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諾成契約とは

今回のテーマは「諾成契約」についてです。読み方は「だくせいけいやく」。

契約の種類または性質を示す用語として、民法の教科書やビジネス書でもたびたび出てくる基本用語ですので、一度は押さえておきましょう。

以下、その定義や意味、具体例などを見ていきます。

諾成契約の定義と「合意のみ」による契約の成立

「諾成契約(だくせいけいやく)」とは、当事者の一方の「申込み」と、それに対する相手方の「承諾」という、当事者の意思表示の合致のみによって成立する契約を指します。

民法において、多くの契約がこの形態をとっています。まず、その代表格である「売買」の規定を見てみましょう。

民法第555条(売買)

売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

ここでのポイントは、「~を約することによって、その効力を生ずる」という文言です。この「約する(約束する)」とは、合意を意味します。つまり、民法は売買契約の成立要件として、物の引き渡しや代金の支払いではなく、単に「お互いが約束(合意)すること」だけを要求しているのです。これが諾成契約の定義そのものです。

具体例として、ネットオークションを考えてみましょう。出品者が商品を出品し、入札者が落札した瞬間、たとえ商品がまだ出品者の手元にあり、代金も支払われていなくても、売買契約は有効に成立します。この「契約が成立している」という状態こそが、諾成契約の法的効力なのです。

要物契約・要式契約との対比と「成立要件」

諾成契約を理解するためには、契約の成立のために「合意以外」の要件を求める他の契約類型との違いを明確にする必要があります。

まず、書面等の「方式」を要求する「要式契約」についてです。

民法第446条第2項

保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。

この「書面でしなければ、その効力を生じない」という文言は、合意だけでは不十分であり、書面という方式を備えて初めて契約が成立する(要式契約)ことを意味します。もし、保証契約を口頭だけで済ませてしまうと、法律上は契約が成立しておらず、債務を履行する義務も発生しません。

次に、物の引き渡しを要求する「要物契約」についてです。

民法第587条(消費貸借)

消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

消費貸借(お金を借りる契約など)は、原則として「物を受け取ることによって」効力が生じます。単に「貸します」「借ります」と約束するだけでは足りず、現実に金銭等の交付がなされて初めて契約が完成する、これが要物契約の論理です。

この対比を整理すると、以下のようになります。

契約の種類 成立要件 条文の文言の傾向
諾成契約 合意のみ 「~を約することによって、その効力を生ずる」
要式契約 合意+書面等の方式 「~でなければ、その効力を生じない」
要物契約 合意+物の引き渡し 「~を受け取ることによって、その効力を生ずる」

「黙示の合意」による諾成契約の成立と論点

諾成契約において最も誤解されやすいのが、「諾成契約=口頭契約」という認識です。しかし、法律上は、言葉を発しなくても契約は成立し得ます。

例えば、バスに乗車するケースです。乗客はバスに乗り込み、運転手はそれを許諾して発車します。ここには「運送契約」が成立していますが、個別に「運送契約を締結しますか?」「はい、締結します」という会話は行われません。これを法律学では、行動の積み重ねから契約の意思が読み取れる「黙示の意思表示」による合意と解釈します。

ここで生じる論点は、「どのタイミングで契約が成立したと言えるか」という点です。バスの例では、乗客がバスに足をかけた瞬間なのか、あるいはドアが閉まった瞬間なのか、その判断は具体的な事案により異なります。もし契約が成立していないと解釈されれば、万が一事故に遭った際の損害賠償責任の法的構成(債務不履行責任か不法行為責任か)が変わってくるため、実務上は非常に重要です。

また、改正民法により、かつて要物契約とされていた「使用貸借」や「寄託」も、現在は諾成契約として構成されています。

民法第593条(使用貸借)

使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

このように、条文が「引き渡すことを約し……返還することを約することによって」と改正されたことで、合意のみで契約が成立することが明文化されました。結果として、消費貸借などの特殊なケースを除き、現代の民法における典型契約のほとんどが諾成契約となっているのです。