復代理人とは:民法104条~106条

今回のテーマは、復代理人について。

代理制度なかでは、若干ニッチな分野の一つですが、意外と、復代理を必要とする、あるいは利用する場面って、結構あって、実務での使用頻度は低くありません。

そこで以下、その選任要件や権限等について、基本知識を確認しておきます。

復代理人とは

復代理人とは、本人から選任されて代理権の授与を受けた代理人が、その代理権限の全部または一部を行わせるために、さらに選任した者をいいます。

復代理人は本人を代表する立場にありますので、その法律行為の効果は、本人に直接帰属します。

復代理人が選任されるケースは、法定代理人から選任される場合と任意代理人から選任される場合の二つがあります。

いずれの場合によるのかによって、復代理人選任の要件や法律上の効果が異なります。

復代理人の選任について~民法104条,105条

復代理人の選任等については、民法104条及び民法105条に規定があります。なお、ここで挙げている規定は改正後の民法によるものです。

民法第104条 任意代理人による選任
委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
民法第105条  法定代理人による復代理人の選任
法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

条文のタイトルからも明らかですが、民法104条は、「任意代理人」が選任をする場合、民法105条は、「法定代理人」が選任をする場合です。

選任:任意代理人による場合

任意代理人が復代理人を選任するには、本人の許諾を得るか、やむを得ない事由があることが必要です。

このやむを得ない事由は、比較的厳格に解され、単に代理人が忙しい、などの事情では、やむをえない事由があるとはいえない、と解されます。

そこで、任意代理人の場合、基本的には、「本人の許諾を得る」という要件の下で復代理人を選任することになります。

もっとも、いざ選任しようとするとき、本人の許諾を改めて得るのは煩雑で、機動性を欠くきらいがあります。

そこで、実務的には、そもそも、任意代理人が本人から代理権の授与を受ける際に、本人に記載してもらう委任状の委任権限の欄に、本来の代理に関する権限の他、復代理人を選任する権限をも付記しておくことが多いように思われます。

この委任状の記載をもって、上記規定に言う「本人の許諾」がある、とするわけです。

選任:法定代理人による場合

法定代理人というのは、未成年者の親権者や成年被後見人の後見人等です。

法定代理人は、法律で本人の代理人とされた者であり、特に本人から信任を受けている、とうわけではありません。

また、任意代理人の場合のように、必ずしも、本人が許諾をなしうる状況にあるとは限りませんし、復代理人の選任に厳格な要件を課してしまうと、実際問題として、法定代理人は、人に事務処理を委託できず、相当大変になってしまいます。

そこで、法定代理人の場合、法は、その選任に特段の要件を課していません。

上記民法105条1項本文は、「法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。」と定めているだけです。「自己の責任で」の意味については後述します。

復代理人を選任する委任状・選任書

復代理人を選任するのは代理人ですから、その選任に際して委任状を作成する場合、代理人は自己の名前で委任状を作成することになります。

ただ、あくまで復代理ですから、委任状としての体裁を整えるなら、代理人名・復代理人名だけでなく、本人の氏名などを記載して本人を特定することが必要になります。

また、復代理人にどの範囲の権限を与えるのかは代理人にて決すべき事柄ですから、委任状には、通常、その権限の範囲についても記載することが求められます。

一例をあげると次のような記載が考えられます。

「委任状の例」(イメージ)

復代理にかかる委任状のイメージ

なお、上記は、委任状の体裁で作りましたが、内容が同趣旨であれば、たとえば「選任書」などの体裁で、書類を作成しても構いません。

本人との関係

次に、本人との関係について見行きましょう。

民法106条:権限等について

まず条文を確認します。

民法第106条
第1項
復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。

第2項
復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。

上記の通り、復代理人は「本人を代表する」、と定められています。つまり、復代理人が行った行為は、その行為が権限の範囲内にある限り、本人に効果帰属します(同1項)。

なお、代理でも「代表」でも本人に効果が帰属しますので、ここではその違いを深く考える必要はありません。

関連記事:代理とは?実生活・実務と結び付けて解説します。
復代理人の行為の効果がなぜ本人に帰属するのか、その形式的な根拠は民法106条に求められます。

一方で、その実質的根拠をどのように解すべきかは、上記の関連記事で紹介した「代理権が本人に効果帰属する根拠」の理解(代理権説・顕名説)と絡む難しい問題です。

余裕のある方は、答えが出るかはともかくも、一度検討されてみてください。

権限の範囲内に限定

民法106条を理解するポイントの一つは、むしろ、復代理人の行為に関し、本人に効果帰属するのが、あくまで復代理人に与えられた権限の範囲内に限定されたものであるということ。

