今回のテーマは民法上の「代理」についてです。民法総則の中でも最も重要なテーマのひとつ。
また、意思表示の瑕疵などと比べると、日常生活やビジネスにおいても、代理行為は多々行われており、実務においても重要な概念となっています。
また、この用語は日常的にもしばしば使用されます。
「代理で出席しておいて」などの用いられ方をしますが、これは「本人に代わって」という意味合いで使用されています。
法律的な意味合いも、基本的にはこれと同様です。以下、実生活・実務的観点も交えながら、基礎知識を解説していきます。
代理とは
代理とは、本人に代わって、第三者が代理権に基づいて、本人のために意思表示をし、または意思表示を受けることを指します。
民法においては、自分が行った行為の効果は自分に効果が帰属するのが原則ですが、代理としてなされた一定の行為は、本人に直接効果帰属します。契約の効果などが帰属する主体が本人になる、ということです。
代理の対象となる法律行為
代理の対象となるのは法律行為です。
たとえば、代理人が本人に代わって売買契約の買主たる立場で契約した場合、本人に売買契約の効果が帰属します。
本人は、買主として売買代金を売主に支払義務を負いますし、売主に対して、売買契約に基づいて、商品を引き渡せと請求することが可能です。
また、上記の例は相手方との合意・契約に関するものですが、代理行為が可能な法律行為は、契約に限られず、単独行為も含まれます。
たとえば、債務整理に関して、弁護士が本人に代わって、時効援用の意思表示をしようとする場合などがその例です。
この場合、時効援用の効果は本人に直接帰属します。本人が時効援用を行ったのと同様の法律効果が発生する、という意味です。
意思表示を行う場合・受ける場合のどちらも対象となる。
また、意思表示をすること・意思表示を受けること、いずれも代理権の対象となりえます。
たとえば、未成年者に代わって親権者が契約などの意思表示をしようとする行為は前者であり、他方、未成年者に対して行われる意思表示を親権者が受ける場合が後者です。
- 能動代理
代理人側が意思表示をする場合を特に、能動代理といい(民法99条1項)ます。
例:弁護士が、本人に代わって意思表示を通知する。 - 受動代理(相手から受ける)
反対に、代理人が意思表示を受ける場合を受動代理(同2項)といいます。
例:弁護士が、相手方から相殺の意思表示を受ける。
第1項
代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
第2項
前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。
私的自治の補充的機能
ここで、代理権制度がもつ機能について触れておきます。一つ目は私的自治の補充的機能です。
たとえば、未成年者など行為能力を制限される制限行為能力者についてみると、制限行為能力者は、単独で有効な法律行為をなしえないのが原則です。
しかし、これでは、制限行為能力者が行いうる経済的活動は非常に狭いと言わざるを得ません。
たとえば、未成年者だって、銀行に預金をしようとするときは銀行口座を作る必要があります。しかし、単独でこれができないとなると、相当に不便です。
そこで、本人に代わって法律行為を為しうる仕組みが重要になります。
未成年者の場合は、法定代理人が本人に代わって、本人の名義の預金口座を作成することができます。
ここでは、親権者たる法定代理人が与えられた権限を行使することにより、制限行為能力者を補助することで、制限行為能力者の活動範囲を大きくすることが可能となっているわけです。
代理制度のもつこうした機能を「私的自治を補充する機能」といいます。
私的自治の拡張的機能
代理のもつもう一つの重要な機能は、私的自治の拡張機能です。
量的拡張
人間の時間・行動範囲は有限ですから、法律行為をすべて自分で行わなければならないとすると、人の活動範囲は極めて限られたものになってしまいます。
社会人にとっては、この拡張機能は比較的わかりやすいと思います。
例えば、平日常に忙しく仕事を抱えた方は、なかなか、日中、自分のために動くことができません。住民票取りに行くのすら厳しいときありますよね。
そんなとき、代理人を立てることで、活動の量を拡張することが可能です。
質的拡張
また、人には誰しも得手不得手がありますが、すべての法律行為を自分で行わなければならないとすると、不得手な部分についてまで自ら行わなければならない、ということになりその活動は萎縮的なものになりがちです。
他方、能力の高い代理人に一定の事務処理を委託することで、本人はその活動範囲を大きく広げることが可能です。
専門家に委託することで、本人が不得手な分野においても、本人は高度な判断による利益を享受しえるわけです。
たとえば、不動産売買や複雑な訴訟において、専門家(代理人)を介在させることで、本人は高度な判断の果実を得ることができるのです。
「他人」の行為を本人に効果帰属させるこの代理制度は、量的・質的に、私的自治を大きく拡張する機能を有しているといえます。
ここで少し補充。民法上の代理は、代理人による意思表示を媒介にするものです。
