今回のテーマは出世払いについて。
この用語は、日常用語としても使われますよね。「学費などを工面する際に、将来、出世したら返してくれ、出世払いでいいから」といった使われ方をします。
この出世払い、法律的にはどういう意味でしょうか。
出世払いとは
出世払いとは、受領した一定の給付につき、将来出世した際に返還ないし弁済をすることをいいます。
冒頭例に挙げた通り、出世払いでよい、などと金銭などを工面してくれた方から、支払いを猶予する趣旨で約束されることが多いと思われます。
「出世払いでお願いします」は法律上OKか?
上記のように、出世払いは、金銭などを工面してくれた方からの申し出によるのが一般的です。
お金を支援してもらう、出してもらう方ほうから、「出世払いでお願いします」というのは、ちょっと、厚かましいと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、法律上は、自分から、相手に出世したら払うから、と申し入れを行い、相手がこれに同意をすれば、出世払いの合意は成立します。
互いに出世払いとすることで合意が成立しているか否かがポイントになるので、法律上は、どちらから出世払いとする旨の申し入れがなされたかは、あまり意味を有しません。
出世払いの法的な性質
さて、出世払いが、民法の教科書に出てくるのは、出世払いの意味をめぐってです。
一番問題になるのは、出世しなかったらどうなるのか、という問題。出世しなかった場合、援助を受けた側は、これをずっと払わなくてよいのか否か。
不確定期限を定めたもの
この点につき、入門的な教科書やインターネットなどにおいては、「出世払い」の合意は、不確定期限を定めたものである、との説明がされています。
不確定期限とは
ここで不確定期限とは、将来到来することは確実だが、その時期が定まっていないものをいいます。
たとえば、次に雨が降ったら傘を買ってあげると約束した場合に、「次に雨が降ったら」の部分が不確定期限です。いずれ雨が降ることは確実だが、いつになるのかその時期が不確定であるため、不確定期限と評価されます。
これに対置されるのが確定期限で、「来週の月曜日になったら傘を買ってあげる」などと定めるものです。来週の月曜日という確定した時期に傘を買ってあげることが約束されているので、この約束は、確定期限のついた約束、ということになります。
出世払いと不確定期限
さて、不確定期限というのは、あくまで期限であって、将来到来するのが確実とされるものです。
そこで、出世払いにつき不確定期限を定めたものである、ということの意味は、出世する・しないが定まる時期になったら、必ず返還しなければならない約束がなされている、との意味になります。
もっといえば、確定的に期限は決めないが、いずれは働いてちゃんと返せよ、との意味合いになるわけです。
本来は合意事項
出世払いにつき、上記のような説明がなされているのは、大審院大正4年3月24日判決が、「将来出生の際には返還」するとの合意につき、不確定期限を定めたものと解したからです。
ただ、本来、合意の内容は当事者間で決めるべき事柄です。
出世払いの約束がなされた際の協議の内容や、合意の時期、将来の見通しいかんによっては、出世払いにつき、文字通り、出世したことを条件とする合意がなされている、との評価を受けることもありえます。
たとえばですけど、ある専門学校の学生Bが難関な資格の取得を目指すというので、Aは学費としてBに30万円を貸すこととした、その際、出世払いの合意をしたとしましょう。
また、Aは、援助した側は、その学生が資格を取って手に職を付けたら、利息を付けて支払ってもらうつもりでいたが、資格が取れなければ返してもらうつもりはなかった、学生の方もそのつもりでいたとしましょう。
こうしたケースにおいて、当事者の意思を探求すれば、この、出世払いの合意は、不確定期限を定めたものではなく、単純に出世したら払う、という条件を定めたもの、と解釈する余地が出てきます。
何を言いたいのかのかといえば、出世払いの合意=不確定期限ではなく、その合意の意味は、当事者の意思を探求して認定されるべきもの、ということです。
上記大審院判例の存在が、個別合意の解釈自体に影響を及ぼしうること否定するものではありませんが、出世払い合意だからと言って一概に、不確定期限を定めたものとまではいえず、「条件」を定めたものと解されることもあるのです。その法的な性質は、個別事情に応じて、判断することになります。
法律に言う「条件」については、停止条件、解除条件の意味も含めて、こちらの記事で解説していますので、一度ご参照いただければ幸いです。「出世払いを条件の合意とする」との意味の理解が一層深まるはずです。
補足 旅行代理店に対する出世払い
旅行代理店の出世払いプランについて補足します。これは、大学生等を対象に、出世払いプランなどと銘打って、卒業旅行の費用の工面を可能にしうるサービスです。
この出世払いプランの仕組みですが、概してクレジット契約です。
要するに、旅行の際に、クレジット会社に旅行代金を立て替えてもらい、卒業後、就職したら、立て替えてもらった旅行代をクレジット会社に払います、という内容の合意をすることになります。
クレジット会社との関係を見ると、支払開始の時期も確定しており、単に支払開始の期限が猶予されているだけ、との整理が可能内容に思われます。
このプランは、上記に述べた「出世払い」の法的性質の議論とは全く異なりますのでご注意ください。
出世しなかったら払わなくてよいとか、そういう性質のものではありませんので、念のため補足しておきます。