不動産質について

本サイトでは前2回の記事で、質権及び動産質について解説してきました。

今回は、民法が定める質権の内、不動産質について説明します。

単に質権というときは、この記事においては、不動産質を念頭に置いているとご理解ください。

不動産質とは

不動産質とは、不動産を対象・目的物とした質権を指します。

その性質を一口に言えば、不動産質は、目的物の使用収益権(用益権)を質権者に移転させる形態をとる担保です。引き渡しを受けた質権者が当該不動産を使用し、収益を得ることができる担保だということです。

民法上、不動産を目的物とする約定担保には不動産質のほか抵当権がありますが、抵当権が目的物の価値を権利者が把握しているのに対して、不動産質は、目的物の価値のみならず、使用収益権を権利者が把握している、という点に特徴があります。

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質権とは何か、質権全般に共通する性質などについて解説した記事です。

成立要件と存続期間について

不動産質権も質権ですから、その成立には、設定合意のほか、目的物の引渡しが必要です。

また、不動産質権については、動産質権と異なり、存続期間の限定があります。

不動産質権の存続期間は10年を上回ることができません。これを更新することは可能ですが、更新時にもやはり10年を超えた期間を設定することはできません。

参照:民法 第360条 
1 不動産質権の存続期間は、十年を超えることができない。設定行為でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、十年とする。
2 不動産質権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から十年を超えることができない。

登記が対抗要件

また、不動産質権は、登記が対抗要件になります。

動産質権の対抗要件が占有であるのに対して、不動産質権は、不動産対抗要件の一般原則に従い、その権利を第三者に対抗するには、登記を備えることが必要となります。

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動産質について解説した記事です。不動産質との対比でより理解は深まると思います。

不動産質権の効力

不動産質権も質権ですから、①留置的効力があります。

②加えて、不動産質は、目的物の使用収益権(用益権)を質権者に移転させる形態をとる担保ですから質権者は、使用収益権を有します(ただし、特約で排除することは可能です。)。

さらに、不動産質権には③優先弁済的効力も有り、当該権利に基づき、価値代替物に物上代位を行うことも可能です。

以下、それぞれ見ていきます。

① 留置的効力について

動産質と同様、不動産質には、留置的効力があります。したがって、質権者は、債権の弁済を受けるまで質物を留置できるのが原則です。

ただ、例外もあります。

まず、自己に対して優先権を有する第三者との関係では、質権者は質物の留置を継続することができません(民法347条参照)。

そのため、自己に優先権を有する第三者が当該不動産を競売にかけた場合、質権者が質物の占有を失います。担保の順位によって配当を受けることができるだけです。

また、民事執行法によれば、使用及び収益をしない旨の特約がある不動産質権は競売により消滅します。当該不動産が競売に欠けられた場合、不動産の売却によってその質権が消滅することになるわけです。

そのため、質権者が最上位の担保権者であったとしても同質権者は目的不動産の留置を継続することができなくなります。

参照:民事執行法第59条第1項
不動産の上に存する先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権は、売却により消滅する。

② 使用収益権

不動産質権者は、特約がある場合や、担保不動産収益執行が開始された場合(以下、両者を合わせて「特約がある場合等)といいます)を別にして、目的不動産を使用収益できます(民法356条、民法359条)。

不動産質権は、担保権であるのに使用収益が可能であるという点で、かなり特異な性質を有する権利と考えてよいです。

ただ、不動産質権者たる債権者は、使用収益によって利益を得ることができるのですから、特約がある場合等を除き、当該債権者は、債務者に対して、債権の利息を請求することはできません(民法358条、民法359条)。

また、不動産質権者は、使用収益可能な反面、特約がある場合等を除き、当該不動産の管理費用その他不動産に関する負担を負います(民法357条、民法359条)。税金など、公租公課の負担もここに含まれます。

概して、不動産質権者は、使用収益という権能を有する反面、種々の負担を負っている、ということになります。

参照:民法356条
不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。

参照:民法357条
不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担を負う。

参照:民法358条
不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。

参照:民法359条
前3条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行(民事執行法第180条第2号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは、適用しない。

③ 優先弁済的効力

不動産質権については、その性質に反しない限り、抵当権の規定が準用されます(民法361条)。したがって、不動産質権者は、競売の方法により担保権を実行して、自己の債権の優先回収を図ることができます。

なお、動産質に認められる簡易な弁済充当の方法による債権回収は、不動産質については不可です。

④物上代位

また、不動産質権には、動産質と同様、物上代位性があります(民法350条、民法304条)。

たとえば、不動産が地震により倒壊したことに起因する地震保険金などにつき、不動産質権者は物上代位をすることが可能です。