今回のテーマは法定代理人についてです。
以下では、法定代理人の具体例を中心に、法定代理人にしばしば求められる本人の法律行為に対する同意書の書き方、任意代理との違いを見ていきます。
法定代理人とは
法定代理人とは、法律によって直接代理権を付与された者または法律の規定に基づいて裁判所から代理権を付与された者を指します。
本人の意思によって代理人に代理権が付与されているのではなく、法律又は裁判所によって、代理権を付与されているというのがポイントです。
なお、そもそも代理ってなんだ?という場合には次の関連記事をご参照ください。
代理の基本知識について、実生活や実務と結び付けて解説した記事です。そもそも代理ってなんだ、という方はこちらからご確認下さい。
法定代理人の範囲・具体例
以下、具体例を見たほうがわかりやすいと思いますので、代表的な例を見ていきましょう。代表的な法定代理人の具体例はつぎのとおりです。
以下、それぞれ簡単に説明します。
未成年者の法定代理人は原則として親権者
まず、未成年者を本人とする場合、親権者がいれば、親権者が法定代理人になります。法定代理人たる根拠は、民法824条本文です。
親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
民法824条においては、「代表する」との表現が用いられていますが、これは、ここでは親権者が未成年者の財産に関し、包括的な代理権を有することを意味します。
では、「親権者」が法定代理人となるにしても、そもそも親権者というのは誰を指すのでしょうか。
原則として父母
民法上、未成年者の親権者は、原則として父母です。両親が共同親権者ということになります。
要は、婚姻中の父母はいずれも法定代理人ということですね。
1項 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2項 後述。
3項 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
両親が離婚した場合
上記民法818条3項では、親権は「父母の婚姻中は、父母が共同して行う」とされています。では離婚した場合はどうでしょうか。
この場合には、離婚時に指定される未成年者の親権者が法定代理人ということになります。
両親が離婚して、母が未成年者の親権者となる場合、母のみが法定代理人であり、父は法定代理人ではなくなります。
養子縁組をした場合
また、少しプロパーな話ですが、未成年者を養子とする養子縁組がなされた場合は、養親が親権者となります。
子が養子であるときは、養親の親権に服する。
なお、兄弟が親権者として法定代理人と為ることは、通常あまりありませんが、養子縁組制度を使えば、兄や姉は、理論的には、弟や妹の親権者になりえます。
親権者がいない場合
上記の通り、未成年者の親権者は法定代理人ですが、両親が若くして他界してしまったケース等においては、未成年者に親権者がいないという場合があります。
こうした場合、未成年後見人と呼ばれる方が未成年者の法定代理人になります。この場合、未成年者は、被後見人と呼ばれる立場となります。
後見は、次に掲げる場合に開始する。
一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
なお、民法859条においても、代表という言葉が用いられていますが、これは、ここでは、後見人が被後見人の財産管理に関し、包括的な代理権を有することを意味します。
成年後見等
上記は、未成年者を本人とする法定代理人についての説明です。
他方で、成年している者に対しても、法定代理人が存することがあります。具体的には、成年被後見人などが選任されている場合です。
成年後見の制度は、精神上の障害によって判断能力が十分でない者を支援するために、その判断能力の程度に応じて、裁判所が後見人、保佐人、補助人などを選任する仕組みです。
弁護士や司法書士などの法律専門家が後見人等に選ばれることも多いですが、子や兄弟などが選任されることもあります
なお、大雑把に言えば、精神上の障害によって判断能力が常に欠く状態にあると評価される場合には成年後見人が、判断能力が著しく不十分と評価される場合には保佐人が、判断能力が単に不十分と評価される場合には補助人が選任されます。
類型 | 保護を必要とする方の判断能力の程度 |
後見人 | 常に欠けている状態にあると評価される場合 |
保佐人 | 判断能力が著しく不十分と評価される場合 |
補助人 | 判断能力が不十分と評価される場合 |
成年後見人
