今回のテーマは、双務契約と片務契約についてです。
契約はいくつかの視点で分類することができますが、この分類方法は当事者の債務の負担の有無によって分類する方法です。
端的にいえば「双務」(「そうむ」と読みます)とは、当事者双方の債務のことを指し、「片務」(「へんむ」)と読みます。)とは、当事者の片方のみの債務を指します。
双務契約とは
法律上の定義によると、双務契約とは、当事者双方が、互いに相手方に対し、債務を負うこととなる契約を指します。
Aさん、Bさんが契約を締結すると、AさんはBさんに対して債務を負うし、BさんはAさんに対して債務を負う、こうした契約のことを双務契約といいます。
売買契約が典型例です。
この双務契約における互いの債務については、従来において3つの牽連性があると言われてきましたが、民法改正により議論が動いています。
双務契約の具体例
双務契約の典型例は売買です。
売買の合意が成立すると、売主は、商品を引き渡すという債務を負い、買主は代金を支払うという債務を負います。
買主・売主ともに相手方に対し、互いに債務を負担していますので、売買は双務契約に該当します。
その他、たとえば、民法に規定はありませんが、業務委託や保険等の契約も、当事者が互いに相手に債務を負担する双務契約です。
双務か片務かで迷ったら、互いに債務を負担しているのか否か、という観点から判断するようにしてください。
3つの牽連性
「双務契約」には、従来、3つの牽連性(関係性)があると説明されてきました。
具体的には、①成立の場面、②履行の場面、③消滅の場面の3つの場面における双方の債務の関係性が議論されます。
以下、簡単に、3つの牽連性について見ていきます。
①成立の牽連性
成立の牽連性というのは、契約の成立時点において、既に一方の債務が履行不能に陥っていた場合に他方の債務は成立しない、という意味での関係性を指します。
一方の債務が契約成立時点ですでに実現不可能で有った場合、他方に債務を負担させることは妥当性を欠くことから、他方の債務も成立しない、という扱いをすることになります。
ただし、この成立の牽連性に関しては、民法改正による影響を受けます。
改正民法では、一方の債務が契約成立の時点ですでに実現不可能であった場合も、原始的無効と扱わず、契約を成立させた上で債務不履行責任の問題として扱いますので、上記のような「成立の牽連性」を議論する必要はないものと思われます。
②履行の牽連性
履行の牽連性というのは、双務契約において、相手が債務を履行しない場合、自分が債務を履行していなくても責められない、という関係をいいます。
双務契約の履行に際して、契約の一方当事者は、相手が同時に債務を履行しないのならば、自分も自分の債務を履行しない、と主張をすることが可能です。これを同時履行の抗弁権といいます。
売買に則してみると、売主は、買主に対して、買主が、同時に代金を支払わないなら、商品の引き渡しはできない、と買主の請求を拒絶できるわけです。
ただし、この同時履行の抗弁権は特約で排除可能であり、実社会においては、どちらかが先に履行するという特約を付されていることが多々あります。
インターネットショッピングなんかは、代金の先払いが前提となっていますよね。
③ 存続の牽連性
存続の牽連性というのは、契約が有効に成立した後になって、不可抗力等により、一方当事者の債務の履行が実現不可能となった場合に、もう一方の当事者の債務も消滅する、という関係を言います。
従来民法における主要な学説の解釈においては、公平の観点から、一方当事者の債務が不可抗力によって消滅した場合、原則として、他方の債務は消滅するとされていました。
これを危険負担における債務者主義といいます。
なお、改正民法においては、一方債務が消滅した場合、当然に他方債務も消滅するのではなく、解除権の行使によって、他方債務も消滅するとされます。したがって、存続上の牽連性は緩和されています。
ちなみに、危険負担の問題についても、特約で変更可能であり、ビジネス上の取引に関しては、個別具体的な合意に際して、当事者間で、負担者・負担の内容を取り決めておくのが通例です。
片務契約とは
片務契約というのは、当事者の一方のみが債務を負担することとなる契約をいいます。
具体例としては贈与契約や消費貸借契約が挙げられます。
双務契約と異なり、相対する債務がないので、相手が履行するのと同時でなければ自分も債務を履行しない、あるいは、相手の債務が不可抗力によって消えた場合に自分の債務がどうなるか、といった牽連性の問題は生じません。
片務契約の具体例
いくつか、具体例を見てみましょう。
贈与
片務契約の典型例は、贈与です。
贈与というのは、贈与をする人のみが一方的に債務を負担するものですので、片務契約です。
消費貸借
また、民法が定める従来的な消費貸借も片務契約の一つです。
消費貸借は、お金を貸し借りが代表例ですが、この契約は、現にお金を相手に貸し渡した(交付した)ことをもって成立します(要物契約)。
ポイントは、契約成立によって貸主がお金を借主に貸し渡す債務を負うのではなく、成立の時点で、既に貸主がお金を借主に渡している(お金を渡したことが契約の成立条件になっている)という点にあります。
契約の成立後、貸主は借主に対して、何らの債務も負担しないので、消費貸借は片務契約です。
有償片務型について
双務契約は同時に有償契約であることが多く、また、片務契約は同時に無償契約であることが多いです。
ただ、両者は必ずしもリンクするものではなく、有償の片務契約というものもあります。
その一つが、従来の消費貸借に利息払いの特約が付された契約です。これは、片務契約でありながら、貸主は元金を出損し、これに対し借主は利息を出損することとなるので、有償片務型に位置付けられます。
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契約は、「有償型か無償型」か、あるいは「双務か片務か」など種々の方法で分類できます。
分類法を知ることは「契約」の理解を深めます。
次のページでは6つの分類法を紹介していますので是非一度ご参照ください。
・契約とは
秘密保持契約(CA・NDA)と双務・片務
最後に、蛇足となりますが、秘密保持契約について言及しておきます。
秘密保持契約というのは、当事者が、相手の営業上の秘密や技術上の秘密が漏えいしないよう、当該秘密を保持する義務を負うことを約する契約をいいます。
この営業保持契約については、契約の一方のみが債務を負う片務型もあれば、当事者双方が互いに秘密を保持することを約する双務型もあります。
このように同一名称の契約であっても、片務・双務のいずれにも該当しうること、押さえておいてください。
双務か片務かはあくまで合意の内容に即して判断することになります。