今回のテーマは、抵当権設定当時に、建物が存在していること ~法定地上権をめぐる判例➀~です。
法定地上権をめぐっては、その成立要件をめぐって、多数の判例が集積しています。
そして、これらの判例の理解をすすめることが要件の理解に直結します。
以下、基本のおさらいとして、4つの要件を確認後、その要件の一つである「抵当権設定当時に、建物が存在していること」に関して、基本的な教科書に載っている判例を確認していきます。
基本のおさらい
法定地上権の要件は次の4つ
① 抵当権設定当時に、建物が存在していること
② 抵当権設定当時に、土地と建物の所有者が同一の所有者に帰属していたこと
③ 土地と建物の一方又は双方に抵当権が設定されたこと
④ 競売により土地と建物の所有者が別人に帰属することとなったこと
上記の内、判例で問題となることが多い要件は、①及び②の要件です。本記事は、①を対象とします
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そもそも法定地上権とは何か、その趣旨や内容、条文上の要件自体を知りたいという方は、次の記事を参考にしてください。
基本となる事項をそれぞれ解説しています。
① 「抵当権設定当時に、建物が存在していること」に関する判例
この要件が必要されるのは、抵当権設定時における予測可能性の担保するため、などと説明されます。
判例の確認に入る前に、①の要件の意味付けを確認しましょう。
制度趣旨との関係
まず、①の要件の意味付けは、「抵当権の実行ないし競売によって、土地と建物の所有権が別々の人に帰属することとなった場合に、抵当権設定者が建物を取り壊さないといけなくなるという社会経済的な損失を防止する」という制度趣旨からは必ずしも導けません。
たとえば、土地に抵当権が設定された後、建物が建築された場合でも、建物を取り壊さないといけなくなる、という社会的損失は発生します。
そして形式的に考えれば、こうしたケースにおいても、建物取り壊しという社会的損失を防止するという制度趣旨は妥当しえます。
それゆえ、違う観点から、上記要件①の意味付けを考えなくてはいけません。
抵当権者の予測可能性
一般に「抵当権設定時に、建物が存在していること」の要件は、抵当権設定時における予測可能性の担保にある、などと説明されます。
これは何を意味しているのでしょうか。
通常、金融機関などの抵当権者が、更地(建物がない土地)に抵当権を設定する場合、その土地は地上権や賃借権などの負担のない土地と評価します。
それにもかかわらず、土地に抵当権が設定された後、建物が建てられたことを理由に、法定地上権が成立するとすれば、当該土地を法定地上権の負担のない土地と評価していた抵当権者の予測が害され、同抵当権者は不測の損害を被りえます。
さらにいえば、これを認めると、金融機関が土地に抵当権を設定するに際して、将来、その土地に地上権が設定されることを前提とする評価をしなければならなくなる蓋然性が高く、円滑な金融融資が妨げられる結果につながるかもしれません。
そこで、民法は、「抵当権設定時に、建物が存在していること」を法定地上権の成立要件とし、抵当権設定時における抵当権者側の予測可能性を担保できるようにしたのです。
判例の検討
前置きが長くなりましたが、以下判例を見ていきます。結論に加えて、上記要件の意味付けに即して、形式・実質的な理由を簡単に付していきます。
⑴更地に抵当権が設定され、その後、建物が建築された場合
まず、一つ目のケースは、更地に抵当権が設定され、その後、建物が建築された場合です。ただ、設定に際して、土地抵当権者が当該土地上の建物建築を承認していたという事情があります。
このケースについて、昭和36年2月10日最高裁判決は、次のように示して、法定地上権の成立を否定しました。法定地上権の成立を否定しました。
判例の立場
昭和36年2月10日判決判示民法三八八条により法定地上権が成立するためには、抵当権設定当時において地上に建物が存在することを要するものであって、抵当権設定後土地の上に建物を築造した場合は原則として同条の適用がないものと解するを相当とする。
然るに本件建物は本件土地に対する抵当権設定当時完成していなかったことは原審の確定するところであり、また被上告人が本件建物の築造を予め承認した事実があっても、原判決認定の事情に照し本件抵当権は本件土地を更地として評価して設定されたことが明らかであるから、民法三八八条の適用を認むべきではなく、この点に関する原審の判断は正当である。
コメント
このケースでは、抵当権設定時に土地が更地であって、文字通り、「抵当権設定時に建物が存在した」という要件を満たしません。また、抵当権者が土地を更地と評価している、ことが事情として挙げられています。
ここからは、さらに、そもそも建物とは何か(プレハブでもいいのか)、それが完成したとはどういうことなのか、などの議論にも発展し得ます。
このケースは、更地に抵当権が設定されたところ、設定に際して、将来土地上に建物を建築したときは、競売に際して地上権を設定したものとみなす、との合意が当事者間でなされていたケースです。