上記の内、成年後見人は、法律上、当然に成年被後見人の法定代理人となります。根拠条文は、未成年後見人の場合と同様、民法859条1項です。
後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
保佐人・補助人
他方で、保佐人・補助人は、必ずしも法定代理人には該当しません。
保佐人・補助人の権限の範囲は、本人が法律行為をする場合の同意権及び法律行為の取り消し権にすぎず、保佐人・補助人は、当然には本人を代理する権限を有しないからです。
もっとも、保佐人・補助人も、裁判所から、特別に代理権の付与を受ければ、その限度において本人を代理する法定代理人たる立場に立ちえます。
なお、インターネット上の司法書士の先生のサイト(後述リンク参照)において、保佐人は「本人の同意を得て裁判所が決めた範囲でだけ代理権を行使できる人」であって、「(この状態を「法定代理人」と呼ぶかどうかは諸説あるようです。)」との説明を見かけました。
ただ、改正後の民法においては、少なくともこの疑義は解消されます。
改正後民法13条10号において、保佐人の代理権行使が法定代理人として行われることにつき、条文で明らかにされたからです。
1~9号省略。
10号 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
不在者財産管理人・相続財産管理人
日常生活において、法定代理人という場合、多くは親権者や成年後見人等を指すことが多いですが、法律的には、次の不在者財産管理人、相続財産管理人も法定代理人に該当します。
本人 | 法定代理人 | 代理権 |
不在者 | 不在者財産管理人 | 長期不在者の財産に関し、保存、一定の範囲の改良などを行うための代理権(民法28条、104条、) |
相続財産法人 | 相続財産管理人 | 相続財産の換価・清算等のための代理権 |
法定代理人になるには?
インターネットにおいては、法定代理人になる方法、といった言葉で検索される方が多いようです。そのため、この点について付言しておきます。
法定代理人には、基本的には、なろうと思っただけでなれるものではありません。なろうとする場合には一定の要件を充足する必要があります。
今、ある人物の法定代理人でない方が、その人物の法定代理人になろうとする場合につき、それぞれ整理しておきます。
未成年者の法定代理人になるには
今、未成年者の法定代理人出ない者が法定代理人になるには養子縁組か未成年後見の申し立てが必要です。後者は、当該未成年者につき親権を行使する者が存する限り、そもそも要件を充足しません。
未成年者 | 親権者がいる場合 | 養子縁組 |
親権者がいない場合 | 未成年後見の申し立て |
成年後見人等になるには
成年後見などの制度を利用して法定代理人になろうとする場合、家庭裁判所に成年後見人等の選任の申し立てをすることが必要となります。
なお、成年後見人等の選任を得るためには、法律で定められた所定の要件を満たすことが必要です。
また、成年後見人の選任などの申し立てを行ったとしても、必ず自分が成年後見人に選ばれるというわけではありません。誰を選ぶかは家庭裁判所の判断事項です。
不在者財産管理人・相続財産管理人になるには
不在者財産管理人や相続財産管理人になるためにも裁判所に選任の申し立てをする必要があります。
また、不在者財産管理人及び相続財産管理人に誰を選ぶかも裁判所の判断事項です。
弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多いです。
法定代理人であることの証明書・確認書類
さて、法定代理人が、その立場において本人の法律行為に対して同意を与えようとする場合や、代理行為をする場合、法定代理人であることの証明を求められることがあります。
その証明となるものは、いずれも公的な書類ですが、法定代理人の種別に応じて、必要となる書類が異なります。
簡単に整理しておきます。
未成年者の法定代理人であることの証明
まず、未成年者についてですが、親権者が法定代理人である場合、親権者であることを証明する書類が必要です。
具体的には、父母又は養親とのつながりを称する現在の戸籍謄本が必要となります。これは市区町村役場で、取得可能です。
他方で、親権者がおらず、未成年後見人が法定代理人である場合、その証明、後見登記事項証明書によって証明します。
これは、次に述べる後見人等の証明と同一内容となります。
成年後見人等の証明
後見人等が選任されている事実は、戸籍には掲載されません。登記という公的な資料おいて公示するのが、後見制度の建付けとなっています。
