なポイントは、公信力は、真実と異なる権利が外観に表示されている場面(その結果として本来であれば権利取得ができない場面)で機能するという点です。

<機能する場面の違い>
・公示の原則 
実際の権利取得者が第三者に権利取得を主張する場面で機能する。

・公信の原則 
本来権利を取得できないはずの者が権利取得を主張する場面で機能する。

不動産と公信力

動産については上記の通りですが、不動産には妥当しません。以下見ていきます。

不動産登記の機能

不動産の権利関係は不動産登記によって表示されますが、通説・判例上、不動産登記には公信力はないと考えられています。

公示の原則のもと、不動産登記には、対抗力(公示力)というべき効力はあるものの、その登記を信じて取引に入った者につき、その登記上の権利があるのと同様の保護を与える、という力はないのです。

そのため、純然たる無権利者との間で不動産売買契約を締結したとしても、物権変動は生じません。

民法177条の第三者とは?不動産の物権変動の対抗要件について
民法物権法における最重要条文となる民法177条について解説した記事です。不動産登記の対抗力などについて解説しています。
<補足>
なお、不動産についても、民法177条につき、登記に公信力を与えたものだと捉える公信力説はあるものの、少数説にとどまります。

実際上、「登記には公信力はない」と断定していいレベルで、実務も動きます。

また、不動産登記については、「推定力」と呼ばれるものもあります。

推定力は、登記された権利があると推定しようという事実上の推定と理解されます。

これは、あくまで推定に過ぎず、「真実は権利がないのに権利があるように扱おう」、という実体的なものではありません。当然、反証によって破れることもあります。

公信力がない点を権利外観法理でカバーしている

上記の通り、登記には公信力はありません。

もっとも、登記を信頼して取引に入った者と、その登記(外観作出)につき帰責性のある真の権利者とを比較した場合に、前者が常に保護されないとすると取引の安全性が強く害されます。

現実的な発想として、不動産の権利関係を調べる際には、登記こそが最重要資料ですから、登記を信じた者の保護を図るべき場面というのは往々にして生じます。

こうした場合に登場するのがいわゆる権利外観法理(民法94条2項類推適用)です。

これは、真実とは異なる外観が存在し、その外観作出につき、真実の権利者に帰責性ある場合には、その外観を信じて取引に入った者を保護しようという考え方です。

たとえば、実際にはAさんが所有者である土地につき、Bさんが名義に変更し、Aもこれを知りながら容認・放置していたというような場合に、Bさんから、Bが権利者であると信じて当該土地を購入したCさんは、この権利外観法理によって保護の対象となり得ます

権利外観法理は、権利者に帰責性があることを要求する点で、公信力とは異なりますが、不動産に公信力がないための欠点(取引の安全が害されやすい)を相当程度カバーするものといえます。

権利外観法理とは?
権利外観法理について解説した記事です。帰責性と権利取得者側の主観的要件との関係などにつき解説しています。