「シフト0日」の代償:裁判所は見透かしていた?「サイレント解雇」という悪手のリスク

労働組合に入ったら、「シフトをゼロにされた」というケースが弁護士.JPニュースで紹介されていました。

https://www.ben54.jp/news/3511

1. 事案の要約:裁判所が下した「NO」という審判

記事による概要はつぎのとおり。

介護事業所等でアルバイトとして勤務していたAさんは、当初、月15日前後のシフトで安定して働いていました。しかし、労働組合への加入と団体交渉を機に、会社側はシフトを急激に削減。最終的には「月0日」という、事実上の就労不能状態に陥りました。

これに対し、Aさんが「シフト削減は違法な嫌がらせである」として提訴したのが本件です。裁判所は以下のプロセスで判断を下しました。

  • 勤務実績に基づく「期待権」の承認
    Aさんは「週3日勤務の合意があった」と主張しましたが、契約書には「シフトによる」との記載があり、特定の勤務日数を保証する明確な合意は否定されました。しかし裁判所は、長年の勤務実績がある以上、労働者には「今後も同程度の無収入が得られる」という正当な期待(期待権)があることを認めました。

  • 「シフト決定権」は無制限ではない
    会社側は「シフトを組むのは経営の自由だ」と主張しましたが、裁判所はこれにブレーキをかけました。収入に直結する大幅なシフト削減を行うには「合理的な理由」が必要であるとの基準を示したのです。

  • 会社側の反論を「証拠なし」と一蹴
    会社は「Aさんが自ら勤務を拒否した」と反論しましたが、客観的な証拠に乏しく、裁判所はこれを「具体的理由のない削減」と認定。結果として、使用者の決定権限を濫用したものとして違法性が認められ、慰謝料約13万円の支払いが命じられました。


2. 独自視点:裁判所は「サイレント解雇」を見透かしたのか

この記事からは、法理の裏側で、経営側の「意図」に対する裁判所の非常に厳しい視線が感じられます。

① 「サイレント解雇」を推認させる外形の不自然さ

この事案の最大の特徴は、あまりに露骨な「タイミング」と「減らし方」にあります。

本来、解雇を検討するのであれば、会社は正当な解雇理由を提示し、解雇予告手当を支払うなどの法的責任を負わなければなりません。

しかし本件では、そうしたプロセスを一切踏まず、シフトをゼロにするという「実力行使」によって、労働者が経済的に立ち行かなくなり、自ら「辞める」と言うのを待つような形をとっているようにも見受けられます。

裁判所が「合理的理由がない」と切り捨てた背景には、こうした経営側の不誠実な意図を静かに見透かした側面があったのではないか――。

② サイレント解雇という選択が招く「最大のリスク」

「黙って追い出す」という手法は、一見すると争いを避けるスマートなコストカットに見えるかもしれません。しかし、実務上は経営において最もリスクが高く、そして何より「かっこ悪い」選択肢です。

  • 「逃げの姿勢」が不法行為の証拠になる
    正面から向き合うことを放棄し、兵糧攻めのような形で排除しようとするプロセスは、法廷においては「不当な排除の意図」を推認させる強力な間接証拠になり得ます。

    仮に、本件のように、会社側の反論が「後付けの言い訳」と判断されてしまえば、もはや弁解の余地はなくなります。

  • 組織の美学とレピュテーションの喪失
    「誠実な対話ができず、気に入らない人間は陰湿な方法で排除する会社」というレッテルは、他の従業員の士気や今後の採用に長期的な悪影響を及ぼします。経営における「美学」の欠如は、結果として最も高くつくコストになりえるのです。


結論:経営に「誠実さ」という防衛策を

経営において「サイレントに、波風立てずに済ませよう」とする姿勢は、結果として最も騒がしく、不名誉な敗北を招くリスクを孕んでいます。

今回の裁判例は、単なるシフトの多寡を争ったものではなく、「決断の責任から逃げたマネジメント」に対する裁判所からの無言の警告であったのかもしれません。

「辞めさせたいなら、卑怯な真似をせず、正々堂々と理由を述べて話し合え」 そんな、法理以前の極めてシンプルな道徳が、この判決の行間から問いかけられているようにも思われます。