債務不履行という大きな山の中でも、特に「やり方は不十分だったけれど、一応は何かをしてくれた」という不完全履行の状態は、実務上も非常によく遭遇するテーマです。
今回は、この不完全履行があった場合に、債権者が「本来受けるべきだった完全な状態」を取り戻すための追完請求を中心に、その効果を見ていきます。
不完全履行における「追完」の基本原則
不完全履行とは、債務者が一応の給付(履行)はしたものの、その内容が契約の趣旨に照らして不十分である状態を指します。このとき、足りない部分を補って「完全なもの」にすることを追完(ついかん)と呼びます。
条文(民法562条1項)
(買主の追完請求権) 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主の不相当な負担にならないときは、買主が請求した方法と異なる方法によって履行の追完をすることが請求できる。
解説
条文の「契約の内容に適合しない」という言葉が重要です。これは、単に物が壊れている場合だけでなく、契約で約束したスペックを満たしていない場合も含まれます。
不完全履行のタイプが「①給付内容自体に不完全な点がある場合」(例:届いたパソコンのメモリが注文より少ない、傷がある等)であれば、後から手直しすることで「完全な履行」に近づけることが可能です。そのため、原則として債権者は「ちゃんとやり直して!」と請求できるわけです。
例えば、以下のようなケースがこれに該当します。
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ネットショッピングでの破損: 届いたスマホの画面にヒビが入っていた場合。
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数量の不足: 100本のワインを注文したのに、90本しか届かなかった場合。
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スペック違い: 4K対応テレビを注文したのに、フルHDのモデルが届いた場合。

追完請求の具体的な2つのルート
562条1項には、追完の具体的な方法として「修補」と「代替物の引渡し」などが挙げられています。これらは、不完全な状態をどうやって解消するかという手段の違いです。
解説
抽象的に言えば、追完請求とは「不完全な点を除去して、債務を完遂させる権利」です。これをさらに噛み砕くと、以下の2パターンに分かれます。
(1) 代物請求(代替物の引渡し)
不完全な物(目的物)を丸ごと取り替えてもらう方法です。
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条文の文言:
「代替物の引渡し」 -
具体例:
「エンジンのかからない新車」が納車された場合、その個体を修理するのではなく、「別の動く新車を持ってきてください」と要求することです。 -
補足:
替えが効くもの(不特定物)であればこの請求がしやすいですが、世界に一点しかない絵画のような「特定物」の場合は、物理的に代わりがないため、このルートは選択できません。
(2) 修補請求(欠陥の除去)
今ある物のダメな部分だけを直してもらう方法です。
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条文の文言:
「目的物の修補」 -
具体例:
「新車のエアコンだけが効かない」という場合、車ごと交換させるのは大げさなので、「エアコンの修理」を求めるケースです。
他にも、注文住宅の外壁の色が一部剥げていた場合に、塗り直しを求めることもこれに当たります。

完追完請求ができないケース(追完不能)
一方で、どんなに頑張っても「後から完全にする」ことができない場合があります。
これが、不完全履行のタイプ「②損害が発生してしまった場合」や「③付随義務違反(給付内容以外に不完全がある)」、あるいは「手段債務」のケースです。
解説
「追完不能」とは、時間の経過や性質上、もはや後から修正しても意味がない、あるいは物理的に不可能である状態を指します。
事例:手段債務の不履行
医師の診療行為や弁護士の訴訟追行などの「手段債務」(結果を保証するのではなく、最善を尽くす義務)において、不適切な処置が行われた場合を考えてみましょう。
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なぜ追完できないか:
過ぎ去った「不適切な手術」という時間は二度と戻りません。後から「適切な手術」をしたとしても、それは別の行為であり、過去のミスを「なかったこと」にはできないからです。
事例:拡大損害(②のパターン)
給付された物に欠陥があり、それが原因で他の財産が壊れてしまった場合です。
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具体例: 欠陥のある電気ストーブが火を吹き、自宅が火事になったケース。
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論理的帰結: ストーブ自体を新しいものに交換(追完)してもらうことは可能ですが、「焼けてしまった家」を債務履行の一環として元に戻すことは不可能です。
事例:付随義務違反(③のパターン)
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具体例: 機械の納入自体は完璧だったが、その使い方の説明を怠ったために機械が故障し、工場のラインが止まった場合。
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論理的帰結: 今さら説明書を渡されても(追完しても)、止まってしまったラインの損害は埋まりません。
このように、追完が不可能であったり、追完しても意味がない場合には、債権者は「完全な履行」を求めるのではなく、次のステップである「損害賠償請求」へと舵を切ることになります。
もしここで追完請求しか認められないとすれば、被害を受けた債権者は泣き寝入りするしかなくなってしまいますから、金銭による解決が図られるのです。

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