物権とは?債権との違いやその種類について

今日のテーマは民法が定める物権についてです。

民法典は、第1篇の「総則」に次ぐ第2編において、物権について定めています。

条文としては民法第175条から第398条の21まで。

今回はこの物権の種類やそれぞれの特徴、債権との違いについて、説明していきます。

物権とは

物権とは、一定の物に対する直接的な権利を指します。

物権を有する者は、当該物から生じる排他的・独占的に利益を享受する立場に立ちます。

物権には、その大きな特徴として①直接性・②絶対性、③排他性及び④債権に対する優先性があるとされます。

物権と債権との違いについて

次に物権と債権との違いについて見ていきます。

上記性質ごとに見ていくのが便宜ですので、以下順にみていきます

①直接性

物権の直接性とは、物権を有する者は、人の行為を介さずして、物権の対象となる物から生じる利益を享受しえます。

たとえば、ある物の所有権を有する者は、ほかの人の行為を介さずに、その所有物を利用したり、その物から生じる果実を収受したりすることができます。

ほかの第三者の行為を前提とせず、所有者がその利益を享受できるのです。

他方で、物権と対比される債権は、人に対する権利です。人の履行義務を観念し、その履行を求めるのが債権となります。

<補足>
上記の点に関し、「土地の利用」という観点からもう少し補足します。物権の一つに「地上権」という権利があります。これは平たく言えば、これは土地の利用権です。一度権利を得た地上権者は、以後、直接その土地を利用する権限を有するものと観念されます。

他方、同じく、土地利用を内容とするである賃借権(債権)についてみると、借主は、土地を利用させるという貸主の行為を介して、土地を利用している、と観念することになります。

物権と債権とでは、同じような内容を有するものであっても、権利の対象が物に対する直接の支配なのか、人に対する権利にすぎないのか、という点で大きく異なると考えてください。

②絶対性

また、物権はある物に対する直接の権利ですから、だれに対しても主張しえます。

たとえば、ある物の所有者は、自分以外の第三者に対しては、だれにでもその所有権を主張できます。

これを物権の絶対性といいます。

他方で、債権は、人に対する権利ですから、原則として、債務者に対してのみ主張することが可能な権利と把握されます。

物権の絶対性に対して、これを債権の相対性といいます。

③排他性

また、物権には排他性があります。

これは、同一の物の上には、互いに相いれない物権が成立しえない、という性質を指します。

ある物に対して、Aさんが完全な所有権を有するという場合、この物に対してその他の人物が所有権を有するということはありません。

Aさんの所有権と相いれないからです。

他方で、債権については互いに相いれない同一の権利も成立しえます。

Aさんが、Bさんに1対1で英語を教えるという契約をした後、Aさんは、Cさんに対しても同じ日・同じ時間帯に1対1で英語を教えるという契約を締結することができます。

この二つの契約は、事実上、相いれませんが、権利としてはいずれも成立します。

Aさんは、BさんかCさんのいずれかに対して英語を教えるという債務を履行することはできませんが、これは債務不履行の問題(Aさんの責任問題)として処理されるにすぎません。

④債権に対する優先性

また、その内容において両立しえない物権と債権とが衝突した場合、物権が優先します。

これを物権の優先性と言います。

たとえば、AさんがBさんに貸していたしていたAさんの所有動産を、Cさんに売ってしまったとします。この場合、AさんからCさんにその動産の所有権が移転します。

上記の通り、物権は、債権に優先しますから、Cさんの所有権がBさんの賃借権(ないし使用貸借権)に優先し、Bさんは賃借権(ないし使用貸借権)をCさんに主張できなくなります。

債権の違いを整理

以上のように、物権には、①直接性・②絶対性、③排他性及び④債権に対する優先性という特徴があります。

物権と債権との主要な違いも、この①から④に対比させる形で理解することが可能です。

物権 債権
権利の態様 物に対する直接の支配権 人に対する履行請求権
権利の相手方 誰に対しても主張できる(絶対性) 特定の人(債務者)に対して主張できるのみ(相対性)
他の権利との関係 相対立する物権は成立しない(排他性)。 相対立する債権であっても成立しえる
債権との関係 物権は債権に優先する
<補足>
なお、特別法により、債権が物権的な効力を有する場合があります。たとえば、不動産の賃借権については、借地借家法により物権化が図られています。こうした特別法が存する場合には、物権と債権との違いは相対化され、債権も物権的に機能しえます。

