今回のテーマは要物契約についてです。
実務というよりは講学上の概念として学ぶことが多いかもしれませんが、覚え方を含めて、一度は押さえておきたい概念ですね。
なお、平成29年民法改正時に、従来、要物契約とされていた幾つかの契約類型が諾成化されました。
要物契約の理解を深める上で貴重な具体例となりますので本記事でも紹介します。
要物契約とは
要物契約とは、その成立に、意思表示の合致のほか、目的物の引き渡しや交付を要する契約のことをいいます。
契約は、当事者の申込と承諾だけで成立するのが原則ですが(民法522条第1項)、要物契約の場合、その成立にはさらに、物の引き渡しや交付が要求されます。
目的物の引き渡しが契約成立の要件(条件)になっているわけです。
諾成契約と要式契約との比較
上記の通り、要物契約は、その成立に物の引き渡しや交付を必要とするものですが、これに対して、物の引き渡しなどを要さず、合意だけで成立するものを諾成契約(売買や賃貸借など)といいます。
民法をはじめ、世の中のほとんどの契約がこれに該当します(例としては売買や賃貸借など)
また、要物契約に相似のものとして、要式契約があります。
これは、その成立に際して書面を作成しなければならないなど、一定の方式に従うことが要求されるものを指します。
書面によらなければならない契約の例としては連帯保証などがあります。
諾成契約については、こちらの記事でも解説しています。要物契約との違いに関し理解が深まると思いますので、ぜひご一読ください。
要物契約であることの意味・効果
要物契約であることがどういう意味・効果をもたらすのか、売買を例に考えてみましょう。
売買は諾成契約ですので、その合意が成立するだけで、買主は売主に対して目的物を引き渡せ、と請求できます(もちろん、お金は支払わないといけませんが)。
売買が成立しているので、その効果として、買主は売主に対して目的物を引き渡せという権利を取得するからです。
これに対して、仮に売買が要物契約だったと仮定した場合、買主は売主と合意ができたというだけでは、目的物を引き渡せと請求できません。
なぜなら、この場合、買主はいまだ、物の引き渡しを受けていないので、売買が成立したとはいえず、法律上の効果が発生しないからです。
要物契約の具体例(質権・消費貸借)
改正民法の下で、要物契約の具体例となるのは、原則的な消費貸借や動産に対する質権設定契約です。
消費貸借=お金の貸し借りなど(金銭消費貸借契約など)
動産質権設定=宝石などを担保とするなど
それぞれ、条文をそれぞれ確認しておきましょう。
質権設定については344条、消費貸借については、587条に規定されています。その文言において、物の引き渡しや交付が条件となっていることをご確認ください。
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
民法587条<消費貸借>
消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
ちなみに、消費貸借については、改正民法により、書面によるものについては、要物性が要求されなくなりました。
そのため、改正民法典においては、消費貸借は、要物契約であるものと、そうでないものの二種が規定されていることになります。
前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
改正民法による諾成契約化
平成29年の民法改正により、従前、要物契約と構成されていたものの幾つかが見直されました。
消費貸借と寄託
まず消費貸借と寄託について確認しておきます。
平成29年改正民法前は、典型契約の中では、上記の消費貸借の他、使用貸借と寄託が要物契約として構成されていました。
しかし、改正民法において、使用貸借と寄託はいずれも諾成化されました。それまで物の交付が成立要件となっていたのに、改正民法においてこれが不要とされたのです。条文の変化については、前述の関連記事「諾成契約とは」をご参照ください。
ちなみに、典型契約の中で、限定的ながらも要物性が唯一維持されているのが、上述した消費貸借です。典型契約の内、要物契約は消費貸借だけ。覚えやすいですね。
代物弁済について
また、代物弁済契約も、平成29年改正民法前は、要物契約と解されていましたが、改正民法においては、その成立につき要物性が否定されるに至っています。
その結果、代物弁済の成立自体に物の引き渡し・給付は要しないこととなりました(ただし債権消滅の効果の発生には物の引き渡しが必要)。
改正前民法と改正後も民法を比較しておきましょう。諾成化にかかる文言の変化が読み取れると思います。
債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する
改正後の民法482条
弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。