諾成契約とは

今回のテーマは「諾成契約」についてです。読み方は「だくせいけいやく」。

契約の種類または性質を示す用語として、民法の教科書やビジネス書でもたびたび出てくる基本用語ですので、一度は押さえておきましょう。

以下、その定義や意味、具体例などを見ていきます。

諾成契約とは

諾成契約とは、当事者の申込みとこれに対する承諾のみによって成立する契約です。

もう少し具体的に言えば、当事者の合意のみによって成立する契約で、契約をしたいという一方当事者の申込みに合致する承諾の意思表示だけで、他の要件を問わず有効に成立する合意のことを指します。

売買や、賃貸借、雇用、保険契約等がその例です。

保険契約個人間や会社・企業間など、契約の主体を問わず、諾成契約は、意思表示の合致によって成立します。

要式契約・要物契約との違い

諾成契約と対義語的に対置されるのは、要式契約、特に要物契約です。

要式契約について

要式契約というのは、その成立につき、一定の方式を要するものです。

たとえば、連帯保証契約などを有効に成立させるのは、書面で合意をすることが必要になります。

契約を有効に成立させたいなら、契約書などの書面を作成しなさい、と法律がその方式を要求しているわけです(民法446条第2項)。

諾成契約においては、方式に関するこのようなルールの順守は求められません。

第446条  保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2  保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3  保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

要物契約について

要物契約というのは、その成立に目的物の引き渡しを要するものをいいます。

たとえば、金銭を無償で人に貸す(消費貸借)なんかは、原則として、その目的物を引き渡したことが成立条件となります(民法587条。なお例外として同587条の2参照。)。

有効に成立したと言えるために、目的物の引き渡しが必要となる点が、諾成契約との違いです。

関連記事:要物契約とは
諾成契約の理解を深めるためには、要物契約についての理解を深めることが近道となります。本記事と併せて合わせてぜひご参照ください。
消費貸借について
なお、民法改正前において、消費貸借は、要物契約の典型例とされていましたが、民法改正により、書面でする消費貸借については、物の引き渡しなくして成立するもの、とされています(民法587条の2)。ご注意ください。

以下、参考条文として、民法587条及び587条の2をあげておきます。

(消費貸借)
第587条  消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

(書面でする消費貸借等)
第587条の2 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

諾成契約か否かの判断

何が諾成契約で、何が要物・要式契約かは主として条文の規定の仕方から判断します。

たとえば、保証について定めた民法446条2項では、「書面でしなければ効力を生じない」とあるから、書面という方式が求められる要式契約だと判断することになります。

また、消費貸借についてみると、587条において「相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」とあるから、実際に目的物の引き渡し(受け渡し)が契約の成立条件となる要物契約だ、と判断することになります。

他方で、条文がその文言において、単に「~を約することによって」効力が発生するなどと規定している場合には、諾成契約と判断されます。念のため、売買に関する民法の規定をあげておきます。条文の規定の仕方をご確認ください。。

民法第555条  売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

口頭の合意(口約束)との違い

上記のように、諾成契約の成立には、何らの要式も求められませんし(非要式性)、目的物の引き渡しも要求されません(非要物性)。

口頭の合意だけでも成立します。「約束」と「契約」の違いを一旦横においておけば、口約束でもOKなわけです。

ただ、このように書くと、結局、諾成契約って口頭合意、口約束で成立する合意と同じ?と考える方がいらっしゃるかもしれません。

確かに、大枠そのように考えて差し支えない場面が多いのも事実です。しかし、厳密に言うと、諾成契約=「口頭合意による契約」ではありません。

というのも、諾成契約は、口頭での合意すらなくても、成立しうるからです。ここでは「口頭で」という方式・ルールすら存在しません。

たとえば、公共バスに乗るような場合、バス会社と乗客との間では、運送契約が成立していると解されます。

でも、運転手さんと乗客が口頭で合意をする場面なんてまずないですよね。あるのは、バスに乗ろうとするお客の行為と、お客を運ぶ運転手の行為等だけ。それでも、ここでは契約は成立していると解されます。

種々の解釈はあるものの、態度等によって、黙示の意思表示が合致していると解されているのです。

諾成契約の性質の理解に際して、重要なことは、意思表示の合致だけで成立するという点にあります。「口頭で」という要素すら、諾成契約の定義の要素にはなりません。

諾成契約と解除

申込みと承諾のみによって有効に契約が成立するということの意味は、その合意に法的拘束力が生じる、という意味になります。

したがって、有効に合意が成立した場合、これを解除するには、一般的な解除の要件を満たすことが必要です。

契約も簡単に成立するから、その解除も簡単なのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、書面を作成していない、契約の目的物を交付していないなどの事情は、解除の要件を緩和する一般的な事情とはなりません(ただし、後述の改正民法593条の2(使用貸借)や667条の2(寄託)については注意。)。

そのため、諾成契約であっても、現に合意をする際には、容易には解除できない、ということを念頭に、慎重な検討をしておくことが必要です。

典型契約と諾成契約

最後に、改正民法が定める典型契約の内、諾成契約とそうでないものを整理しておきましょう。

民法が定める典型契約
①財産移転型
贈与、売買、交換

②貸借型
消費貸借、使用貸借、賃貸借

③労務型
雇用、労働、委任、寄託

④その他の類型
組合、和解、定期金

結論を述べれば、改正民法典における典型契約は、上述した消費貸借を除いて諾成契約です。

この点、改正前民法においては、使用貸借、寄託契約は要物契約とされていました。しかし改正民法化では、いずれも、諾成契約として構成されています。

結局、民法の典型契約をみると、その内、消費貸借のみ、諾成契約ではないということになります。とても覚えやすくなりました。

以下、参考までに、使用貸借と寄託に関する該当条文のみ、あげておきます。

<使用貸借について>
民法第593条(使用貸借)  
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

(借用物受取り前の貸主による使用貸借の解除)
第五百九十三条の二 貸主は、借主が借用物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による使用貸借については、この限りでない。

<寄託について>
民法第657条(寄託) 
寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

民法657条の2(寄託物受取り前の寄託者による寄託の解除等)
第1項 
寄託者は、受寄者が寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、受寄者は、その契約の解除によって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。
第2項
無報酬の受寄者は、寄託物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による寄託については、この限りでない。
第3項
受寄者(無報酬で寄託を受けた場合にあっては、書面による寄託の受寄者に限る。)は、寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず、寄託者が寄託物を引き渡さない場合において、相当の期間を定めてその引渡しの催告をし、その期間内に引渡しがないときは、契約の解除をすることができる。

関連記事:契約とは
契約と約束との違いや、分類などを解説した記事です。諾成契約に関する理解も深まると思いますので、ぜひ一度ご参照いただけますと幸いです。