今回のテーマは、「契約」の意味についてです。
契約にはたくさんの種類があります。売買、請負、賃貸借などなど。
これに対して、約束にもたくさんの種類があります。待ち合わせの約束等がその例です。
この二つは、2人以上の当事者が、互いの意思を一致させて決めごとをする、という意味では同じです。
では、この二つの間にはどのような違いがあるのでしょうか。
「契約って何?約束とは違うの?」と聞かれたときにちゃんと答えられるとカッコいいです。
契約の意味~約束との違い~
契約を分かりやすく表現すると、「お互いに納得した決め事であって、国(裁判所)が、その決め事を相手に守らせることができるもの」といえます。
契約の約束の最も大きな違いは、それによって、法律上の権利義務関係を生じるか否かにあります。
契約は、裁判所を介して権利の実現(義務の強制)ができるのに対して、約束にはこのような効力はありません。
権利義務関係発生の有無の違い
まず、契約は決めごとをした当事者間に法律上の権利義務関係を生じさせるものです。
たとえば、車を売買した当事者間では、買主に代金の支払義務が生じます。
売主には、商品(車)を買主に渡す義務が生じます。
このように、法律上の権利義務関係を生じさせる当事者間の合意を契約といいます。
これに対して、単なる約束は、道義的な義務はともかくも、法律上の義務までは生じさせません。
「法律上の権利義務関係」とは
「法律上の権利義務関係が発生、変動するか否かが違う」というのを大ざっぱに言い換えれば、それは、「裁判で、その決めごとの内容を強制できるか否かが違う」という意味です。
裁判で実現可能
契約で定められた内容については、原則的には、当事者が裁判で実現することが可能です。
上記に挙げた売買を例に挙げて、買主が売買代金を支払う義務を負う場合を想定すると、売主は、買主が商品の売買代金を支払わなければ裁判で売買代金を支払えと請求できます。
この裁判で、買主に「売買代金を支払え」という内容の判決が出て確定すると、売主は、買主に対して強制執行をすることができます。
当事者は、その合意よって生じた権利義務を裁判で実現することができるわけです。
契約がビジネスの根幹となる理由の一つには、裁判(国家権力)による実現が法制度として担保されている点に求められます。
約束は法律で強制できない
これに対して、「単なる約束」は、裁判での実現を前提とするものではありません。
当事者の合意で成立しているものの、そこに法的な拘束力はありません。
契約とは何か?学生にも分かるように簡単に表現すると
中学生や高校生など学生に対する説明としては、「契約」は次のように説明されます。
契約というのは、「お互いに納得した決め事であって、国(裁判所)が、その決め事を相手に守らせることができるもの」
ポイントは、二つです。
①お互いが納得して(自分の意思に基づいて)いる、という点。
②国が強制的に決め事を実現(権利・義務を実現)させることができるという点。
法律(民法)にいう定義
次に、もう少し法律的な定義をします。
法律上の定義において、契約とは「当事者間の相対立する意思表示が合致することにより成立する法律行為」をいいます。
売買の他、賃貸借、雇用、請負などが具体例として挙げられます。
申込みと承諾の合致
この法律上の定義に言う「当事者間の相対立する意思表示が合致する」というのは、『契約の「申込」とこれに対する「承諾」が合致する』という意味です。
売買に即していえば、買主の「買いたい」という申込と、これに対して「よし売った」という売主の承諾とが合致していることをいいます。
この「当事者間の権利義務関係を発生・変動させる行為」(上記定義においては、「法律行為」と表現している)を契約と呼ぶわけです。
参照 関連外部リンク申込と承諾の合致による契約の成立(北九州の弁護士ならひびき法律事務所)
なお、当事者間において、どのような合意をするかは原則的には当事者の自由です。この原則のことを契約自由の原則といいます。
具体例
理解を深めるために、いくつかの取引を例にあげて、法律的な定義の意味付けを確認します。
売買についてはすでに挙げているので、賃貸借、請負、雇用について見ていきます。
賃貸借
まず賃貸借についてです。
賃貸借は、たとえば「車を12時間1万円で貸してほしい」という借り手側の申込と、これに応じるという内容の貸主側の承諾の意思表示の合致によって成立します。
法的効果としては、貸主は、目的物を借主に貸す義務を負い、借主は、賃料を支払う義務と決められた時期に目的物を返還する義務を負うことになります。
請負
次に請負についてです。
請負は、発注者の「仕事をお願いしたい」という申込とこれに対する請負人側の承諾によって成立します。
法的効果としては、発注者は、請負人に対して、請負代金を支払義務を負う一方、請負人は仕事を完成させる義務を負わせるものです。
雇用
雇用についてです。
雇用は、たとえば、時給1000円で働きたいという労働者側の申し込みと、これに対する承諾(「時給1000円で雇う」)によって成立します。
法的効果としては、労働者は労働を提供する義務を負い、雇用主は、労働に対する給与を労働者に支払義務を負うという内容になります。
小括
売買の他、賃貸借や請負、雇用といった各種の取引を定義に即して確認してみると、どうでしょうか。
相対立する当事者間の「申込」と「承諾」の意思表示によって、権利義務関係が発生・変動していることが共通点として掴めると思います。
これを法律の用語で表現したものが、上記の定義、すなわち「当事者間の相対立する意思表示が合致することにより成立する法律行為」ということになります。
種類と分類(6つの視点)
「契約」と一口に言っても、その種類は様々です。
複数の視点からの分類を知ることで、その理解を深めることができます。そこで最後に、分類法を確認します。
一般的には次のような視点による分類法(6つの視点)があげられます。