たとえば、ある会社から、動産取引の一切をゆだねられたブローカーが、さらに復代理人に対して、Aという種類の動産の売買についてのみ権限を授与したという場合、復代理人の売買によって本人に効果が帰属するのは、A動産を対象とした売買に限られます。

それ以外の動産の売買を復代理人が行っても、これは本人に効果帰属しません。

復代理人の権利と義務

次に上記106条2項についてです

条文から明らかなとおり、復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において代理人と同一の権利を有し義務を負います。

たとえば、有償の委任関係に立つ任意代理人の復代理人は、その権限の範囲内と認められる限度において、もともとの任意代理人と同様、本人に対し報酬請求権を有します。

上記の例では復代理人も、A動産の売買に関し、本人に対して報酬請求が可能です。

また、取引の相手方などから受領した物品類がある場合、復代理人はこれを本人に引き渡す義務を負います(民法646条参照)。

上記例では、A動産の売買に関し、金品を受領した場合、これを本人に渡さなければなりません。

民法646条
第1項 
受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。

第2項
受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

代理人の責任

最後に、復代理人の行為に関し、代理人が本人に対してどのような責任を負うか、という点を見ていきます。

政治のニュースなどで、ある大臣が不祥事を起こした場合に、その大臣を任命した首相が、「任命責任」という名の責任を追及されることがあります。

復代理人の行為に関する代理人の責任もこれと似た構図であり、復代理人が行った行為に何らかの問題があった場合、代理人の責任が問われうるわけです。

この点に関し、民法は、法定代理人が選任した場合と任意代理人が選任した場合とで取り扱いを分けています。

法定代理人ついて

法定代理人が選任した復代理人が問題を起こした場合については、民法に規定があります。民法105条を再掲しますので、後段をご確認ください。

民法第105条  法定代理人による復代理人の選任
法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

まず、復代理人の問題行為につき、これを選任した法定代理人は、その問題行動につき、本人に責任を負います。105条前段を見てください。「自己の責任で」とされているのはこの意味です。

復代理人のミスで本人に損害が生じた場合、法定代理人もその損害を本人に賠償する責任を負うわけです。

ただ、復代理人の選任がやむを得ない、といえるような事情の下でなされた場合、その責任が軽減され、法定代理人は、復代理人の選任・監督についてのみ責任を負うことになります(105条後段)。

選任・監督責任と一言でいうと、わかりにくいですが、たとえば、次の①と②の条件が満たされるような場合、法定代理人も、復代理人の問題行動につき、選任・監督の責任を果たしていたとして、免責されうるわけです。

①法定代理人が、復代理人にまっとうな人をちゃんと選んだ(選任)
②法定代理人が、復代理人からまっとうに報告を受け、常々問題がないかチェック(監督)をしていた

まぁ、復代理人が大きな問題を起こした場合に、選任にも、監督にも全く問題がなかった、という結論を得られることは、現実的にはあまりないかもしれませんが・・・。

任意代理人について

他方、任意代理人が選任した復代理人が不祥事を起こした、という場合について、民法に規定はおかれていません。

この場合の任意代理人の責任は、本人と任意代理人との契約関係によって定まります。

たとえば、委任関係に立つ任意代理人の場合、通常は、復代理人の問題行為(たとえば横領等)の発生に関し、任意代理人が行うべき注意を行っていたか、その問題行為、結果の発生を防止しえたかなどを検討の上、任意代理人の責任の有無を判断していくことになります(善管注意義務(民法644条)違反などを検討する)

なお、たとえば、任意代理人側としてその責任を軽減したい場合、その交渉力如何にもよりますが、「代理人は、復代理人の選任・監督についてのみ責任を負う」などの特約を本人との契約に織り交ぜることも可能でしょう。

また、そもそも改正前民法においては、本人の指名に従って代理人が復代理人を選任した場合、代理人は、復代理人が不適切であることを知って、本人に通知しまたはこれを解任することを怠った場合にのみ、責任を負う、とされていました(下記参照)。

改正民法において、同様の帰結を得たいという場合には、その旨、本人と任意代理人間の特約に入れて対処する、ということになります。

改正前民法105条2項
代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。