このケースにおいても、大審院大正7年12月6日判決は法定地上権の成立費を否定しました。
⑵建物が一旦滅失したが、再築された場合
次に問題となるのは、土地に抵当権が設定されていたところ、抵当権設定時に存在した建物が滅失し、再築されたケースです。
判例の立場
このケースにおいて、大審院昭和10年8月10日判決は法定地上権の成立を肯定しています。
コメント
形式的にも、「抵当権設定時に、建物が存在していること」の要件は満たしますし、抵当権者の予測可能性も害されません。
ただ、この場合において、法定地上権は。原則として旧建物を基準に成立すると解されます。
上位の場合において、法定地上権は。原則として旧建物を基準に成立すると解されます。ただ、新建物を基準に権利の範囲・性質を認めても抵当権者の利益を害さないような場合、新建物を基準に法定地上権が成立すると解し得ます。
この点に関しては、旧借地法という法律の適用に絡み、もともと「非堅固建物(借地期間30年)」が存在した土地につき、抵当権が設定されたところ、「堅固建物(借地期間60年)」が新築されたというケースが問題となった最高裁昭和52年10月11日判決が参考になります。
この事例では、当権者が、堅個建物が建築されることを予定して担保価値を把握していたという事情があります。
このケースにおいて、最高裁は、抵当権者の利益を害しないことを理由に、新建物を基準とする法定地上権の成立を肯定しています(旧借地法のもと、借地期間が60年になる。)
⑶共同抵当にて建物が再築された場合
最後に、最高裁平成9年2月14日で問題となった「土地と建物につき共同抵当が設定されていたところ、建物が滅失し再築された」というケースを検討します。
上記大審院昭和10年8月10日判決のケースは土地のみに抵当権が設定されていたケースであるのに対して、最高裁平成9年2月14日のケースは、土地と建物双方に共同抵当が設定されたという事案です。
判例の立場
判例は、次のように判示しました。
「所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である。」
「けだし、土地及び地上建物に共同抵当権が設定された場合、抵当権者は土地及び建物全体の担保価値を把握しているから、抵当権の設定された建物が存続する限りは当該建物のために法定地上権が成立することを許容するが、建物が取り壊されたときは土地について法定地上権の制約のない更地としての担保価値を把握しようとするのが、抵当権設定当事者の合理的意思であり、抵当権が設定されない新建物のために法定地上権の成立を認めるとすれば、抵当権者は、当初は土地全体の価値を把握していたのに、その担保価値が法定地上権の価額相当の価値だけ減少した土地の価値に限定されることになって、不測の損害を被る結果になり、抵当権設定当事者の合理的な意思に反するからである。」
「なお、このように解すると、建物を保護するという公益的要請に反する結果となることもあり得るが、抵当権設定当事者の合理的意思に反してまでも右公益的要請を重視すべきであるとはいえない。」
コメント
判例は結論として、法定地上権の成立を否定です。
その理由は、共同抵当の場合において、建物が取り壊されたときは、抵当権者の合理的意思は、土地について法定地上権の制約のない更地としての担保価値を把握しようとするものであり、それにもかかわらず法定地上権が成立するとするのは、その合理的意思に反する、との点に求められます。
共同抵当の場合、抵当権者は、土地と建物の抵当を通じて、全体価値を把握していたのに、抵当権者が価値を把握していない新建物に法定地上権が成立するとすればが、抵当権者が不足の損害を被る、これは避けるべきだ、という考え方(全体価値考慮説)に依拠します。
なお、この判例の立場に対しては、個別価値考慮説という反対説も有力です。
以下、個人的な意見です。
実質論として、たとえば、共同抵当事案において、大震災等の大火災で建物が滅失したというケースで、「新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けた」などの事情が認められない限り、法定地上権が設定されないとなればどうでしょう。
当該土地の抵当権を有する金融機関の協力がない限り、あるいは当該金融機関の意向に沿わないと、当該土地の所有者は、建物再築のためのローンが組めない、という結果を招来しかねないようにも思います。
考えすぎなのかもしれませんが、原則として、新築建物にも法定地上権の成立を認める、という方向性を示した方が、土地所有者も、新築建物の建築資金を新たに融資する金融機関も安心できるような気がします。
この意味において、原則として法定地上権の成立を肯定する個別価値考慮説のほうが私個人の思考には馴染みます。
まとめ
以上、「抵当権設定時に、建物が存在していること」の要件に関して、判例を見てきました。共同抵当の場合は、少し理屈を覚える必要がありますが、その他は、基本的な要件・ないし趣旨から判例の結論は導出し得ます。
一個一個覚えていくよりも、要件論・趣旨に照らして、判例を理解していった方が、記憶は定着するはずです。