そのため①意思表示を媒介としない事実行為や不法行為についてはなじみません。
また、意思表示を介在するものであっても、特に本人の意思が重視される身分行為には親しまないとされています。
身分行為が問題となる場面については、私的自治の補充や拡張をすべき要請が小さいとも言えます。
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× 代理できないもの(事実行為・不法行為): 車の運転、壁のペンキ塗り、不法占拠(「代わりに殴ってきて」は不法行為であり、効果帰属云々の話ではない)。
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× 代理できないもの(一身専属的な身分行為): 婚姻、離婚、認知、遺言(本人の真意が絶対的なため)。
法律構成(代理の根拠)
ここで少し講学的な話になります。それは、代理人が行った行為が、どうして本人に効果帰属するのか、という問題。
代理権制度に依拠
民法では、私的自治の原則のもと、自分で行った行為の効果は自分に帰属しますが、他人が行った行為の効果は、自分には帰属しないのが原則です。自分のことは自分で決められる、という大原則があるわけです。
それなのに、他人が行った行為につき、なぜ本人にその効果が帰属するのでしょうか。専門的な言い方をすれば、他人効が生じるのはなぜか、という問題です。
もったいぶってもしょうがないので端的に答えを言いますが、答えは、「代理権があるから」です。
上記の問題についてはいろいろ学説ありますが、代理権に基づいて行われた行為につき、本人に効果が帰属することを法律が承認しているから、と理解しておけば十分だと思います。
顕名説
なお、反対的な見解に、顕名説という考え方があります。これは、「代理人が本人の名前を示したこと」に他人効の根拠があるという見解です。
しかし、法は、「本人の名前を示していない場合」でも、本人に効果が帰属する場合(他人効がある場合)が存在することを前提としており(民法761条、商法504条)、顕名説に対しては必ずしも代理の本質を捉えていないのではないか、との批判が妥当しえます。
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
※判例により、日常家事債務の前提として、夫婦間には日常家事に関する代理権が相互に存する、と解釈されています。
代表・使者との違い
民法規定の代理に類似する制度・概念に、①代表と②使者というものがあります。
① 代表との違い
まず、代表についてです。「代表取締役」とか「代表理事」などといいますよね。
この代表というのは、会社や組合など、「組織」の機関の一つになります。
たとえば、会社の社長は、代表取締役として会社の業務に関する一切の権限を有します(会社法349条4項)。
また、マンション管理組合の理事長は、組合のために組合を代表して契約をするなどの権限を有します。
そして、上記のような代表の行為は、その組織に法律上の効果を及ぼします。その意味で、代表は代理と類似します。
もっとも、代表としての権限の行使は、会社の機関として行われていると観念されます。
つまり、代表者の行為は、その組織自身がその行為を行ったものと観念されて、会社に効果を及ぼすのです。
② 使者との違い
また、「使者」という概念もあります。
使者は、本人の意思表示をそのまま相手に伝達したり、相手の意思表示をそのまま本人に伝えたりする者をいいます。
代理人は、権限の範囲内において意思決定・判断を行う役割を有しますが、使者は、本人や相手が行った意思決定を伝える役割を有するにすぎません。
使者は、伝書鳩のようなもので、自分で、法律行為の内容を変えたり、決定したり、という権限を有しません。
誰が意思決定を行うのかという点で、観念上、両者には大きな違いがあります。
代理権の消滅について
最後に、代理権の消滅についても言及しておきます。
代理が有効であるためには、その行為が行われた時点において権限が存在することが必要です。そして、いったん与えられた代理権は、永久不滅のものではありません。一定の事由により消滅します。
- 一つは、権限を授与した本人がお亡くなりになった場合です(民法111条1項1号)。
ただし、商行為や不動産登記手続きなど、一部のケースでは死後も代理権が消滅しない例外があります。 - また、代理人がお亡くなりになった場合や、破産手続開始の決定を受けたり、後見開始の審判をうけたりした場合にも消滅します(同2号)。
- さらに、任意代理権は、権限授与の原因となった委任が終了した場合も消滅します(同2項)。
たとえば、弁護士に契約交渉・締結を委任していたというケースで、依頼者が弁護士を解任すると、代理権も消滅します。弁護士側が辞任をしたケースも同様です。以後、元代理人(弁護士)、本人に代わって意思表示をしても、当該意思表示は本人に効果帰属しません。
代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
同第2項
委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。