今日のテーマは物権法定主義についてです。
民法の物権法における最初の条文である第175条はこの物権法定主義を定めたものと解されます。
以下、同条及び物権法定主義の意味及びその例外について見ていきます。
民法175条
最初に条文から見ていきましょう。
第175条 物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
第175条のタイトルは、上記の通り「物権の創設」です。
もっとも、同条は物権は・・・「創設することができない」と規定していますので、本来、条文のタイトルとしては「物権の創設禁止」などとするほうが内容と整合的かもしれません。
民法に規定される物権
同条における「この法律」は、もちろん「民法」を指します。
所有権の他、用益物権、担保物権などを併せて10種の物権が民法に規定されています。
民法が定める10種の物権の概略や物権と債権との違いについて解説した記事です。ぜひ一度ご参照ください。
「その他の法律」について
民法175条が、「この法律その他の法律に定めるほか」と規定していることからもうかがわれるとおり、「物権」が規定されているのは民法だけではありません。
民法以外の法律においても、いくつかの物権が創設されています。
たとえば、鉱区において鉱物を掘採・取得する鉱業権(金鉱で金を掘って取得するなどの権利 鉱業法)や、他人の土地の岩石等を採取する採石権(採石法)などがその例です。
その他、商事質権や商事留置権(商法)なども、民法以外の法律に基づく物権といえます。
物権法定主義とは
物権法定主義とは、法律で定められたもの以外の物権の創設を認めない、という考え方をいいます。
民法が物権法定主義を採用していることは、同175条から明らかです。
法律で定められた以外の物権を当事者が勝手に作り出すことはできないということになります。
また、物権法定主義が禁止するのは、その「創設」だけではありません。
物権法定主義の下では、法律で定められた物権につき、法律の規定内容と異なる内容を与えることもできない、と考えられています。
これを許容しては、物権の創設を禁止した意味が失われるからです。
つまり、物権法定主義の下では、新たな種類の物権を作ることはもちろん、法律で定められた物権の内容を当事者が改めることも、禁止されているということになります。
物権法定主義の必要性
では、民法で上記のような物権法定主義が採用された理由(立法趣旨)はどこにあるのでしょうか。
物権法定主義を採用する必要性の一つとしては、物権の種類を限定し、その内容を定めておかないと、物権取得者が不測の損害を被りかねないこととなるので、それを防止する、という点に求められます。
端的に考えて、所有権に、当事者以外によくわからない物的な負担が付いていると、それを買うほうとしては、買いにくいですよね。そういった不都合は排除しとこう、ということです。
また、物権法定主義が採用された理由の一つには、近代的な所有権確立のために、内容がよくわからない、あるいは不合理な内容の権利(封建的権利)を整理する必要があったという点も挙げられます。
さらに、「物権」を絶対的なものと構成するのであれば、その根拠は、法律に求められるべきである、という価値判断も物権法定主義が採用された理由の一つと考えられています。
物権法定主義の例外
もっとも、現状においては、物権法定主義の例外ともいうべき物権がいくつか承認されています。
たとえば、流水利用権や、温泉使用権、譲渡担保権などがその例として挙げられます。
以下それぞれ簡単に見ておきましょう。
上記のような権利が、物権法定主義の例外が許容されるのは、その権利を物権と認めるべき社会的必要性があり、かつ、これを認めても物権法定主義の立法趣旨が害されるものではないと言えるからです。
学説などにおいては、①その権利の内容が明確かつ合理的であり、②その権利に一定の公示方法が存在し、かつ、③その権利が慣習法ともいうべき確信に支えられている場合には、これを物権と認めても必ずしも、物権法定主義と抵触するものではない、などと説明されます。
流水利用権
水利権は、川やため池からの流水や湧水を水田などに引く権利を言います。
これを物権として承認することで、その水田及び水利権の承継取得者は、承継後も承継前と同じく、水田に水源から水を引くことが可能となります。
流水利用権は、判例上、早くから慣習的な権利として承認されていた権利です(大判大正6年2月6日参照)。
温泉権(湯口権)
温泉権も物権として判例上承認されています。
温泉使用権というのは、湯口からでる温水を使用・利用できる権利です。判例にも、源泉湧出地から引湯する権利を物権的権利として容認したものがあります(大判昭和15年9月18日参照)
温泉使用権が物権として承認される場合、これは土地の所有権とは独立した物権となります。そのため、たとえば、これに担保を付す、といったことも可能です。
また、土地所有権とは区別されることから、その譲渡・処分における対抗要件は、土地の登記ではなく、明認方法によることになると解されます。
譲渡担保権
譲渡担保権は譲渡の形式をとる担保権です。
動産を債権の約定担保とする場合、民法上の物権としては質権しか利用できません。
しかし、動産質権は、目的物の引き渡しを要件とするので、担保権設定者がその後も引き続き目的物を使用したい、という場合に適しません(抵当権は動産には利用不可。)。
そこで、占有の移転を必要としない担保として、慣習的に譲渡担保が幅広く利用されるようになりました。
判例上、この譲渡担保権も古くから物権として広く承認されています。