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錯誤の効果 ~無効から取消しへ~

本記事では民法95条が定める錯誤の「効果」について解説します。

錯誤の効果がこの「無効」から「取消」に変わったことから、主張適格や意思表示、消滅時効などの点につき、民法の取消に関する一般的な規律が妥当することになります。

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錯誤の意味や要件については次の各記事で解説しています。一度ご参照いただけますと幸いです。

民法における錯誤~表示・内容・動機の錯誤~

錯誤の要件 原則と例外(+その例外)という枠組みで整理すれば分かる

2020年より以前の民法においては、錯誤の効果は「無効」とされていました。

これが改正により、取消へと変わっています。

改正前・改正後の民法95条

・改正前 民法第95条
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があっ. たときは、無効とする。
⇓ 改正
・改正後 民法第95条第1項
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

取消と無効

「無効」というのは初めから効力が無い、という状態を指します。

錯誤の効果がこの「無効」から「取消」に変わったことから、主張適格や意思表示、消滅時効などの点につき、民法の取消に関する一般的な規律が妥当することになります。

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そもそも「無効」と「取消」は何が違うのでしょうか。

無効と取消という概念の基本的な違いについては、次の記事で解説していますのでご参照ください。

契約の解除・取消・無効について

なお、改正前民法95条の無効は、取消的無効と解釈されていました。

条文上、「無効」と明示されていたものの、解釈上、表意者しかその無効を主張できないなど、その主張適格につき、取消権に類似するものと解されていたのです。

しかし、この取消的無効という考え方は、条文から直截には導けず、民法95条は、その効果について、理解の難しい規定となっていました。

改正民法は、錯誤の効果につき、より端的に、「無効」から、「取消」へと効力を改めたものです。

取消に関する一般的な規律

錯誤の効果は「取消」となりましたので、改正民法では、取消に関する各種規律が妥当します。

以下、錯誤をベースに、取消に関する一般的規律を見ていきましょう。

意思表示が必要

まず、取消というのは「意思表示」です。

このことは「取り消すことができる」という定め方からも理解可能です。

「取り消すこともできる」という規定からは、取り消してもよいし、取り消さなくてもよい、という意味合いが読み取れますよね。それは、表意者に意思に委ねられる。

ただ、現に錯誤を理由に法律効果を打ち消すには、取消権を行使するという意思表示が必要です。

Aさんが錯誤に陥って、契約をし、その効力を打ち消したいとき、Aさんは、契約の相手方に「契約を取り消すね」と意思表示する必要があるのです。

主張権者について

また、その主張権者についても制限が生じています。「主張権者」というのは、「取り消しを主張できる者」という意味です。

民法120条2項によれば、取消の主張権者は、表意者又はその代理人若しくは承継人に限られます。

【民法120条】
錯誤、詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵かしある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

したがって、Aさんが錯誤で契約をした、という場合に、「Aさんの契約は錯誤に基づくものだから取り消すね」と利害関係の無い第三者が錯誤取消を主張することはできません。

消滅時効・除籍期間について

また、改正前民法においては、錯誤無効の主張につき、主張期間を5年に制限をすべきではないか、との議論がありました。

取消権の行使について5年とされている一方で、無効については、消滅時効を定める規定がなかったのです(無効であるとの建前であった以上、規定が無かったのは、当然と言えば当然ですが)。

この点に関し、改正民法では、短期消滅時効を5年と定め、また、後遺の時から20年を経過したときも、権利が消滅する旨を定めました。

(取消権の期間の制限)
第百二十六条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

錯誤を理由とする取消権もこの規定に従うことになります。


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第三者保護規定(善意無過失)の追加

また、改正民法では第三者保護規定が新設されました。

改正民法の下では、取消前に法律上の利害関係を有するにいたった善意・無過失の第三者は保護されます。

錯誤における第三者保護

従来、錯誤における第三者の保護をどのように図るのかは解釈上の問題でした。この点を整備したのが民法95条4項です。

民法95条4項
第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

たとえば買主Aさんと売主Bさんが不動産売買契約を締結した後、さらにAさんがCさんに不動産を転売していたというケースを想定します。

この場合に、Aさんの転売後にBさんが錯誤を主張した場合、取消の遡及効(はじめからAB間の契約が無効なものとして扱われる)により、Cさんは無権利者たるAさんから不動産を取得した、ということになってしまいます。

※錯誤でAB間の契約が無効となると、Aの不動産所有の権利が根拠づけられなくなる。

そうすると、Bさんが取消をすることにより、不動産所有権はBさんの元にあり、所有権が移転していないため、CさんはAさんから不動産を取得できなそうです。

ただ、常にこの結論を維持すると、Cさんの利益があまりに害されます。

そこで、改正民法は、Cさんが善意無過失であれば、取消の効果を対抗できないとして、Cさんの保護を図ることとしました。

善意・無過失

ここでいうCさんの善意というのは、Cさんが錯誤について知らないことです。

また、「過失がない」というのは、大雑把に言えば、Cさんが錯誤を知らないことにつき不注意が無い、ということを意味します。

民法95条4項においては、明文で無過失まで要求されている点に要注意してください。

従前の有力説に従う改正ですが、もともと規定のなかったところなのに、第三者の保護要件が割と重たくなっています。