今回のテーマは、抵当権の効力の及ぶ範囲についてです。
ある不動産に抵当権が設定された場合に、当該抵当権はどの範囲において効力を有するのかについて解説します。
そもそも抵当権ってなんだ?という方は次の記事をご参照ください。
効力の範囲
抵当権の効力の範囲について規定しているのが、民法370条です。
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第四百二十四条第三項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。
原則論(民法370条本文)
抵当権の効力は付加一体物に及ぶ。
そのため、付加一体物は抵当不動産の競売に際して、換価(所有権移転)の対象となる。
そして、附合物、従物、従たる権利は付加一体物に含まれる。
他方で、果実は付加一体物ではない。
民法370条本文は、抵当権は、「抵当地の上に存する建物」を除き、抵当権の効力が不動産に付加して一体となっている物に及ぶと規定しています。
これを読み解くと、①抵当権が設定された土地の上の建物には、当該抵当権の効力が及ばないこと、②それ以外の場合においては、抵当権が設定された不動産の付加一体物に抵当権の効力が及ぶことになります。
このうち、①抵当地上の建物に抵当権の効力が及ばないのは、土地と建物とを別個独立の不動産として把握する日本の民法の下ではある意味当然のことです。
A土地に抵当権が設定されても、A土地上の建物には抵当権の効力は及びません。
他方、②付加一体物については、条文の文言上からは必ずしもその意味が一義的でなく、解釈が分かれ得ます。この付加一体物の議論が、民法370条をめぐる中心的な論点となります。
そして、付加一体物が何を指すのかを議論する際に言及される概念が、①附合物、②従物、③従たる権利及び果実です。
附合物とは
不動産の附合物というのは不動産と一体となった(構成部分)となった動産のことを指します。そして、附合物に抵当権の効力が及ぶことについては争いがありません。
不動産の構成部分となった動産については、抵当権の効力が及びます。
土地についていえば、たとえば、抵当地たる庭地に大きく根を張った桜の木などは土地の付合物に該当し得ます。
土地の抵当権が実行されて、土地の所有権が移転すれば、その桜の木の所有権も新所有者に移転します。
その他、たとえば地中深くに埋められた当該土地中の水道管なども、附合物になり、抵当権が及びます。
建物についても同様に考えて構いません。
建物と一体となった動産(たとえば、建物の床版や壁紙、壁内に敷き詰められた断熱材)などが付合物に該当し得ます。
附合物か否かを判断するためのメルクマールは当該動産がその不動産と一体と評価できるかです。
一体と評価できる動産には、当該不動産の付合物として抵当権の効力が及ぶ、ということになります。
たとえば、土地に符合していた立木が必要以上に伐採・搬出された場合、もともと当該伐採木にも及んでいた抵当権の効力はどうなるでしょうか。
この点については諸説あるものの、①当該分離物(伐採木)がその土地上に存在する限りにおいては、なお抵当権の効力が及び第三者に対抗できると考える見解や、②抵当権の効力は、第三者が当該分離物(伐採木)を即時取得しない限り残存する、という考え方が有力です。
従物について
次に従物についてです。
従物とは
不動産の従物というのは、当該不動産と一体となっているとまではいえず、独立性を有しているものの、不動産の価値・効用を助ける物のことを指します。
土地について言えば、たとえば、土地からの取り外しあるいは持ち運びが容易な石灯篭や縁石がこれに該当し得ます。
他方、建物について言えば、建物Aに設置されたエアコンや畳などがこれに該当し得ます。
これらの従物は、取り外し・持ち運びが容易なため、いまだ附合物になっているとはいえないものの、当該不動産の価値・効用を助ける機能を有することから従物と評価されます。
附合物か従物かの判断は必ずしも容易ではありませんが、大ざっぱに言えば、不動産からの取り外しが容易か否か、引っ越しの時に運ぼうと思えば比較的容易に取り外して運べるか、という視点から考えると分かりやすいかもしれません。
従物と抵当権の効力
従物についても、抵当権設定の前、あるいは後になって従物となったか否かを問わず、付加一体物として、抵当権の効力が及ぶと解するのが通説です。
したがって、不動産につき抵当権が実行された場合、当該抵当権の効力により、従物も競売換価の対象となるほか、所有権移転の対象になります
この通説の下では、たとえば、抵当権設定契約当時に存在した建物の畳やエアコンのみならず、当該契約後、新設された畳やエアコンにも抵当権の効力が及びます。
従物も、抵当物の効用を助け、経済的に一体をなす物であることから、抵当権設定前後を問わず、付加一体物(民法370条前段)として、従物に抵当権の効力が及ぶと理解します。
なお、理論構成は異なるものの、判例の立場においても、抵当権の効力は、従物が抵当権設定前あるいは後に設置されたかを問わず従物にも及びます。
判例は、従物は主物の処分に従うため、物にも抵当権の効力が及ぶ、との理論構成をとっています。
従たる権利
また、抵当権は、従たる権利にも及びます。
従たる権利というのは、抵当権の対象となった物に従属して把握される権利です。
たとえば、建物が抵当の対象となった場合における当該建物の敷地の利用権(賃借権や借地権)がこれに該当します。
この例においては、当該利用権や借地権も抵当権にも抵当権の効力が及ぶ結果、競売手続において当該抵当建物を買い受けた競落人は、併せてその利用権も取得することになります。
実際上、当該競売の手続においては借地権の価値込みで競売代金が定められます。
果実について 民法371条
抵当権の効力の及ぶ範囲に関する事項として果実について補足しておきます。
天然果実や法定果実も不動産の付加一体物といえるのではないか、そうだとすれば果実にも抵当権の効力が及ぶのではないか、という発想から生じうる問題です。
ただ、果実については、民法第371条が手当てとなる規定を置いています。被担保債権に債務不履行があった後に生じた果実について、抵当権の効力が及ぶ、という規定です。
この規定に言う果実には、天然果実の他法定果実を含みます。
この規定を反対解釈すれば、民法370条に関わらず、被担保債権が債務不履行に至るまで、果実には抵当権の効力は及ばない、ということになります。
抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
例外(民法370条但書き)
上記のとおり、付加一体物には抵当権の効力が及ぶのが原則です。
不動産に抵当権が設定された場合、附合物(ただし抵当地上の建物を除く)や当該不動産の従物にも抵当権の効力が及ぶことになります(競売にて換価の対象となり、競落による所有権移転の対象となる)。
他方で、民法370条但書きは、次の二つをその例外と定めています。この二つに該当する場合、たとえ付加一体物であったとしても、抵当権の効力は及ばないことになります。
① 設定行為に別段の定めがある場合
② 債務者の行為について第四百二十四条第三項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合
ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第四百二十四条第三項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。