そのため、成年後見人や保佐人・補助人たる立場は、東京法務局後見登録課または全国の法務局・地方法務局の本局の戸籍課(郵送取得の場合は、東京法務局のみ)にて取得できる後見等に関する「登記事項証明書」によって証明することになります。
なお、法務局の支局や出張所では取り扱いがされていませんのでご注意ください。
具体的な証明書の取り付け方法については、次のページをご参考ください。
不在者財産管理人・相続財産管理人であることの証明
不在者財産管理人や相続財産管理人であることの証明は、裁判所作成の審判書謄本等によって行われます。
法定代理人の職務
法定代理人は、法に基づいて代理権を付与された者であり、本人の権利擁護等の職責を負います。
代理権の行使
法定代理人の職務の一つは、法の趣旨に従って、本人の権利・用語等を図る点にあります。その代理権の行使も法の趣旨にそうものでなければなりません。
たとえば、未成年者の法定代理人は、未成年者の利益・権利を擁護するために法定代理権を行使することが求められ、後見人は、成年被後見人の身上に配慮して、法定代理権を行使することが求められます。
他方、不在者財産管理人は、不在者の財産の適正な管理のために、相続財産管理人は、相続財産の適正な財産の管理、換価等のために代理権を行使することが求められます。
同意権の行使
また、未成年者の法定代理人たる親権者等は、未成年者が行う法律行為ついて、予め同意をする権限を有します。
たとえば、未成年者Aが自己所有の自動車を売却しようとする際、親権者はその売却に同意をすることができるのです。
これを法定代理人の同意権といいます。日常生活ではパスポートの発行等につき、法定代理人の同意が求められることもありますね。
たとえば、自動車の売却につき、法定代理人があらかじめ同意をしようとする場合、次のような同意書を作成することが考えられます(いろいろな例が考えられますのであくまで参考として)。
任意代理人との違い
代理人には、法定代理人と任意代理人の2種があります。任意代理人とは、本人から、その意思に基づき、代理権を授与された者をいいます。
最後に、この任意代理人と法定代理人の違いについて簡単に確認しておきましょう。
委任状の要否
任意代理人に法律行為の委任をする多くの場合において、本人が委任をしたことを証明するために、委任状が本人から任意代理人に交付されるのが通例です。
たとえば、本人が弁護士や司法書士に対して、法律事務を委託する場合、本人作成の委任状が弁護士や司法書士に交付されます。
法定代理人の場合、代理権は、そもそも法律によって直接法定代理人に付与され(または裁判所によって付与され)ますので、法定代理権の範囲内における代理権を行使する場合、委任状は不要です。
法律上の違い
法定代理か任意代理かは、法律の適用に違いを生ぜしめます。具体的には復代理の選任等及び代理権の消滅事由に差が生じます。
復代理の選任等について
任意代理の場合、復代理人の選任は、本人の許諾を得たか、やむをえない事由があるといえない限り、任意代理人は復代理人を選任できません。
他方で、法定代理の場合、法定代理人は、自らの判断と責任において、復代理人を選任できます。法定代理人は、自らの意思で自由に復代理人を選任できるということです。
復代理に関する基本的な法律知識を整理した記事です。復代理人が問題行動を起こしてしまった場合に、その選任を行った法定代理人又は任意代理人の責任や、復代理人選任の委任状の書き方等について説明しています。条文知識等再確認などにも、ぜひご一読いただけますと幸いです。
委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
代理権消滅事由
民法111条は代理権消滅事由として、つぎのとおり規定しています。
1 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。
同1項について
同1項1号によれば、法定代理、任意代理問わず、本人が亡くなった場合には、代理権は消滅します。
代理人が亡くなった場合や、破産手続開始決定を受けた場合、後見開始の審判をうけた場合も同様です(同2号)。
ただし、任意代理においては、本人が死亡した場合に代理権が消滅しない旨の特約を本人・代理人間で合意することは可能です(最高裁昭和28年4月23日判決等参照)。
任意代理に関しては、1号の代理権消滅事由を特約で排除することが可能ということになります。
同2項について
同2項は任意代理にのみ適用される条項です。
本人と任意代理人との間で締結された委任契約が終了した場合、代理権も消滅する旨定められています。