- 典型か非典型か
- 双務か片務か(当事者双方が債務を負うか・一方のみが追うか)
- 有償か無償か
- 不要式か要式か
- 継続的か一回的か
- 基本か個別か
① 典型か非典型か
まず、分類の仕方の一つとしては、「典型か非典型か」、という分類の仕方があります。
典型契約
典型契約というのは、民法の債権各論に規定された各取引のことです。
①財産移転型
贈与、売買、交換②貸借型
消費貸借、使用貸借契約、賃貸借契約
③労務型
雇用、労働、委任、寄託
④その他の類型
組合、和解、定期金
非典型契約
非典型契約というのは、上記各取引以外のものを言います。
典型契約以外すべてが該当します。種類は無数に存在します。
リースやフランチャイズ、譲渡担保等にかかる契約がその代表例です。
法律に規定がないため、その内容をどうするか、条項などの作成に際して、特に吟味が必要です。
② 双務か片務か
また、契約の分類法としては、当事者がその取引の効果として互いに債務を負うか否か、という観点による分類もあります。
当事者が互いに債務を負担するものを双務契約と言い、一方当事者のみが債務を負担するものを片務契約といいます。
たとえば、売買は、売主は商品を引き渡す義務を負い、買主は代金を支払う義務を負います。双方が債務を負いますので、双務契約です。
反対に、単なる贈与は、一方当事者のみが相手に目的となる物を贈与をするものですので、一方当事者のみが債務を負う片務契約です。
民法が定める契約の一つに消費貸借(お金の貸し借りなど)という取引があります。
これは、目的物や現金などを交付した段階で成立します。契約の成立時点で貸主は既にお金等を渡していますので、成立後の時点では貸主は債務を負いません。
成立後に存在する債務は、借りたお金を返すという借主側の義務だけということになります。
そのため、民法が定める典型的な消費貸借は、借主のみが債務を負担する片務契約です。
③ 有償か無償か
また、当事者が、その効果として互いに経済的な出損をするか、という観点からの分類もあります。
有償契約とは
このうち有償契約というのは、当事者が互いに経済的出損をすることを要するものです。
たとえば、売買についてみると、売主は商品という財産を手放し、買主は代金を支払うこととなりますので、有償契約です。請負や雇用もこれに該当します。
ビジネス上の取引は、そのほとんどが有償契約で成り立ちます。
無償契約とは
また、一方当事者が経済的な出損を要しないものを無償契約といいます。
贈与が典型例です(贈与を受けるものは経済的な出損がないですよね)。
無償の場合と有償の場合とを比較すると、無償の場合、義務者側の責任が軽減される傾向にあります。
たとえば、贈与においては、贈与者の責任は、売買における買主の責任に比して大幅に軽減されます。
双務と有償、又は、片務と無償は互いに類似します。ただ、片務であり有償でもあるという類型もあります。
上記に挙げたとおり、民法の典型的な消費貸借は片務契約です。
しかし、当該消費貸借の合意につき、借主が利息を付して貸主に利息を付して返還しなければならないという特約が付されている場合、貸主は貸金という元金を出損し、借主は返済に際して利息の支払いという経済的出損をします。
この取引では、両者ともに経済的な出損を要するのです。そのため、利息払いの特約付きの消費貸借は、片務であり、かつ、有償でもあるという片務有償型の契約類型に分類されます。
④ 不要式か要式か
方式による分類もあります。要式か不要式かという分類です。
不要式性 契約は口頭でも口約束でも成立する。
当事者間の意思の合致があれば、その成立が認められる取引のことを不要式契約と言います。
そして、民法は、「方式の自由」を原則としています。
そのため、契約は原則として不要式で成立します。口頭・口約束でも原則として成立するわけです。
その合意に際して何らの方式も要しないので、口頭のみならず、メールやLINEでもOKです。
書面によることも要しませんので、ここでは捺印・押印等の有無も関係がありません。
ここで関連記事を紹介!
特に口頭の合意だけで成立するものを表現して「諾成契約」ということがあります。
口約束だけで契約が成立する、という場合の契約はこれを指します。
詳しくは次の記事にて説明していますので是非参照してください。
要式性が要求されるものもある
他方で要式性が要求されるものもあります。これを要式契約と言います。
たとえば、合意の有効な成立のために書面を作成することを法律が要求している場合があります。
この場合、その方式が「書面」に限定されています。
このように、方式が法定されている契約のことを要式契約といいます。
民法上の例としては、連帯保証を挙げることができます。口約束では連帯保証契約は成立しません。
⑤ 継続的か一回的か
債務の継続性という観点からの分類もあります。
たとえば、不動産賃貸借においては、合意成立後、不動産を貸すという貸主側の債務が一定期間継続します。
このように一方当事者の債務が一定期間継続することを前提とするものを継続的契約と言います。
これに対して、売買など、当事者の債務の履行が1回限りで終了するものを一回的契約といいます。
継続的契約の中には、当事者の信頼関係を基礎とするものが多く、当事者の一方が解除をする場合、その信頼関係が破壊されているといえることまで必要とされることがあります。
⑥ 基本か個別か
基本か個別か、という観点からの分類もあります。
継続的取引関係にある他者との間において、しばしば締結されるのが「基本契約」と呼ばれるものです。
これは、各個別の案件に共通する基本的な取引条件を定めた合意のことをいいます。
たとえば、売買基本契約書や請負基本契約書等が例として挙げられます。
これに対して、個別(スポット)契約というのは、基本契約の存在を前提に、個々に締結される合意のことをいいます。