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心裡留保と要件事実

今回は、心裡留保の要件事実についてです。

要件事実というのは、裁判となった時に誰が何を証明しなければならないか、という点に関する議論です。かなりマニアックな話ではあります。

なお、心裡留保自体について知りたいという方は次の記事をご参照ください。

ローテキスト

ここで関連記事を紹介!

心裡留保の原則論については次の記事で解説しています。ぜひ一度、ご参照いただけますと幸いです。

心裡留保とは~民法93条~

心裡留保の条文の確認

心裡留保の条文は、後でも記載しますが、次のようになっています。

改正民法93条1項

意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

条文構造による整理(通常の場合)

要件事実を条文構造にそって、考えるとき、民法93条1項については違和感が生じ得ます。

「①の場合、Aとなる。ただし②の場合はその限りでない」

といった条文があったとき、条文構造にそって要件事実を整理すると、通常は、次のようになります。
Aの効果を得たい者→①を主張立証する
Aの効果を打ち消したい者→②を主張立証する。

条文構造による整理がしにくい(民法93条1項)

ところが、民法93条1項の構造は次のようになっています。

「①の場合でも、意思表示は効力を妨げない ただし、②の場合は無効とする」

ここでは、①を主張しても、意思表示の効力が妨げられません。

①を主張しても法律効果が発生しないのです。そのため、条文構造を追っても要件事実が抽出できません。

心裡留保にかかる要件事実

心裡留保の主張上の位置づけや要件事実は、次のように整理されます。

主張上の位置づけ

心裡留保を主張する場面は、契約の効力を否定したい場面です。

たとえば、BさんがAさんに対して、車の売買契約を主張して、車を引き渡せと主張してきたとします。

ここでは、「車の引き渡し」を求める売買契約の成立が主要な請求原因事実となります。

これに対して、心裡留保は、この売買契約の効力を否定するために用いられます。

請求原因事実によって生じる法律効果を否定するために用いられますので、心裡留保は通常、「抗弁」として機能します。

3つの要件事実

<表意者側が主張・立証すべき事実>
①内心(効果意思)と表示内容との不一致
②表意者が、①を知っていたこと。
③相手方が表意者の真意(内心)を知り、又は知ることができたこと※「要件事実マニュアル」(ぎょうせい 岡口基一著)を参考にした整理です。

心裡留保により契約が無効であることを主張する場合、表意者は、上記3つの事実を主張・立証していくことになります。

条文の体裁上、上記①と②が民法93条本文に書かれており、③が但書に書かれているため、要件事実の理解としては混乱しがちですが、①~③全て表意者側が主張・立証していくことになります。

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要件事実の内容

上記を前提に、Aさんが、本当は売るつもりが無いのに、Bさんに車を10万円で売る、と言ってしまった場合について考えてみましょう。

Bさんが契約に基づいて車の引き渡しを求めてきた場合、Aさんは、上記3つの要件に該当する事実を主張・立証することで、Bさんの請求を拒むことを狙います。

①内心(効果意思)と表示内容との不一致

この要件は、平たく言えば、「思っていたことと実際に喋ったことが違うよ」、という要件になります。

Aさんは、「本当は売るつもりが無かった」のに「売ると言ってしまった」ということを主張・立証していくことが必要です。

ただ、通常、「表示内容」は請求原因事実にすでに表れています。

②表意者が、①を知っていたこと

この要件は、表意者が内心と表示内容とが違うことを分かってしゃべっていた、という意味の要件です。

Aさんにおいて、「本当は売るつもりがなかった」ということをA自身において認識・自覚していたことを主張・立証していくことが必要になります(錯誤との違い)。

③相手方が表意者の真意(内心)を知り、又は知ることができたこと

この要件は、相手が、表意者の内心を知っていたか、又は知ることができた、という意味です。

立証レベルではここが最も最難関になると思われますが、Aにおいては、『「本当は売るつもりがなかった」というAの真意をBさんが知っていた』あるいは『知りえた』ことを主張・立証していくことが必要になります。

実際上は、AさんBさんとの会話の録音や、メールなどのやり取りの記録、その取引の異常性等を主張して、Bさんが、知っていた、知りえたこととの心証を裁判官に抱かせる作業となると考えられます。

なお、2020年の改正前民法では、条文上、「知り又は知り得た」の対象となる事実は、「意思表示が表意者の真意ではないこと」とされていました。

改正後は、「表意者の真意」が「知り又は知りえた」の対象となっています。