今回は、民法における「代理行為」の要件についてです。規定しているのは民法99条。
【第1項】
代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
【第2項】
前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。
※第1項は、代理人が行う意思表示についてであり、第2項は第三者が代理人に対して行う意思表示を代理人が受領する場合について規定しています。たとえば、Aさんの代理人Bさんが代理人として、「買う」「売る」の意思表示をする場合は第1項、Cさんが行う「買う」「売る」の意思表示を受ける場合は第2項が適用条文となります。
必要とされる要件は次の3つです。
- 代理権があること(代理権の発生原因事実が存在すること)
- 顕名がなされていること
- 権限内で代理人が意思表示を行ったこと
以下、具体的に見ていきましょう。
① 代理権の発生原因事実
要件の一つ目は、代理権の発生原因事実です。法定代理と任意代理とで発生原因は分かれますので、順にみていきます。
法定代理権について
法定代理権というのは、その名の通り、法律で付与された代理権をいいます。
たとえば、未成年者についてみると、一般的なケースにおいては、親権者らには、未成年者に代わって法律行為を行う包括的な権限が与えられています。ここでは、法律で直截に権限が与えられているわけです。
その他、後見人は、被後見人に代わって法律行為をする権限を有します。これも法律により与えられた権限です。
このように、法律で付与されている権限を法定代理権といい、その権限を有する者を法定代理人といいます。
ここでは、法律で定められた事実「たとえば未成年者の親であること」「被後見人の後見人であること」が、代理権の発生を基礎づけます。
上記親権者などの法定代理人が本人に代わって一定の行為をする場合、契約などの相手方から、その地位を証明しろ、と求められることがあります。
相手方からみれば、本当にその人物に代理権があるのかないのか証明する書類がないと、契約締結などに至るに際して、不安を覚えるのも当然です。そこで、法定代理人側は、その地位を証する書類を準備することになります。
その書類としては、たとえば、未成年者の親権者については、親権者であることを証するための戸籍謄本があげられます。また、被後見人の場合については、後見人であることを証するための後見登記などがあげられます。
任意代理権について
次に、任意代理権を見ていきます。これは、本人がその意思に基づいて第三者に与えた代理権のことを指します。
たとえば、次のような例が挙げられます。
- プロ野球選手がエージェントに契約交渉・締結の権限を与える。
- 弁護士に契約締結の権限を与える。
- 会社が従業員に契約締結のための権限を与える。
本人が第三者に権限を付与する上記のような行為を代理権授与行為といい、代理権の発生を基礎づけます。
たとえば、顧客が弁護士に代理権を付与する場合、弁護士との委任契約ないし委任状の作成が代理権授与行為に該当します。
② 顕名
有効な代理行為に必要な二つ目の要件は顕名です。
そもそも代理は、本人に代わって、本人のために意思表示を行うものです。ここで重要なのは、その行為は「本人のために」なされるべきものであるということです。
そのため、法律行為を行うに際しては、その行為をだれのために行うのかを相手方に明らかにすることが求められます。
民法99条1項の規定に即していえば、「本人のためにすることを示して」行うことが求められるわけです。
これを「顕名」(けんめい)といいます。
ここで関連記事を紹介。
顕名については、関連記事もご参照ください。教科書で深く掘り下げられることが少ない顕名について、条文上の基礎知識、顕名を欠く場合の法律上の効果等を解説しています。
顕名の方法
顕名の方法については、法律上、特別のルールは定められていません。本人のためにすることが明らかにされていれば要件は満たします。
口頭での契約であれば、本人の代理人であることを相手に告げれば足ります。
とはいえ、重要な契約に際しては、代理行為も書面で行うのが一般です。書面で顕名がなされる場合、通常は、次のような記載がなされます(以下、例として出した氏名は、いずれも架空のものです。)。
法定代理の場合の顕名
一例として、未成年者山田太郎の親権者 母(単独親権とする)が顕名をする場合、書類の契約者欄には次のような記載がされます。
「山田太郎 法定代理人親権者 母 山田花子 印」
また、共同親権において、父母双方の顕名を要する場合は、たとえば、次のような記載ぶり(両名併記)となります。
「山田太郎 法定代理人親権者 母 山田花子 印」
「同法定代理人親権者 父 山田一郎 印」
単に法定代理人とだけ書くのではなく、「親権者」とも記載するのは、その権限の根拠たる地位を示すためです。
任意代理の場合の顕名(表記の方法と署名,捺印)
任意代理の場合も、当然、顕名は必要になります。
たとえば、山田太郎氏の任意代理人として佐藤花子氏が売買契約を締結する場合、次のような記載ぶりとなります。
「山田太郎 代理人佐藤花子 印」
また、ビジネスなどの場面では、会社が代理人になることもあろうかと思います。
この場合には、たとえば次のような記載方法が考えられます。また、顕名とは無関係ですが、場合によっては、代表者のみならず、担当者の記載をすることもあります。
「山田太郎 代理人 佐藤商事株式会社
同社代表者代表取締役 佐藤花子 印」
顕名がない場合
顕名なくなされた法律行為は、原則として、代理人が自分のためにしたものとみなされます(民法100条本文)。
代理人が行った効果が自分自身に帰属する、というわけです。
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。
顕名なくなされた行為というのは、代理人が自分の名前だけで契約をした場面などが想定されます。
上記の会社が代理人となる例でいえば、契約書に佐藤商事株式会社の名前しかでてきませんから、相手からしてみれば、佐藤商事株式会社が契約の当事者だろう、と考えるのも自然です。
そこで、民法は、このような場合に、代理人(上記例では、佐藤商事株式会社)に原則として効果が帰属する、としています。
ただ、顕名主義の例外として、相手方が、代理人が本人のためにすることを知っていた場合などにおいては、当該行為は有効に本人に効果帰属します(民法100条但書)。
上記佐藤商事株式会社の例では、相手方が、佐藤商事株式会社が、山田太郎さんのために契約をしたと知っていたのであれば、契約の効果は山田太郎さんに帰属します。
このような場合に本人に効果帰属させても、相手方に不測の損害は生じないからです。
補足:商法504条について
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③ 代理人による意思表示

最後の3つめの有効要件が、代理人による意思表示がなされたことです。
当たり前といえば当たり前ですね。これがないと、法律効果発生のための契機が何もありません。
この要件に関して注意すべきは、代理人による意思表示は、「与えられた権限の範囲内」でなされたことを要するという点です。
民法99条に即していえば、当該意思表示が、代理人の「権限内において」なされたといえることが必要です。
たとえば、売買に際して、Aという商品の購入についてのみ権限を与えていたのに、代理人が勝手にBという商品のほうが良いと考えて、B商品を購入する行為は無権代理となります。
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代理権の授与にかかる権限の範囲の確認は実務的には極めて重要です。また、資格試験の対策をしている上では、「代理人の権限の範囲」は、テキストなどで詳細な解説が無く、机上の理解となりがちです。
ぜひ次の記事をご参照いただければと思います。
【補足】
また、やや細かい点ですが、一つ目の要件(代理権限の存在)は、この3つ目の要件(代理人による意思表示)の論理的・時間軸的な前提となります。