物上代位とは?(民法304条)

今回のテーマは物上代位についてです。

抵当権や担保物権を巡る概念の中でも、少々わかりにくいこのテーマ。

物上代位ってそもそもなんだ、という点につき、解説していきます。

物上代位とは

物上代位は、債権者が、担保物の代償物に権利を行使できるという仕組み

物上代位とは、担保物権の目的物が、売却、賃貸、滅失又は損傷によって、債務者が金銭その他の代償物を受け取ることにあったときに、債権者が当該代償物に対しても、権利を行使できる、という仕組みです。

たとえば、抵当不動産が売却された場合、債権者は、当該抵当不動産の売却代金に権利行使ができるということになります。

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抵当権ってそもそもなんだ?という記事です。

効果~権利行使の意味~

物上代位における権利行使=債務者に代わって権利を行使できるという意味

物上代位の概念理解にとって、ぼんやりとした理解になりがちなのは、上記物上代位の効果たる「権利行使できる」という部分の意味ではないかと個人的には思っています。

民法上、権利というのは大きくは、大きくは、債権、物権に分類されます。これに形成権を加えて権利を3分類する理解でもかまいません。

これらの権利の分類に応じて考えたときに、物上代位における代償物に「権利」行使できるという場合の権利って何なんだ?というところが曖昧な理解になりがちなのではないかと考えているのです。

文言上、物権のようにも読める

民法304条
1 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

民法第372条 
第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。

上記の部分の理解の曖昧さを生じさせる原因あるいは違和感は、条文の文言に由来します。

民法304条1項は、上記のとおり抵当権にも準用される規定です。物上代位の基本条文となります。

条文上の文言は、効果の部分につき、「金銭その他の物に対しても、行使することができる。」とされています。

文言の中に「その他の物に対して」との規定が含まれていることからすると、債権者が行使しうる物上代位にかかる権利は、文言上、「物権」のようにも読めます。

実際には債権を対象にしている。

しかし、実際に物上代位権の行使として想定されるのは、たとえば、抵当不動産が売却された場合において、売却代金がまだ支払われていない段階でのことになります。

この段階において、債務者が有する権利は、「売買代金請求権」であって、売買代金そのものではありません(そもそもお金に所有権は認めないという議論もある。)

この物上代位の機能場面を考えれば明らかなとおり、抵当目的物が売買された場面で、実際に物上代位が対象としているのは、「金銭」というリアルなものではなく、あくまでも、売買契約に基づく金銭請求権ということになります。

「金品を含めた代償物を債務者が第三債務者に請求する権利」を、債権者(抵当権者)が債務者に代わって行使できる、というわけです。

法は、その要件として、払渡し又は引渡しの前の差押えを要求していることになります。

債権者代位をイメージしよう

上記の説明でもわかりにくければ、「債権者代位」をイメージしてください。

債権者代位というのは、債権者が債務者に代位して、債務者の権利を行使できるという仕組みです。

ここで、債権者は、債務者が本来受け取れるはずの「金銭」を直接支配するのではなく、「債務者が有する権利」を債務者に代わって行使するという建付けになります。

同じ「代位」という表現が用いられる物上代位も、これと似た構造です。

抵当権者は、債務者が抵当不動産の売却や賃貸、滅失、損傷に受け取るべき金銭を直接支配しているのではなく、債務者が有する権利を、債務者に代わって行使する、という建付けになっています。

要件論

さて、物上代位の効果について先に見てきましたが、要件論を一応整理しておきます。
要件は、次の4つです。

【4つの要件】
① 債権者が抵当権などの担保権を有していること
② 担保目的物が、売却、賃貸、滅失又は損傷したこと
③ これによって債務者が受けるべき金銭などがあること
④ 当該金銭の払渡し(物品の引渡し)前に、差押えがなされたこと

① 債権者が抵当権などの担保権を有していること

これは、物上代位の当然の前提となる要件です。

抵当権のほか、質権、抵当権に物上代位性が認められています。

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そもそも担保ってなんだ?という記事です。

② 担保目的物が、売却、賃貸、滅失又は損傷したこと

この要件は、担保目的物の価値の現実化、変容があったことを要素とする要件です。

なお、この要件は、304条2項で、債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価(地代等)にも拡張されています。

「売却」「賃貸」「滅失又は損傷」を限定的に解してよいかは考えものです。抵当権者などの担保権者は担保物権の価値を支配している、あるいは、物上代位の制度が、担保権者に債権回収のための特別の便宜を図っている、という考え方からしても、上記「売却」「賃貸」「滅失又は損傷」は拡張的に解釈されます。

たとえば、土地収用法に基づく土地の収用も、上記にいう「滅失又は損傷」に含むものと理解されます。

③ これによって債務者が受けるべき金銭などがあること

ある抵当不動産が売却、賃貸、滅失又は損傷した場合の物上代位の対象の典型例はそれぞれ以下のとおりとなります。

売却⇒売却代金債権
賃貸⇒賃料債権
滅失又は損傷⇒損害賠償請求権、保険金請求権

上記のような債権があることが物上代位の要件となります。

たとえば、A不動産が失火で燃えたような場合、A不動産に付保されていた火災保険にかかる保険金請求権が物上代位の対象となります。

なお、当間背のことですが、A不動産の所有者が保険金詐取目的で自らこれを燃やしたような場合(放火)、物上代位の対象となる保険金請求権がありませんので物上代位はできません。

④ 当該金銭の払渡し(物品の引渡し)前に、差押えがなされたこと

最後に手続的要件です。

物上代位権を行使するためには、現に現金が支払われたりする前に、その売却代金請求権を指しさえる必要があります。

たとえば、先ほどの火災保険の例では、火災保険金がA不動産の所有者に現に支払われる前に、抵当権者(銀行など)が、当該所有者の保険会社に対する保険金請求権を差し押さえることが要求されます。

裁判所においてこれを差し押さえる手続をとることになります

なお、深いところの話になりますが、上記④については、その趣旨を巡って学説が大きく対立しており紛糾しています。

個人的には優先権を保全・確保する、ことを債権者に要求した(優先権保全説)、あるいは少なくともその側面がある(二面説)が腑に落ちているのですが、皆さん考えてみてください。

・特定性維持説 

代償金・代償物が債務者の財産に混入する前に差押え対象となる債権を特定するために差押えが必要だとする考え方

・優先権保全説 

権利行使を行う抵当権者自らがこれを保全する措置をとるべきだとする考え方

・二面説

法が差押えを要求する趣旨は、特定性維持・優先権保全両方の要請を含むとする考え方

・第三債務者保護説

第三債務者をして、債務者又は担保権者の双方に二重弁済を強いることのないよう、「差押」を弁済相手特定の基準としたものだ、という考え方。