今回のテーマは、契約の解除、取消、無効の概念についてです。
解除・取消・無効はイメージ的には似ているところもあり、その違いについて、理解が難しいと感じる方は少なくありません。
しかし、一度、概念を理解してしまえば、それほど難しいものではありません。
細かな条件論は一旦脇に置いておいて、今回はそれぞれの概念を掴みましょう。
契約の拘束力
解除・取消・無効はこの拘束力に関する概念です。当事者を契約の拘束から解放します。
契約によって当事者に義務が生じる
社会において、一旦契約が成立すると、当事者は当該合意で定められた内容を守らなければならない義務が生じます。
たとえば、ある商品について売買を行った場合、売主は買主に商品を引き渡さなければなりませんし、買主は売主に代金を支払わなければなりません。
この点が、契約と単なる約束との違いです。契約によって、当事者には法的義務が生じます。
当事者は当該義務に拘束される
また、一旦、有効な合意が成立すると、当事者は簡単には、これを無かったことにすることはできません。
取引が確定的に成立した後に「やっぱりやめた」とキャンセルすることは、簡単にはできないのです。
先の例でいえば、売主、買主はそれぞれ、相互の義務を容易に免れることはできません。
「契約」が有する上記のような法律上の効果を「拘束力」と言います。
契約の解除・取消・無効を一言でいうと
契約の解除・取消・無効は、いずれも、契約の拘束力に関わる概念です。しかし、それぞれの意味付けは少しずつ異なります。
①解除⇒「有効に成立した契約」を無効とするものです。 ②取消⇒「一応は有効に成立した契約」を無効とするものです。
③無効⇒「契約の有効性が否定され、法律上の効果がない状態」をいいます。
これだけでは、分かりにくいと思いますので、以下、「自動車のロック(鍵)」を比喩に考えてみましょう。
なお、ここで想定している自動車は、半ドアでも一応鍵がかかる自動車を想定します。
解除
完全にロックのかかった自動車のドアを開けるには鍵が必要なのと同様、契約の解除には鍵が必要です
解除は自動車の鍵開けに似ている
自動車に完全に鍵がかかった場合、その鍵を開錠するためには、自動車のキーが必要です。
当然これは比喩ですが、ここで押さえてほしいポイントは、次の②点です
①ロックが完全に掛かっている
②開けるためには自動車のキーが必要である
解除の概念
契約の解除も、これに似ており、取引成立の時点において①当該契約は完全に成立しています。
そのため、契約の拘束力も完全に生じています(鍵が完全に掛かっている)。簡単には解除(キャンセル)できません。
②これをキャンセルして無効とするためには、当該解除を可能とする事由(解除事由 上記自動車の比喩でいう「鍵」)が必要となります。
解除事由としては、たとえば、合意した時期までに、相手がその義務を履行しない、といったものが挙げられます。
取消
取消は、「一応」というレベルで成立した契約を無効とするものです。
半ドアで鍵が掛かっている状態
自動車の中には、自動車のドアが半ドアの状態で鍵をかけると、一応鍵はかかるものの、ドアを押し込むことによって鍵が開く、というタイプの自動車があります。
年齢が推測されそうなので、あまり言いたくはありませんが、私が子どもの頃は、そんな車ばかりだったです。
半ドア状態で車をロックした場合のポイントは次の二つです。
①自動車に一応鍵はかかっている。
②ただ、鍵をかけた時点で半ドアだったという問題があったため、一定の方法で容易に鍵が開いてしまう。
取消の概念
契約を取り消しうる状況というのも上記に似ています。
①一応契約は有効に成立している。
②ただ、成立の段階で何らかの問題があったため、容易にキャンセルされてしまう状況にある。
契約の解除は、完全に有効に成立した契約をキャンセルするものであるのに対し、取消は、取引成立の段階で生じていた問題を理由に、契約がキャンセル(取消となる)されてしまうというものです。
そして、取引成立の段階で生じていた問題のことを、法律上は、「取消事由」といいます。
取消事由の例としては、たとえば、取引の当事者が未成年者であった、というような場合が挙げられます。
無効
無効=鍵が掛かっていない状態
自動車に鍵をかけていたつもりが、鍵をかけ忘れていた、ということはありませんか?
この場合、そもそも、ドアはいつでも開けられる状態であり、鍵の機能・効能が働いていません。
契約の無効というのは、これに似ています。
無効の概念
法律的に、単に「無効」という場合、それは法律の効果が発生していないということを意味します。
契約が「無効」とされる場合、そもそも法律の効果がない以上、契約の拘束力も働きません。全く鍵が掛かっていない状態です。
「解除」は、完全に有効に成立した取引を事後的に無効とするものであり、取消は、一応有効に成立した取引を取引成立時に問題があったことを理由に無効とするものです。
これに対して、たとえば、ある契約が暴利行為等を理由に効力が否定される場合、当初から、その合意は「無効」であったということになります。
なお、「無効」というのは、法律上の効果が無いという状態を表す表現です。
「無効」というとき、上記暴利行為の例のように、合意当初から法律上の効果が無いという場合もあれば、「解除」や「取消」によって事後的に契約が無効になる、という場合もあります。
まとめ
・解除 完全に有効に成立した契約の効力を否定するものです。完全に成立した契約を鍵で開けるものです。
・取消 一応有効に成立した契約の効力を否定するものです。一応鍵はかかっているけど、掛けたときに問題があって、簡単に開いてしまう状態です。
・無効 契約が効力を有しない状態です。鍵がかかっておらず、鍵の効果がない状態です。
解除・取消・無効は、契約の効力が終局的には否定されるという点で共通しており、初めは理解が難しいかもしれません。
ただ、概念だけでも先に掴んでおくと、理解が深まります。
解除や取消、無効の違いがよく分からないと言う方は、各論については一旦おいておき、とりあえず概念だけでもつかんでおきましょう。