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錯誤と損害賠償請求

本記事では、錯誤の関連論点として、表意者の相手方又は第三者からの損害賠償請求について検討します。

たとえば、Aさんを買主、Bさんを売主とするケースで、Aさんが「不動産を買う」という意思表示を錯誤により取り消した場合、Bは、Aに対し何らの請求もできないのでしょうか。

Bは、売買契約の成立に際して、仲介業者に仲介費用を支払っていたかもしれません、契約書の印紙代を負担していたかもしれません。

Bはこうした費用を負担していたにもかかわらず、Aから錯誤取消(従前民法では錯誤無効)を主張されると、売買による利得は得られず、これまでの手間暇・費用負担がおじゃんになってしまいます。

こうした損害をBはAに賠償して、とはいえないものでしょうか。

ローテキスト

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「錯誤」の意味や概念については次の記事で解説しています。ぜひ一度ご参照ください

民法における錯誤~表示・内容・動機の錯誤~

相手方からの表意者に対する請求~肯定説~

この問題は、肯定説・否定説両方成り立ちえますが、現在の通説的な考え方は、肯定説です。

請求は可能と考えられる。

肯定説は、上記のようなケースにおいて、BがAに損害賠償請求をすることは可能と考えます。

民法95条のどこにそんなこと書いてあるの?と思われるかもしれませんが、この問題については民法95条をみていても、答えは出ません。

もちろん、民法95条の行間(解釈)にも答えはありません。

根拠規定

根拠となる規定は、民法709条です。

民法709条は、一般不法行為責任に関するルールとして、次のように定めています。

民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法709条の規定の意味は、わざと、又は不注意によって、人の権利や利益などを侵害した者は、その侵害によって生じた損害を賠償する責任とらなければならない、という意味です。

そして、この709条に基づく責任は、債務不履行責任と異なり、契約関係に無い当事者間でも妥当するルールです。錯誤取消(錯誤無効)の当事者間においても、妥当し得ます。

したがって、上記の例では、BはAの過失を主張・立証することで、Aに対して、自己に生じた損害の賠償を求めることが可能と考えられます。

※Aに、重大な過失がある場合、Aは通常、取消ができませんので、ここでは主として、Aに軽過失がある場合が想定されます。

ローテキスト

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錯誤の要件論に関し「表意者に重大な過失」がある場合、表意者は取り消しの主張ができなくなります。

詳細については次の記事をご参照ください。

錯誤の要件 原則と例外(+その例外)という枠組みで整理すれば分かる

その他の見解(否定説・信義則等)

上記は、表意者に過失があった場合には不法行為責任に基づき、相手方に対して損害賠償責任を負いうる、という考え方ですが、否定説や信義則説といわれる考え方も成り立ちえます。

否定説

否定説は、民法95条には損害賠償に関する規定が置かれていない、ということを根拠とします。

仮に、表意者に軽過失があったとしても、表意者は、取消権を行使できる、これは軽過失のある表意者を保護する趣旨であり、このような表意者に対して、不法行為責任に基づいて、損害賠償責任を認めるのは背理ではないか、という価値観に依拠するものと思われます。

取消と同じく、契約の効力を打ち消す解除に関して、民法545条3項が、「解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。」と定めているのに対し、民法95条にはこのような規定はないではないか、と言われると、否定説にも、一定程度、説得力を感じます。

しかし、現実の問題解決として、実損害が出ているのにその手当が不要、というのは、結果の妥当性を欠くきらいがあります。

信義則を媒介とする考え方

また、近時の法解釈あるいは実務的な考え方とはかなり乖離しますが、信義則を媒介させる考え方もありえないではありません。

かつて、「契約締結上の過失」という論点において、契約締結上の過失がある場合における損害賠償請求権の根拠を、①「信義則上求められる付随義務違反」等に求める説と②「不法行為責任に基づく」という考え方とが強く対立していたことがありました。

この契約締結上の過失の考え方を錯誤の場面に置き換える(錯誤取消がなされた場合に有効な契約が成立していないという点で、利益状況が類似する)と、①信義則を媒介に、付随義務を認定し損害賠償請求をする、という考え方も、成り立ちえないとは言い切れません。

もっとも、現在は、契約締結上の過失に基づく責任も不法行為責任であるという平成23年4月22日最高裁判決の考え方が主流であり、錯誤の場面で、あえて、信義則上の義務から損害賠償責任を導く必要性は薄いように思われます。


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第三者からの請求についてはどうか。

最後に補足的に、民法95条4項で保護されない第三者が「表意者」や「相手方」に対して損害賠償を請求できるか、という点について検討します。

結論⇒私は、要件を満たす限り、第三者から、相手方や表意者に対して損害賠償請求をすることは可能と考えます。

ただ過失相殺の主張がなされるケースも想定されます。

問題の所在

改正後民法95条では、第三者保護規定が置かれています。

たとえば、買主Aと売主Bの売買後、CがさらにAから不動産の転売を受けたというケースで、後になって、売主Bが錯誤による取り消しを主張したとします。

この場合、Cは、善意無過失であれば保護されて不動産を有効に取得できますが、そうでない限り、不動産を取得できません(改正民法95条4項)。

その場合に、Cは、AやBに対して、損害賠償請求を追及することはできないでしょうか?

以下、私見も混じりますが、この第三者からの損害賠償請求について考えてみます。

債務不履行責任ないし不法行為責任の追及

まず、上記のようなケースにおいては、民法においては、CはAに対して契約の解除を求めることができると解されます。

そして、Aに帰責性がないといえなければ、CはAに対して債務不履行責任を問うことができそうです。

また、AやBに過失があり、Cが当該過失に因って損害を被っていれば、Cは民法709条を根拠に、AやBに対して不法行為責任に基づく損害賠償を行うことが可能と考えられます。

過失相殺の対象となりうる

もっとも、第三者から表意者や相手方に損害賠償請求をする場合、相応の過失相殺の主張がなされることが予想されます。

そもそも、錯誤取消の場合において、第三者が保護されないのは、第三者に少なくとも過失がある、とされる場合です(改正民法95条4項)。

この過失は損害賠償の場面においても問疑の対象となるかもしれません。

過失の対象に「ずれ」があり、議論の余地はあるものの、Cが損害賠償請求をする場合、Cは、AないしBから過失相殺の主張がなされることも見込まないといけないかもしれません。