物権の種類について

さて、次に民法が定める物権の種類について見ていきましょう。その種類を講学的に整理すると次のようになります。

本権と非本権について

一番大きな分類は、本権と非本権によって種類分けをするものです。

本権というのは、占有や、物に対する権利行使を実質的に正当化する権利を指します。一般的な権利として把握されるのが本権です。

他方で、非本権たる占有権は、占有の意思を持って、ある物を所持しているという「事実状態」によって生じる権利です。

単に自己のために物を所持している(それを実質的に正当化する権利の有無を問わない)というだけで発生する極めて観念的な権利です。

<補足>
物権の中でもっともイメージが沸きにくいのは占有権かもしれませんので例を補足します。たとえば、ジャイアンが「俺の物は俺の物、お前の物も俺の物」といってのび太の持っていた道具を取り上げて持って帰ってしまったとしましょう。

こうした場合、ジャイアンには、のび太が持っていた道具を所持する正当な権利は本来ありません。

しかし、このような場合でも、ジャイアンには占有権が認められます。ジャイアンが事実としてその道具を支配しているからです。

このような事実上の支配だけで成立する、という点が理解のポイントになります。

所有権・用益物権・担保物権について

次の、所有権・用益物権・担保物件について見ていきます。

所有権について

所有権というのは、いわずもがな、ある物の所有を正当化する権利です。

所有権者は、その物の使用・収益・処分の利益を有します。

物権の王様であり、上記に述べた物権の性質が最も典型的に作用します。

用益物権について

用益物権というのは、土地に対する権利であって、その土地から一定の便益を得ることができる権利です。

平たく言えば、その土地を利用できる権利のことを指します。

用益物権には、地上権、地役権、永小作権、入会権の4種があります。

地上権 工作物又は竹木を所有するため、他人の土地を使用する権利
地役権 他人の土地(承役地)を自分の土地(要役地)のために利用する権利
永小作権 耕作・牧畜をするため、小作料を支払って他人の土地を使用する権利
入会権 村落などの共同体が、山林原野において土地を総有的に支配する権利

入会権はやや特殊ですが、用益物権は、「他人の土地を利用できる権利」である、という点に特色があります。

所有権との関係でいえば、用益物権は、ある物の所有者が、その物を使用することによって得られる利益の一部を、他人のために切り分けて与えたものと観念されます。

関連記事:用益物権とは~制限物権との違いやその種類等について~
用益物権につき、もう少し細かく知りたい、具体例などを知りたいという方はこちらの記事をご参照ください。

担保物権

担保物権は、ある債権を担保するために設定される権利です。

担保物権は、保証人の物権バージョンのようなもので、保証を人的担保というのに対して、担保物権のことを物的担保ということもあります。

担保物件の中でも、売買や物の修理などがあった場合に法律上自動的に発生するものを法定担保物権と言います。

法定担保物権には、留置権と先取特権とがあります。

他方、当事者の合意で発生する担保物権のことを約定担保物権と言います。

民法の明文で規定された約定担保物権には、質権と抵当権の2種があります。

留置権 目的物を債権者が留置する法定担保物権
先取特権 債権者が特定の財産からほかの債権者よりも優先弁済を受けられる法定担保物権
質権 目的物の引渡しを要素とする約定担保物権
抵当権 不動産に対する約定担保物権で、債権者が占有しないもの

用益物権が、目的物の利用を主たる対象とするのに対し、担保物権は目的物の価値を主たる対象とするものです。

慣習法上の物権

民法が明文で定める物権は、上記の通りですが、慣習によって成立する物権というのもあります。

用益物権について見れば、温泉使用権などがあります。

また担保権について見れば、譲渡担保権や所有権留保などがその例です。

また、かつて慣習法上の権利とされていたものの一つに仮登記担保権と呼ばれるものがあります。

この仮登記担保権は、現在においては立法により物権性が認められています。

温泉使用権 ある土地に存する温泉源を利用する権利
譲渡担保県 所有権移転の形式をとった約定担保権
所有権留保 担保のために、引き渡しを終えた商品等につき、代金完済まで売主に所有権を留保する権利
仮登記担保権 担保のために代物弁済予約などの仮登記をした権利

物権法の理解のために

物権法を理解するためには、債権との違いを意識して、物権の性質を抑えるのが第一歩です。

その上で、各物権が有するそれぞれの特徴を抑えていきましょう。その際には、物権のどの性質がクローズアップされているのかを把握することで、その理解は格段に深っていくはずです。

本記事がその一助となれば幸いです。以上、「物権とは?債権との違いやその種類について」でした。